『約束できますか』
『ハイ』
タッ、タッと、息もつかせずたたみこんでくるのだ、もはや、ハイ以外の答はない。私は興奮のあまり、つづけざまに三回ばかりも首を振って答えた。
『誓えますか』
『ハイ』
しつようにおしかぶさってきて、少しの隙も与えずに、ここまでもちこむと、少佐は一枚の白紙を取出した。
『よろしい、ではこれから、私のいう通りのことを紙に書きなさい。』
――とうとう来るところまで来たんだ。
私は渡されたペンを持って、促すように少佐の顔をみながら、刻むような日本語でたずねた。
『日本語ですか、ロシヤ語ですか』
『パ・ヤポンスキー!』(日本語!)
はね返すようにいう少佐についで、能面のように、表情一つ動かさない少尉がいった。
『漢字とカタカナで書きなさい』
静かに、少尉の声が流れはじめた。
『チ、カ、イ』(誓)
『………』
『次に住所を書いて、名前を入れなさい』
『………』
『今日の日付、一九四七年二月八日……』
『私ハ、ソヴェト社会主義共和国連邦ノタメニ、命ゼラレタコトハ、何事デアッテモ、行ウコトヲ誓イマス。(この次にもう一行あったような記憶がある)
コノコトハ、絶対ニ誰ニモ話シマセン。日本内地ニ帰ッテカラモ、親兄弟ハモチロン、ドンナ親シイ人ニモ、話サナイコトヲ誓イマス。
モシ、誓ヲ破ッタラ、ソヴェト社会主義共和国連邦ノ法律ニヨッテ、処罰サレルコトヲ承知シマス。』
不思議に、ペンを持ってからの私は、次第に冷静になってきた。チ、カ、イにはじまる一字一句ごとに、サーッと潮がひいてゆくように興奮がさめてゆき、机上の拳銃まで静かに眺める余裕ができてきた。