切って、ゆっくり発音すると、非常に厳粛感のこもるロシア語で、ふだんならば国名もエス・エス・エルと略称でいうはずなのに、いまはサユーズ・ソヴエスキイ・ソシァリチィチェスキイ・レピュブリイクと正式に呼んだ、その言葉の意味することを、本能的に感じとった私は、上ずったかすれ声で答えた。
『ハ、ハイ』
『本当ですか』
『ハイ』
『約束できますか』
タッ、タッと息もつかせずたたみ込んでくるのだ。もはや『ハイ』以外の答はない。
『ハイ』
私は興奮のあまり、続けざまに三回ばかりも首を振って答えた。
『誓えますか』
『ハイ』
しつようにおしかぶさってきて、少しの隙もあたえずに、少佐は一枚の白紙をとりだした。
『宜しい。ではこれから、私のいう通りのことを紙に書きなさい』
——とうとう来るところまで来たんだ!
私は渡されたペンを持って、促すように少佐の顔をみながら、刻むような日本語でたずねた。
『日本語ですか、ロシア語ですか?』