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雑誌『キング』p.112下段 幻兵団の全貌 ハイ以外の答はない

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.112 下段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.112 下段

切って、ゆっくり発音すると、非常に厳粛感のこもるロシア語で、ふだんならば国名もエス・エス・エルと略称でいうはずなのに、いまはサユーズ・ソヴエスキイ・ソシァリチィチェスキイ・レピュブリイクと正式に呼んだ、その言葉の意味することを、本能的に感じとった私は、上ずったかすれ声で答えた。

『ハ、ハイ』

『本当ですか』

『ハイ』

『約束できますか』

タッ、タッと息もつかせずたたみ込んでくるのだ。もはや『ハイ』以外の答はない。

『ハイ』

私は興奮のあまり、続けざまに三回ばかりも首を振って答えた。

『誓えますか』

『ハイ』

しつようにおしかぶさってきて、少しの隙もあたえずに、少佐は一枚の白紙をとりだした。

『宜しい。ではこれから、私のいう通りのことを紙に書きなさい』

——とうとう来るところまで来たんだ!

私は渡されたペンを持って、促すように少佐の顔をみながら、刻むような日本語でたずねた。

『日本語ですか、ロシア語ですか?』

迎えにきたジープ p.050-051 私のいう通りのことを紙に

迎えにきたジープ p.050-051 Major Petrov said, "Do you wish to serve the Union of Soviet Socialist Republics?"
迎えにきたジープ p.050-051 Major Petrov said, “Do you wish to serve the Union of Soviet Socialist Republics?”

ブローニング型の銃口が、私に向けておかれたまま冷たく光っている。つばきをのみこもう

と思ったが、口はカラカラに乾ききっていた。

少佐は半ば上目使いに私をみつめながら、低いおごそかな声音のロシヤ語で口を開いた。一語一語、ゆっくりと区切りながらしゃべりおわると、少尉が通訳した。

『貴下はソヴェト社会主義共和国連邦のために、役立ちたいと、願いますか』

歯切れのよい日本語だが、私をにらむようにみつめている二人の表情と声とは、『ハイ』という以外の返事はは要求していなかった。短かく区切って、ゆっくり発音すると、非常に厳粛感のこもるロシヤ語で、平常ならば国名もエス・エス・エルと略称でいうはずなのに、いまはサユーズ・ソヴェーツキフ・ソチャリスチィチェスキフ・レスプーブリクと正式に呼んだ。その言葉の意味することを、本能的に感じとった私は、上ずったかすれ声で答えた。

『ハ、ハイ』

『本当ですか』

『ハイ』

『約束できますか』

タッ、タッと息もつかせずにたたみ込んでくるのだ。もはや『ハイ』以外の答はない。

『ハイ』

私は興奮のあまり、続けざまに三回ばかりも首を振って答えた。

『誓えますか』

『ハイ』

しつようにおしかぶさってきて、少しの隙もあたえずに、少佐は一牧の白紙をとりだした。

『宜しい。ではこれから、私のいう通りのことを紙に書きなさい』

——とうとう来る処まで来たんだ!

私は渡されたペンを持って、促すように少佐の顔をみながら、刻むような日本語でたずねた。

『日本語ですか、ロシヤ語ですか?』

『パ・ヤポンスキイ!』(日本語!)

ハネかえすようにいう少佐についで、能面のように表情一つ動かさない少尉がいった。

『漢字とカタカナで書きなさい』——静かに少尉の声が流れる。

『チ、カ、イ』(誓)

『………』

『次に住所を書いて、名前を入れなさい』

『………』