最後の事件記者 p.368-369 札束ばかりか兇器まで入っている感じ

最後の事件記者 p.368-369 ビールを取りに立ったついでに待機の記者に合図。神田署から二人の刑事がかけつけてくる。台本の筋書は、臨検として刑事が部屋に入って、職質をやるという手筈。
最後の事件記者 p.368-369 ビールを取りに立ったついでに待機の記者に合図。神田署から二人の刑事がかけつけてくる。台本の筋書は、臨検として刑事が部屋に入って、職質をやるという手筈。

「お帰りなさいまシ」

帳場から飛び出すや、小腰をかがめて、モミ手よろしく、スリッパをそろえる。

「オット、お危うございます」

小島の腕をとるとみせかけて、実は身体捜検。ピストル、アイ口類の兇器が、背広の下にかくれていないかと、さわってみる。

「何分、夜は女中どもを休ませますので……。何しろ、労働何とかの時代で……」

と、言い訳しながら、酒だ、ビールだと騒ぐのをあしらって、再び部屋での酒盛りのサービスに忙しい。台所では、女将や女中たちが、他処行き姿の番頭まで加えて、おびえたような顔で待っている。

番頭作戦成功

女の子たちが、「菓子」というので、また台所へ飛んできて、菓子鉢を持ってゆくと、

「ドオ、番頭さん、甘いのは?」

「へェ、どうも恐れ入ります」

坐りこむキッカケをみつけたので、まず一同へビールをついでから、女給さんのとってくれる和菓子をキチンと両手で受ける。

「ダンナ様方は仙台の方で……。私は岩手県なものですから、東北の方はお懐かしうございますナ」

「何いってンのよ。ダンナ様だなんて。こちらは社長さんのお坊っちゃんよ」

仙台という言葉に、キャッキャッと騒ぐ女給たちの嬌声の中で、小島がフト耳を傾けて、酔眼がキラリと光った。

「仙台といえば、私の遠縁の者が、日発の支店に勤めておりまして、イヤ、どうせ守衛なんでございますが……」

小島が勤めていた日発の話、グッと表情が変るのを見逃さなかった。四方山の雑談をすること約三十分。その中に、小島の犯行を暗示する痛い質問が、時々入る。

反応はもう充分。さっきまでのデレデレの酔態が、次第に白けてきて、男二人は顔色まで青くなってきた。犯行の記憶が呼び覚まされたのであろう。

ビールを取りに立ったついでに待機の記者に合図。神田署から二人の刑事がかけつけてくる。台本の筋書は、臨検として刑事が部屋に入って、職質をやるという手筈。それまで、間をつないでおくのが私の役目だ。

小島が女給のビールを受けながら、床の間のボストンに眼をやる。

——危い!

あの中には、札束ばかりか、兇器まで入っているような感じだ。何とかして、遠ざけておかねばならない。

「ダンナ様、チャンポンなさったのではございませんか。お顔が青いようです。しばらくの間、

およりになっては……」