p65上 わが名は「悪徳記者」 「旭川までの切符を買ってください」

p65上 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 今さら、「それは困る」とはいえない。塚原さんを東京駅に送ると、交通公社で切符を買い、三越で下着類を買って、再び「奈良」へもどった。
p65上 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 今さら、「それは困る」とはいえない。塚原さんを東京駅に送ると、交通公社で切符を買い、三越で下着類を買って、再び「奈良」へもどった。

この場合は、密航ルートの調査資料を、当該当局に提供することによって、訴追をまぬかれているのだ。犯人を逮捕させることによって、その経過の中の不法行為もまた許されるであろう。

翌七月十二日、正午すぎに塚原さんが最高裁内の記者クラブにたずねてきた。二人で「奈良」へ向った。二人を紹介したところ、塚原さんは事務的に、旭川の外川材木店の住所と駅からの略図とを書いて教えた。約三十分の会見で塚原さんは立ち上った。その時、小笠原が、私に一万円を渡して、「下着類と旭川までの切符を買って下さい」と頼んできた。そうすることに若干の抵抗は感じたが、もはや私の計画は実行行為に入っているのだ。今さら、「それは困る」とはいえない。

塚原さんを東京駅に送ると、交通公社で切符を買い、三越で下着類を買って、再び「奈良」へもどった。十六時五分という急行があるので、それに間に合うようにと、車を飛ばして上野駅へかけつけ、小笠原を駅正面でおろしたのが、四時十分前ごろであった。