最後の事件記者 p.168-169 今度生れてくる時は、もっと

最後の事件記者 p.168-169 調べてみると、この最後の日記の、ちょうど一週間前、それまでは空白の日が一日もないのに、二日も空白の日がある。
最後の事件記者 p.168-169 調べてみると、この最後の日記の、ちょうど一週間前、それまでは空白の日が一日もないのに、二日も空白の日がある。

『そんなことを書かれたら、父親は自殺してしまいます。酒をのむと人が変ってしまうのですが、シラフの時は気の小さい男なのですから、死ぬことは間違いありません。どうか、書かない

でやって下さい』

父親の弟というその男は懸命になって頼むのだったが、私は黙っていた。真杉女史も答えない。

日記をみると、如何にも文学少女らしい日記で、一日もかかさずにつけている。だが、その年の三月ごろから、父への呪いの言葉が書かれはじめている。

三月×日、父はお酒をのむと、いやらしい様なしぐさをする。それがほんとにいやだ。

四月×日、叔父は相談に来いという。なぜ行けないのだろう。叔父もやはり男性として考えているからかもしれない。私は父のある半面を非常に憎み、そしておそれている。私にとっては、あらゆる男性がおそろしい。けがらわしいもののように思えてしまう。

六月×日、父はお酒をのんでは、いやなことばかりしようとする。人の身体をさわりたがったり……

六月×日、父はなぜああなのだろう。お酒をのんではいやなことをしようとする。

八月×日、三日ほど前に書いておいた、身の上相談を今朝やっと出した。

九月×日、お母ちゃん、なぜ死んでしまったの、お母ちゃんが死んでから丸三年間、私はずい

ぶん苦労しました。父のこと、弟のこと、お金のこと、学校のこと、そして、近所のことでも、私は精一ぱいやったつもりです。兄ちゃんだって、姉ちゃんだって、みんな家をすてて逃げていってしまった。お母ちゃんは何もかもみているから、知っているでしょう。

私は新聞に投書しました。そして、やっと今夜答が出ていました。もう出ないと思っていたのに、死ぬ前の晩に出るなんて! これも何かのさだめかと思って、考えた末やっと叔父さんのところへ行きました。でもやはりだめでした。私の一度冷たくなった心は、容易にとけそうもない。結局私が意気地なしでだめな人間なのだ。今度生れてくる時は、もっと明るい、ほがらかな娘に生れますように。  おぼろ月夜や、今宵かぎりの虫の声。

拭いきれぬ悪夢

調べてみると、この最後の日記の、ちょうど一週間前、それまでは空白の日が一日もないのに、二日も空白の日がある。この日がカギだった。私は大塚の監察医務院へとかけつけた。

自殺をはじめ、変死一切、つまりタタミの上で死ななければ、その死体は、ここで行政解剖、犯罪であれば司法解剖にふされる。私は彼女の死体の執刀医をさがした。