「お帰りなさいまシ」
帳場から飛び出すや、小腰をかがめて、モミ手よろしく、スリッパをそろえる。
「オット、お危うございます」
小島の腕をとるとみせかけて、実は身体捜検。ピストル、アイ口類の兇器が、背広の下にかくれていないかと、さわってみる。
「何分、夜は女中どもを休ませますので……。何しろ、労働何とかの時代で……」
と、言い訳しながら、酒だ、ビールだと騒ぐのをあしらって、再び部屋での酒盛りのサービスに忙しい。台所では、女将や女中たちが、他処行き姿の番頭まで加えて、おびえたような顔で待っている。
番頭作戦成功
女の子たちが、「菓子」というので、また台所へ飛んできて、菓子鉢を持ってゆくと、
「ドオ、番頭さん、甘いのは?」
「へェ、どうも恐れ入ります」
坐りこむキッカケをみつけたので、まず一同へビールをついでから、女給さんのとってくれる和菓子をキチンと両手で受ける。
「ダンナ様方は仙台の方で……。私は岩手県なものですから、東北の方はお懐かしうございますナ」
「何いってンのよ。ダンナ様だなんて。こちらは社長さんのお坊っちゃんよ」
仙台という言葉に、キャッキャッと騒ぐ女給たちの嬌声の中で、小島がフト耳を傾けて、酔眼がキラリと光った。
「仙台といえば、私の遠縁の者が、日発の支店に勤めておりまして、イヤ、どうせ守衛なんでございますが……」
小島が勤めていた日発の話、グッと表情が変るのを見逃さなかった。四方山の雑談をすること約三十分。その中に、小島の犯行を暗示する痛い質問が、時々入る。
反応はもう充分。さっきまでのデレデレの酔態が、次第に白けてきて、男二人は顔色まで青くなってきた。犯行の記憶が呼び覚まされたのであろう。
ビールを取りに立ったついでに待機の記者に合図。神田署から二人の刑事がかけつけてくる。台本の筋書は、臨検として刑事が部屋に入って、職質をやるという手筈。それまで、間をつないでおくのが私の役目だ。
小島が女給のビールを受けながら、床の間のボストンに眼をやる。
——危い!
あの中には、札束ばかりか、兇器まで入っているような感じだ。何とかして、遠ざけておかねばならない。
「ダンナ様、チャンポンなさったのではございませんか。お顔が青いようです。しばらくの間、
およりになっては……」