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黒幕・政商たち p.066-067 佐藤の三選への執念

黒幕・政商たち p.066-067 自民党会館二階の喫茶室。記者らしい二人連れの対話に、私は耳を澄ませていた。確かに、佐藤首相の周辺には、〝黒い噂〟も情報もないのは事実だろう。
黒幕・政商たち p.066-067 自民党会館二階の喫茶室。記者らしい二人連れの対話に、私は耳を澄ませていた。確かに、佐藤首相の周辺には、〝黒い噂〟も情報もないのは事実だろう。

住宅公団の抜け穴

〝佐藤さん〟はキレイ好き

「田中角栄というのは、幹事長をはずされ、全くの無役にされても、〝広川弘禅〟にはついにならなかったネ。不思議な奴さ。…国会中には、院内の福田幹事長室あたりで駄弁っていたりして、悠容迫らずといった感じなんだ」

「ウン。彼が幹事長からおろされた時、ある大会社の重役がネ、あわてて飛んできてオレにきくんだ。検察の手がのびるでしょうかッて。彼の周辺には〝黒いムード〟がただよっていた」

「福田で想い出したが彼が怪文書を流されたことがあるネ。自動車会社から億だかをマキあげたといって。福田はカンカンに怒って、この正体不明の怪文書を警視庁に告訴した」

「そうそう。警視庁はすぐさま犯人を割り出して、広川一馬という雑誌ゴロをあげた……」

「その時、福田は、犯人があげられたのを見届けてから、名誉棄損の告訴を取下げただろう?」

「あれはたしか、去年の秋ごろかナ?」

「福田の告訴取り下げは、捜査当局の、腹を立てさせたが、世論も割り切れない後味の悪さに、批判の声をあげた……」

「ウン。一橋大の刑法の植松正など、告訴は犯人に刑事罰を求める意志表示だから、取下げなど怪しからん、といっていた」

「そのウラは、広川某の黒幕に、田中角栄側近のHが出てきたからサ。福田もあの時点で田中との正面衝突を避けたのだろう」

「しかし、あの当時、佐藤栄作は、よく田中幹事長を切ったね。オレはエライと思ったよ」

「そうだナ、佐藤の三選への執念。いうなれば七〇年安保を自分の手でやりとげるのだ、という堅い決意を物語るものだろう」

「大津正首席秘書官をおろしたのも、同じ伝だナ…。確かに、不思議なほど、佐藤の周辺には、〝黒い噂〟がないよなあ!」

永田町の自民党会館二階の喫茶室。あたりに人影の少ないのに気を許したか、記者らしい二人連れの対話に、私は耳を澄ませていた。

確かに、この話の通り、佐藤首相の周辺には、不思議と思えるほど、〝黒い噂〟も情報もないのは事実だろう。そして、池田首相夫人とは違って、佐藤寛子夫人にさえ、〝出過ぎた〟話

も出てこない——私は、これこそ、首相の執念とみる。

黒幕・政商たち p.068-069 住宅公団の宅地買収のデタラメさ

黒幕・政商たち p.068-069 千葉県を舞台にして、公団が宅地を買付けた。「坪六千円の土地が、ある業者の手を経て、公団に買収されたが、その価格が坪一万一千円。ほぼ倍の値段です」
黒幕・政商たち p.068-069 千葉県を舞台にして、公団が宅地を買付けた。「坪六千円の土地が、ある業者の手を経て、公団に買収されたが、その価格が坪一万一千円。ほぼ倍の値段です」

確かに、この話の通り、佐藤首相の周辺には、不思議と思えるほど、〝黒い噂〟も情報もないのは事実だろう。そして、池田首相夫人とは違って、佐藤寛子夫人にさえ、〝出過ぎた〟話

も出てこない——私は、これこそ、首相の執念とみる。

賞めすぎるようだが、六〇年安保をなしとげた、兄岸首相のあとをうけて、七〇年安保に政治生命をかけた、佐藤栄作の〝自覚〟が冷酷にさえ見えるその人事にうかがえる。河野一郎を閣外に追落し、返す刃で片腕ともたのむ田中角栄を党からはずす。兄弟の長年の〝忠僕〟大津秘書官さえ暇を出すという、この徹底した潔癖さは、側近の非違のために挂冠するハメにおちいることを、極度に警戒しているものであろう。

世田谷の私邸でも、一国の総理としては貧弱な家である、これほど〝身を持すること厳〟な首相ではあるが……。

幽霊会社に消える土地代金

「私も不動産業者ですから、ある時には、結構、稼がせてもらいますよ。でも住宅公団の宅地買収のデタラメさには、義憤を感ぜざるを得ませんよ」

彼はこういって言葉を切った。私は黙って、彼の口許に眼をやる。

——落ちる瞬間とはこれだな!

刑事のいう〝落ちる〟とは、犯人が自供をはじめることだ。私の記者生活の体験からいうと、多くの場合、事件の真相を知る人物は、実は事件の主役たちと利害の上で、相当程度に密着し

ているものである。それ故に彼が提供したその記事のもたらす影響と、彼の利害との関係位置に気を配らねばならない。それが一瞬、口をつぐませるのだった。

彼——その男は、まだ三十台の若さながら、都心に事務所を持つ有力な業者の一人だった。ある意味での、成功者のうちに数えられる彼にとっては、シャニムニ、金にさえなれば良い、といった、アクドイ商売には、批判の眼を向けざるを得ない〝ゆとり〟が生れていたのだ。

彼の話には、まだウラがとれてない。つまり、私自身の調査による、裏付け取材がしてないのだが、やはり関係者の談話なので、ここで一通りの紹介をしておこう。千葉県を舞台にして、公団が宅地を買付けたのだという。

「坪六千円の土地が、ある業者の手を経て、公団に買収されましたが、その価格がなんと、坪一万一千円。ほぼ倍の値段です。大衆にとって、宅地が高嶺の花にならないよう、宅地債券などが新らしくできましたが、この実例でみると、宅地債券など買う奴は、安い土地をわざわざ高く買う結果になっているのです」

これは、他の実例を見ても、間違いのない事実である。もう少し、彼の話を聞かねばならない。

「公団と地主の間には、ある会社がクッションになって入っています。ホテルニュー・ジャパンの中にあるその会社の社長というのは、ある金融機関の支店長だった男です。そして、彼

が、その土地を、半年でも一年でも持っていて、公団に売ったというのなら、まだよろしいでしょう。しかし彼が所有していたのは、僅かに一日間だけです。土地の広さですか? 坪六千円の土地で、総額十数億円にのぼる面積です。そして、彼はその土地のある農協から十億もの融資を受けているのです」