最後の事件記者 p.126-127 モシ、誓ヲ破ッタラ

最後の事件記者 p.126-127 「私のいう通りのことを紙に書きなさい」――とうとう来るところまで来たんだ。
最後の事件記者 p.126-127 「私のいう通りのことを紙に書きなさい」――とうとう来るところまで来たんだ。

『約束できますか』

『ハイ』

タッ、タッと、息もつかせずたたみこんでくるのだ、もはや、ハイ以外の答はない。私は興奮のあまり、つづけざまに三回ばかりも首を振って答えた。

『誓えますか』

『ハイ』

しつようにおしかぶさってきて、少しの隙も与えずに、ここまでもちこむと、少佐は一枚の白紙を取出した。

『よろしい、ではこれから、私のいう通りのことを紙に書きなさい。』

――とうとう来るところまで来たんだ。

私は渡されたペンを持って、促すように少佐の顔をみながら、刻むような日本語でたずねた。

『日本語ですか、ロシヤ語ですか』

『パ・ヤポンスキー!』(日本語!)

はね返すようにいう少佐についで、能面のように、表情一つ動かさない少尉がいった。

『漢字とカタカナで書きなさい』

静かに、少尉の声が流れはじめた。

『チ、カ、イ』(誓)

『………』

『次に住所を書いて、名前を入れなさい』

『………』

『今日の日付、一九四七年二月八日……』

『私ハ、ソヴェト社会主義共和国連邦ノタメニ、命ゼラレタコトハ、何事デアッテモ、行ウコトヲ誓イマス。(この次にもう一行あったような記憶がある)

コノコトハ、絶対ニ誰ニモ話シマセン。日本内地ニ帰ッテカラモ、親兄弟ハモチロン、ドンナ親シイ人ニモ、話サナイコトヲ誓イマス。

モシ、誓ヲ破ッタラ、ソヴェト社会主義共和国連邦ノ法律ニヨッテ、処罰サレルコトヲ承知シマス。』

不思議に、ペンを持ってからの私は、次第に冷静になってきた。チ、カ、イにはじまる一字一句ごとに、サーッと潮がひいてゆくように興奮がさめてゆき、机上の拳銃まで静かに眺める余裕ができてきた。