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雑誌『キング』p.131中段 幻兵団の全貌 誓を破った男

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.131 中段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.131 中段

『とんでもないことです。初耳です。人違いでしょう』と。だが、彼らの行動には疑惑につつまれたナゾがある。

Ⓑのスパイたち。その一人はいう。『合言葉がささやかれるのは、もう少し近い将来、米ソの関係がもっと緊迫してからでしょう』と。また一人はいう。『合言葉の男は、もう日本中を飛び廻っていますよ。そして、スパイたちは一生懸命の活躍をしているんです』と。その男は声をひそめて続けた。『何故なら、私の所に来ないからです。私は暗い〝かげ〟を背負った生活に堪えられなくなり、当局の保護を願って誓を破ったのです。不思議に、奴らにはそれが分かるのです。そして裏切り者は、チャンと選り分けて、合言葉をささやこうとしないのです。第一、つい最近関西方面で、東京で誓を破った男が帰郷の途中に、二人の暴漢に襲われて〝お前はシャべってしまったナ〟と散々な暴行をうけたとい

雑誌『キング』p.118上段 幻兵団の全貌 合言葉と偽名も

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.118 上段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.118 上段

せんでした。中尉の腰には小さな拳銃がのぞいて見えました。本当に夢のような出来事です。

その後、私は背広の少佐に呼ばれて、写真を撮影されているのです。正面、半身、左右の横顔、四枚もです。

何故、私がこんなに恐れているかお分かりになりますか?

私は月に一、二回ほど、中尉か少佐に逢います。一時間も話しますでしょうか。話題は思想的なものばかりで、民主運動のあり方とか、資本主義社会の欠陥とか、そんなことばかりです。密告とか名簿の提出など命ぜられたことはありません。それなのに、五〇—三〇〇ルーブルの金をくれるのです。たまには領収証だけのこともありました。

もう、お分かりになったでしょう。私の誓約書には、日本に帰ってからでなければ働けないような目的が、ハッキリと書かれているのです。そのうえ、合言葉と偽名もあります。そして、何もしないのに金をくれて、写真まで写しているのですから…。

合言葉の男、きっと、赤いマントをきたメフィストフェレスのような奴でしょう。それが、いつ、どこで、どうして、私の前に現れるかと、ただそればかりを恐れて、毎日を不安に悩みながらすごしているのです。