さて、前記の児玉証言の記事である。読み通してみると、児玉氏を〝オドカ〟した二人の暴力団員が、〝たまたま〟傍聴にきていたので、検察側が即座に在廷証人として申請して、対決
の結果、児玉証言を裏付けたというものである。しかも、〝その事実〟によって森脇被告らの保釈取消しの検討をした、という内容である。
何という猿芝居であろうか。そして、何という被告らへの〝オドカシ〟であろうか。
児玉証言の〝事実〟の有無ではない。朝日記事の通り〝児玉氏と捜査当局の結託〟が、これほど明らかに示されたことはあるまい。今、政財、官界を問わず、名のある人、金のある人に一番コワガラれているのは、〝右翼の巨頭〟と紹介され〝政界の黒幕〟と呼ばれる、児玉誉士夫その人であって、新聞雑誌の記者、編集者たちが、「児玉」と聞いただけで緊張し、その姓名を活字にするのを避けようとする奇妙な〝児玉アレルギー〟の震源地ではないか。
その人物が、逆にオドカされたとは! しかも博徒という連中が、何の理由でツマラヌ裁判の傍聴に、二人打ち揃ってきていたというのか? 仲間の傷害裁判ならともかく、政界裏面の〝黒い霧〟に、この御両人はそんなに興味があったのか? そして、素早く在廷証人を申請して対決させる公判検事。
もちろん、弁護側の児玉証人と公判検事との、事前の十分な打ち合わせで、脅迫者二人を呼びよせての茶番劇であることは、東タイの記事で明らかである。朝日は「立会いの藤本一孝検事」の名前を出しているが、私が調べてみると難波主任検事のほかに、同事件の捜査検事である、地検特捜部の大熊昇検事も公判に出ている。
サル芝居に踊る被告・森脇
大熊昇検事。特捜部のエースと呼ばれ、河井次席検事の〝秘蔵ッ子〟である。特捜部の情報(内偵)担当で、重要な〝事件〟は主としてこの人に割り当てられる。日通事件の最中に、防衛庁・伊藤忠事件が起き、これを機密ろうえい事件として、地検公安部が捜査することになるや、特捜部から公安部に出張して、事件の捜査経過にタッチしていた。記者クラブの見方は、大熊検事が昨秋ごろから、「汚職」事件としての防衛庁事件を手がけていたからだという。
このことをさらに〝解説〟して、「日通で忙しいから、今はスパイ事件だけにして、あとで特捜が汚職をほるための資料あつめ」説と「折角、公安部に割り振って、スパイで喰い止めようとしているのに、公安部に暴走されて、掘られすぎるのを防ぐ」説との二説がささやかれる。
事実、伊藤忠商事ばかりが〝悪役〟にされて、防衛庁事件は終わった。今秋のFX以降、伊藤忠商事は、防衛庁特需に肩身がせまくなるのは当然だし、現役将官の自殺者まで出ているのだから、伊藤忠は〝商戦〟に参加できなくなろう。機密ろうえい事件の事実関係はさておき、伊藤忠の脱落で利益を得る者は誰なのか? どこの商社なのか?
大熊検事が、昨秋から手がけていた情報捜査となると、そのネタモトは誰か? ということ になってくる。話はさかのぼって、ロッキード・グラマン空中戦以来の、登場人物たちを調べねばならない