2 八月二十一日欧米第五課に、一両日中に前記二名が旭川に行くからと連絡があった。
3 八月二十三日午後七時東京駅発列車にて、参事官兼政治顧問代理ルーノフ、領事部書記サベリヨフの両名が北海道へ出発した。
4 八月二十五日午前十時四十分旭川駅へ到着した。両名は直ちに北海ホテルに入り、午後一時四十分まで休憩した後、旭川方面隊を訪れ、隊長に面会、午後二時十分頃まで会談し次の申入れを行った。
a 樺太と北海道は近接しているので、色々の問題が起ると思うがお互に円満に解決して行きたい。
b 拘留中のソ連船員四名に面会させてほしい。
c 四名を出来るだけ早く釈放してほしい。
これに対し隊長から『旣に事件は検察庁に送致してあるので、詳細は検察庁で聞いて貰いたい』と回答した。
5 そこで両名は引続き、旭川地方検察庁を訪れ、午後二時二十分より同五時三十分の間検事正と面会。国警とほぼ同様の申入れを行ったが、交渉に先だち『ソ連代表部員として公式の立場で交渉したい』と申出た。これに対し検事正は、『公式の立場の交渉は検察庁の管轄外であるから、外務省へ行ってもらいたい』と拒否したので、結局個人の立場で交渉した。
ソ連側の申入事項は
a 四人のソ連人に面会させてほしい。
b 果物等の差入れをしたい。
c ソ連船に弾痕があるというニュース映画を見たが、賠償を要求したい。
d 小樽へ行ってだ捕された船を見たい。
これに対し検事正は
a 逮捕は国内法に基き合法的に行われたものである。
b 拘留は三十日迄あるので釈放の時期は分らない。
c 四人に対する面接は、裁判所から禁止命令が出ているので応じられない。
d 差入については便宜を図る。
e 弾痕の問題については、海上保安庁の管轄であるから回答できない。
f 船は外から見る分は羡支えないだろうが、大事な証拠品だから中に入ることは出来ない。
と回答した。
これに対してルーノフ氏から『ニュース映画にも内部まで出してあるのに何故見せられないか。ニュースで見ると、弾のあたった痕が出ているが、小樽へ回航したのは弾痕の修理をするためじゃないか』との追求があったが、これに対し検事正は『自分達は法規を守るのが任務だから、法規を曲げることは出来ない』と回答した。
この回答に対し、『私達の印象を悪くしないようにした方がいいだろう。この事件が表面化した場 合、あなたの責任に影響するだろう』