黒幕・政商たち p.112-113 親分の川島正次郎に話して

黒幕・政商たち p.112-113 そして、第三回目に自宅を訪ねた時、緒方と対談中の田中角栄に、「御挨拶だけ……」といいながら、一人の男が部屋に入ってきた。
黒幕・政商たち p.112-113 そして、第三回目に自宅を訪ねた時、緒方と対談中の田中角栄に、「御挨拶だけ……」といいながら、一人の男が部屋に入ってきた。

その年の春、ようやく気力を回復した緒方は、山梨の田辺国男に会った機会に、この驚くべき〝現実〟について語った。

緒方に同情した田辺国男は、「親分の川島正次郎に話して、決算委でとりあげてやろう」といってくれた。田辺国男から話をきいた川島正次郎は、村上勇と相談して、四十一年四月六日、永田町のグランド・ホテルに、大堀副総裁を呼んだ。村上勇の話では、「川島正次郎副総裁が、大堀に直か談判して、その場で話をつけてくれるそうだ」という。緒方は別室で待っていたが、ホテルにやってきたのは、大堀ではなく石井理事であった。

やがて、石井は帰り、村上勇と田辺国男が緒方のもとにやってきた。田辺国男は興奮して「石井の奴ケシカラン」というのを、村上勇が押えて、「川島正次郎副総裁が『オレにまかせろ』というのだから、この際黙っていろ」という。

田中角栄先生の意外な一面

「川島正次郎自民党副総裁の呼び出しに部下のチンピラを代理に出す——こんな失礼な態度を大堀ごときに取れるものですか。当日前に、なんらかの形での川島正次郎、大堀両者間の取引、といって悪ければ、了解がついていたに違いない。でなければ川島は大堀にナメられたことになる」その後、川島からは何の連絡もなかった。

緒方は伝手を求めて、時の幹事長田中角栄に会いにいった。シリカ社長としての陳情もさることながら、この時点では、緒方個人として、田中角栄がどうでるかの興味も大きなものにな

っていた。

自宅を訪れると、田中角栄は気さくに会ってくれた。話をきいて彼は即座につぶやいた。

「九頭竜か、困ったナ」第一回はそれで終った。

次に書類をとどけた時、田中角栄は良く話をきいてくれた。

「ナニ? その用地担当理事は何という男だ? 石井? 知らん奴だ」田中角栄は石井について反問さえしたのだった。そして、第三回目に自宅を訪ねた時、緒方と対談中の田中角栄に、

「御挨拶だけ……」といいながら、一人の男が部屋に入ってきた。

「先生、ありがとうございました。おかげをもちまして、電発の石井さんにおめにかかり、契約を頂いてきました」田中角栄は「そうか、そうか」といって、その男の話を早く打切らせようとした。だが、緒方はすでに〝電発の石井〟の名をききとっていた。

「田中角栄は、はじめ石井の名前を知らなかった。それなのに部屋に入ってきた男の挨拶では、田中角栄の紹介で石井を訪ね、契約をもらってきたという。田中角栄の前を辞してから、室外の秘書にきくと挨拶にきた男は、新潟県人で保険会社の重役だという。これでは邪推したくなるというものだ。田中角栄は補償の件で石井理事に連絡して、彼を相知った。石井は、『緒方はインチキな男だ』というに決っている。そして、田中角栄は同県人を紹介し、石井は田中角栄のカオを立てて電発の保険を契約してやる。こんな推理は、失敬極まりないかもしら

んが、それが人情というものではないだろうか。そして人情の機微をいたわるのが、政治の妙諦というものではなかろうか」

緒方はついに政治家遍歴をあきらめた。