黒幕・政商たち p.212-213 暴力団員が〝たまたま〟傍聴

黒幕・政商たち p.212-213 吹原・森脇事件の公判廷で児玉誉士夫氏が「森脇被告におどかされた」と申し立てた事件。〝児玉と河井次席検事のデッチあげ〟は、朝日だけ書いてある。
黒幕・政商たち p.212-213 吹原・森脇事件の公判廷で児玉誉士夫氏が「森脇被告におどかされた」と申し立てた事件。〝児玉と河井次席検事のデッチあげ〟は、朝日だけ書いてある。

真の支配者は誰か

〝児玉アレルギー〟の震源地

虚業家が政治家に結びつこうとするなら、ゴロ新聞雑誌は大企業に喰いつこうとする。彼らはその草創期においては、広告収入がないために何とかして喰いついて、広告をとらねばならないからだ。その〝苦闘〟時代を終って、安定期に入った新聞社や雑誌社、しかも政界新聞、経済雑誌などでは、そのような過去を、口を拭って素知らぬフリをしているのもある。このような連中が、〝トリ屋〟である。総会屋の経営するものとは、若干の違いがある。

例えば、サイエンス・ランドの項に登場して頂いた、「新評」の御喜屋康太郎氏などは、スケールが大きくて〝トリ屋〟には入らないし、進歩的な編集で知られる綜合雑誌「現代の眼」の社長木島力也氏なども、また別の意味で〝トリ屋〟ではない。

木島氏は、総会屋の親分の住込書生からスタートした、立志伝中の人物である。親分が警視庁に逮捕されるや、雨の日も風の日も休まず差入れに通って、刑事たちに感心されたという。

大会社の総務担当者(総会屋、トリ屋係)たちの評判も良いし、経済雑誌をさけて、進歩的

綜合雑誌に注目したあたり、さすが〝代議士〟たらんとするだけはある。

ここで注目をしなければならない事実がある。

八月七日、吹原・森脇事件の公判廷で弁護側証人として出廷した児玉誉士夫氏が、証言前に特に発言を求めて、「森脇被告におどかされた。暴力団をよこして、証言をかえろといわれた」と、裁判所に申し立てた、という事件である。

この新聞報道をみると、三紙はそれぞれ三段ほどで書いているが、一番詳しい八日付の東京タイムズ(共同通信の原稿と思われる)をみてみよう。「証言訂正でおどす、児玉誉士夫氏が爆騨宣言、保釈取り消しか」という三段見出しの記事である。

読売、毎日には〝スイス亡命説〟はあるが〝児玉と河井次席検事のデッチあげ〟はなく、朝日だけ「児玉氏と捜査当局が結託して、デッチあげた事件」だと書いてある。

総長会食事件を報じた、「財界展望」という経済雑誌は、九月一日号で八月二十九日の発売である。この雑誌の体裁から類推すると、表紙にまで刷りこんだトップ記事であるから、原稿の締切は二週間から三週間前の、八月八日から十五日までの間である。大体、十日前後と見るべきであろう。

さて、前記の児玉証言の記事である。読み通してみると、児玉氏を〝オドカ〟した二人の暴力団員が、〝たまたま〟傍聴にきていたので、検察側が即座に在廷証人として申請して、対決

の結果、児玉証言を裏付けたというものである。しかも、〝その事実〟によって森脇被告らの保釈取消しの検討をした、という内容である。