オカマの文明〝開化〟
時移り、星変わって……。医が仁術から算術になる時代がくると、オカマの世界にも、文明開化が訪れる。
つまり、さきの形態学的分類の、第二類が登場してくる。
もはや、ノガミの和ちゃんの着物をたくし上げて、隆起物をゴマ化すのは、古いのである。突出部分を、外科的に除去してしまうのである。
湯文字が汚れて、それが、下腹部にベタ付く感触の〝青幻〟は、過去のものになった——胸はオルガノーゲンなどという正体不明の物質の注入でふくらみ、下は、また、一見女性風に整形されるのだから、全裸になろうとも、相手に怪しまれることはない。
造化の神への挑戦である。
〈ナントカを守る会〉態の、権利の主張のみが先行するゴネ得の風潮。株主権の行使が歪められて総会屋の花盛りとなり、無医村があるというのに、都会には〝整形医〟があふれる、といった精神の荒廃からくるヒズミ現象が、まんえんしてきた。
私が、シベリア抑留中に、やはり、独ソ戦で捕虜となり、ドイツの収容所にいたが、米軍に救出された、という、ソ連国籍人の強制労働者が、同じ炭坑で働いていた。
この男は、なかなかのインテリで、私となら、平気でスターリン批判をした。
「アメリカンスキーの奴は、なかなかやるよ。オレたちを、ドイツからすぐにソ連に帰さず、いったん、米本国に連れていって、資本主義社会の繁栄を目撃させたのだ。大量の白いパンとチョコレート。もしも、ソ米戦が起きたらオレは、すぐ両手を上げて捕虜になり、米国に行くよ。カピタリズム、ハラショー(資本主義万才!)」
私が、ソ連の黒パンのまずさを指摘すると、彼はいう。
「確かに、アメリカの白パンのほうが美味い。でも、ドイツの黒パンだってスゴイ」
彼らの収容所に、米軍が進駐してきて、身体捜検をした。彼のポケットから、乾からびた黒パンを発見した米兵が、「これはなんだ?」とたずねた。
彼は、それを口辺に持っていって、食べる真似をして、パンだ、といった。
ドイツの黒パンをためつすがめつ眺めていた米兵は、彼の動作を見ても、これがパンだとは、信じなかった。
「ダワイ! ドクトル!」(医者を呼べ)と、その米兵が叫んだ。パンなのかどうか、医者に調べさせなければ、信じられないほどヒドイ、という笑い話なのであった。
彼は、ユーモリストだった。もうひとつ、彼が私に教えてくれた笑い話がある。
夫と父親のチガい
私が、日本兵捕虜とソ連女との〝恋のもめごと〟について、質問した。