働大隊にいる時のこと、NKの少尉と通訳の少尉に呼び出され、ドアに鍵をかけて履歴を書かされたのち、このことを一切口外しないと一札をとられて帰された。第二回は一週間後、ソ連と日本の政治形態を比較して政見を書け、と強いられ、第三回はさらに三週間後に呼び出された。
『あなたはこの誓約書にサインして私達の仕事に協力して下さい』
『私は日本人を売ってまで帰りたくない』
『妻子がまっているのに帰りたくないか』
『嫌だ、何回いわれても人を裏切るようなことをしてまで帰りたくない。絶対に嫌だ』
少尉は腰から拳銃を取り出すと私の胸につきつけた。私は叫んだ。
『撃てるなら撃て!』
『………』
少尉の眼は怒りにもえて無言だ。
『………』
『日本人捕虜を射殺してよいという、ソ連の法律があるのか!』
少尉は再び銃口をあげた。二人の息詰まるようなニラミ合いが数分も続いたのち、少尉は拳銃を腰へもどしてしまった。
あとがき