p61下 わが名は「悪徳記者」 自首どころか隠してくれと

p61下 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 不忍池で現われた小笠原を車に拾い、「奈良」にとって返した私は、さらにフクの案内で現われた「花田映一」という人物に会った。
p61下 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 不忍池で現われた小笠原を車に拾い、「奈良」にとって返した私は、さらにフクの案内で現われた「花田映一」という人物に会った。

細君と最後の対面をさせてやって、逮捕してもよい。仲の良い後輩であるこの二人の記者に花を持たせ、両記者は担当主任に花を持たせる。そして、当局の捜査に協力したという実績が、読売をして捜査二課に、ニュース・ソースというクサビを一本打ち込ませるのだ。

不忍池で現われた小笠原を車に拾い、「奈良」にとって返した私は、さらにフクの案内で現われた「花田映一」という人物に会った。私が入浴している間に、やってきた三人は、何事かを相談し合っていた。

『東興業副社長の花田さんです。何にもヤマがないので、幹部でホジョウ(逮捕状)の出ていない唯一人の人です』という紹介だった。

しばらくして、

『御迷惑をおかけしてますが、何分とも宜しくお願いします』

と、花田は礼儀正しく挨拶して、一人先に帰っていった。如何にも小笠原より兄貴分らしい貫禄だった。

花田が帰り、小笠原とフクとの三人になったが、彼は一向に自首の話を持ち出さない。私が変だゾと思いはじめた時、小笠原はフクに向って、

『お前はしばらく風呂に入ってこい』

と命じて、私と二人切りの機会を作った。 すると意外にも、自首どころか、もう一週間ほど、隠してくれという依頼を切り出したのだ。小笠原がどんな気持で、私に「逃がしてくれ」と頼んできたのか、私には未だに判らない。のちに、フクからきいたところによると『王さんや小林さんは信用できない人だと思ったので、そこにいる間中、いつサツに密告されるかと心配していた。