雑誌『キング』p.118中段 幻兵団の全貌 D氏 情報将校

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.118 中段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.118 中段

もう、帰ってから一年の余になりますが、本当ですよ。合言葉はきいていませんです。

しかし、今でもまだハッキリと、あの言葉は耳に残っています。時々、街角でマーシャではないかと思って、ハッとするような婦人をみかけることもあるんです。

『また、東京でおめにかかりましょう』

あの女なら、本当にもう一度、逢ってみたいような気もします…。

四、D氏の場合(談話)

D氏(特に名を秘す、四十一歳、元大尉、東京都、アルマアタ地区より二十五年に復員)

私は収容所で大隊長をしていた。軍隊時代には情報将校だった。昭和二十二年の春のこと。組織の力で所内の生活を改善しようと計画をたてていた時、反ソ的だというのと、何事かを企図していると密告され、また、情報関係だったという密告もあって、逮捕されたのである。

四月二日のこと、作業に出ようとしていたら、六、七名が転属だといわれ、私の名も入っていたので、仕度をして集合した。ところが、私一人だけ、NKの下士官が拳銃をつきつけて、約四キロはなれた他の収容所の近くにある監獄に入れられた。

ここは戦犯を調べるところらしく、レンガ造りの