最後の事件記者 p.400-401 ヘッ! おとぼけはよそうョ

最後の事件記者 p.400-401 これほどの大騒ぎをするとすれば、その結びつきを立証するもの、ハガキで結びつきを立証するとすれば、鹿地の直筆で、三橋へあてたレポのハガキということになる。
最後の事件記者 p.400-401 これほどの大騒ぎをするとすれば、その結びつきを立証するもの、ハガキで結びつきを立証するとすれば、鹿地の直筆で、三橋へあてたレポのハガキということになる。

国誉カブトを脱ぐ
当時、三橋の身柄は起訴されてから一カ月もたつというのに、まだ八王子地区署におかれてあった。支局でずっと三橋の動静をみている記者に聞いて、調べ官の異動の有無を調べると、あった、あった、ドンピシャリだ。

二十日の放送依頼日から、事件発生以来、三橋を手がけていた永井警部に代って、佐藤警部が担当官となり、永井警部は全く事件から手を引いてしまったという。

私はこおどりしてよろこんだ。事件はやはり三橋だったのである。そこで私は、これまでつか

んだ事実から、推理を組み立てる。

紛失物は古ハガキ。なくした人は永井警部一人。他に処分者がいないからだ。すると紛失時の状況は彼一人ということだ。捜査に出かける時は、刑事は必ず二人一組になるから、捜査ではない。

紛失時間が夜の七時。彼の家が常磐沿線だから、これは帰宅の途中。しかも翌日は日曜日だから、迫ってきた公判の準備に、自宅で調べものをしようと、書類を持ちだして、駅のホームで、雑誌か何かをカバンから取り出した時に、一しょにとび出して落したものだ。

三橋事件の古ハガキで重要なもの、三橋の焦点は鹿地との結びつきだから、これほどの大騒ぎをするとすれば、その結びつきを立証するもの、ハガキで結びつきを立証するとすれば、鹿地の直筆で、三橋へあてたレポのハガキということになる。

こう結論を出した私は、はやる心を抑えてその日の取材を終った。翌二日、まず仙洞田部長へ当ってみる。この取材が〝御用聞き取材〟ではないということだ。

「部長、マンホールや列車妨害なぞの小事件で、部長が直々に放送を頼みにいって、ペコペコしたら貫禄が下がるよ」

「なんだい? ヤブから棒に放送なんて」

「ヘッ! おとぼけはよそうョ。だって、重要犯罪の捜査のために、なくした古ハガキを探して下さいって、頭を下げたろうが……。大刑事部長の高い頭をサ」

彼の眼に、チラと走るものがある。