黒幕・政商たち p.164-165 警察と取締官とは犬猿の仲

黒幕・政商たち p.164-165 この五八条が問題なのである。警察官には許されていない、取締官だけの特権である。ということが、この両者の宿命的対立を招いているのである。
黒幕・政商たち p.164-165 この五八条が問題なのである。警察官には許されていない、取締官だけの特権である。ということが、この両者の宿命的対立を招いているのである。

イヤ〝意外な発展〟といっては、正鵠を失しよう。兵庫県警の狙いは、近藤所長以下の、麻

薬取締官の逮捕であったといってもよかろう。つまり、商売仇をヤッつけたのであった。その意気ごみが、鈴木の調書の導入部の作文に、ハッキリと謳われているではないか。

麻薬取締官というのは、麻薬取締法第五四条に、麻薬取締員と共に、その職務権限が示されているが、「厚生大臣の指揮監督を受け、麻薬取締法、大麻取締法もしくはアヘン法に違反する罪、刑法アヘン煙に関する罪、麻薬もしくはアヘンの中毒により犯された罪について、司法警察員として職務を行う」のである。

従って、武器の携行も許されており、「その他の司法警察職員とは、その職務を行うにつき互に協力しなければならない」とまで、定められているが、現実には、麻薬に関しては、警察と取締官とは犬猿の仲である。

さらに、同法第一二条は、「麻薬は、何人も輸入、輸出、製造、製剤、譲渡、譲受、交付、施用、所持、廃棄してはならない」と、厳しい禁止規定を設けてはいるが、同じく五八条で、「麻薬取締官は、麻薬に関する犯罪の捜査にあたり、厚生大臣の許可をうけて、この法律の規定にかかわらず、何人からも麻薬を譲り受けることができる」と、譲り受けに関して、免除条項がある。

この五八条が問題なのである。警察官には許されていない、取締官だけの特権である。ということが、この両者の宿命的対立を招いているのである。つまり、取締官が司法警察員の職務

(犯罪捜査)を行えるのは、麻薬関係だけである。彼らの経歴の多くは、いうなれば、ポッと出の薬剤師で、捜査に関しては、まるでズブの素人である。長年、捜査で叩きあげてきた、職人肌の刑事にとっては、そこが不愉快でならないという、その感情も理解できよう。

Gメンと警官の反目

刑事たちは、麻薬の不法所持者、密売人や中毒患者をみつけ出せば、いわゆるヒッカケ逮捕(他の犯罪容疑で逮捕)もできるし、日本の捜査の現状が、岡ッ引捜査(ショッピいてきて、叩いて、泥を吐かせる)であるだけに、丹念な積み重ね捜査しかできないのである。つまり、麻薬の譲り受けが許されてないから、密売ルートの中に、潜入できないのだ。

これに対し、取締官は、他の法律を援用できないからもちろん、ヒッカケや岡ッ引捜査ができない。つまり、麻薬そのものにタッチして、これを検挙するしか犯罪捜査の手段がないのである。これは、いわば、オトリ捜査である。取締官が、自ら麻薬を買いに行って、その譲り渡しの相手を捕まえる以外に、手がないのである。

この辺のところに、両者の「捜査線」の交錯が生ずるのである。警察が長時間をかけ、遠くからジッと見つめているところへ、取締官がその「線」の中に入りこんで、逃がしたり、警戒されたりして警察の捜査を、ブチ壊すケースが多いことなど、容易に想像されるのである。