黒幕・政商たち p.098-099 知らぬ存ぜぬの奇怪なお話

黒幕・政商たち p.098-099 何千万、何億という金が、使途不明になるということは、あまりにもバカゲているではないか。
黒幕・政商たち p.098-099 何千万、何億という金が、使途不明になるということは、あまりにもバカゲているではないか。

福田一議員の側近筋では、「弘さんというのは、全くのお坊ッちゃんで、そんな悪事のできる人ではない。第一、芝で喫茶店を経営しているのだから、喰うに困るわけじゃなし、誰か、

悪い朝鮮人にカツがれたのではないだろうか」と、はなはだ同情的であるが、福田弘、金沢政男の両代表取締役の下には、I大蔵省係長、I通産省といった、元役人二人もいるのだから、そもそもの、この会社の構想は、このあたりからスタートしていると見られよう。

大臣もひっかかった知能犯罪

当の福田一議員は、人を介して「全日本流通機構という会社のことに関して、ユスられているということはない。すべて、弁護士にまかせているので、私からは何もお話することはない」として、これまた、否定的な返事である。日綿にしても、全面否定しているが、銭高組が宅地造成、葵(あおい)土木が施工とまで、スケジュールが決まり、業者名まで、明らかになっているのに、そんな事実はない、というのも、解せないことではあるまいか。

また、顧問、相談役の諸氏が、これまた、知らぬ存ぜぬの奇怪なお話である。福田弘が事前に、福田赴夫蔵相のもとを訪ねて、御高話を拝聴している事実がある(村上官房長答弁)ところからみるとやはり、諸先生方にも、しかるべき何らかの手が打たれているとみられるのに、今となっては、鹿十(シカトウ、花札の十月の鹿が横を向いていることから、知らぬふりをすること)とは、これまた、解せないお話でもある。

日綿と三和銀行とのつながりに関しても、大阪の消息通はこう語る。

「この話は私も聞いてはいた。しかし裏付けをとることは、むづかしいことですよ。何故なら、この事件の関係者は、みな〝おとな〟だからネ……」

最後に、さとう印刷の佐藤社長は、首をかしげながら、こう語る。

「すべて麻生先生におまかせしたので、不渡り手形も、私の手許にはない。また、私のもとに、警視庁の刑事が二人、訪ねてきて事情をきいてはいったが、もう、それっきりです。どうなっちゃったのでしょうね」

事件があって、被害者が出た。関係者の父親が見舞金を出した。——これは、事実である。しかし、被害者は他には現れてこない。

事件があって、加害者が出た。ユスってるから、遊んでも喰えるという男がいるのだから、これも事実だ。しかし、ユスられている被害者がいない。

名前の出てくる人、会社。みんなが否定している事件——これを、〝怪談〟といわないでいられようか。警視庁の刑事すら、その足跡を消してしまっている。現職の大蔵大臣が否定し、元通産大臣が否定しているが、両省の役人の古手が加わっている会社の、知能的な犯罪! この両者の否定を、国民に納得させてくれるものは、一体、誰なのか。

何千万、何億という金が、使途不明になるということは、あまりにもバカゲているではないか。そして、今ごろはまた壮大な本社ビルを新築したミシン会社から、相当な金額の金が、Y たちのグループに、流れ出しているにちがいない。