最後の事件記者 p.398-399 国警都本部のやっている重要犯罪?

最後の事件記者 p.398-399 心やすだてにザックバラン調だ。「じゃ、今すぐ探してくれよ」 「フフフ、モノになったら御挨拶をしなきゃダメよ」「ウン。今日のお茶はボクがオゴるよ」 「それでお終いじゃなくッてよ」
最後の事件記者 p.398-399 心やすだてにザックバラン調だ。「じゃ、今すぐ探してくれよ」 「フフフ、モノになったら御挨拶をしなきゃダメよ」「ウン。今日のお茶はボクがオゴるよ」 「それでお終いじゃなくッてよ」

古ハガキ紛失事件
年があけて、三橋は電波法違反で起訴になり、その第一回公判が六日後に迫った。二十八年二

月一日、記者のカンから探り出した大スクープが、この三橋事件でのサヨナラ・ホーマーとなった。鹿地証拠の古ハガキ紛失事件がそれである。

その日のひるころ、今のそごうのところにあった診療所へ寄って、外へ出てきたところを、バッタリとラジオ東京報道部員の、真島夫人に出会った。彼女は時事新報の政治部記者だったが、読売の社会部真島記者と、国会で顔を合せているうちに〝白亜の恋〟に結ばれて結婚、KRに入社した人だった。

ヤアというわけで、喫茶店に入ってダベっているうちに、フト、彼女が国警から放送依頼があったということを話した。都本部の仙洞田刑事部長が、何かの紛失モノを探すための放送依頼を直々に頼みにきたという。

なんということのない座談の一つであったけれども、私には刑事部長が自身できたという点がピンときた。放送依頼などというのは、やはり捜査主任の仕事である。警察官としての判断によれば、主任クラスが行ったのでは、放送局が軽くみるのではないか、やはり部長が頼みに行くべきだ、とみたのであろうが、それは、ゼヒ放送してほしいという客観情勢、つまり大事件だということである。

「その書類があるかい?」

私も国会で彼女には顔なじみ、どころか、二人を最初に紹介したのが私だから、奥様ではあるが、心やすだてにザックバラン調だ。

「エエ、私が放送原稿を書いて、アナウンサーに渡したから、まだキットあるでしょ」

「じゃ、今すぐ探してくれよ」

「フフフ、モノになったら御挨拶をしなきゃダメよ」

「ウン。今日のお茶はボクがオゴるよ」

「それでお終いじゃなくッてよ」

二人はすぐ向いのKRへとって返した。書類はすぐみつかった。刑事部長の職印がおしてあり、面会した鈴木報道部長に確かめてみると、依頼にきたのは間違いなく仙洞田部長その人である。

さて、依頼の文面は「一月十七日午後七時ごろ、国電日暮里駅常磐線下りホーム、または電車内におちていた、古ハガキ一枚在中の白角封筒を拾った方は至急もよりの交番に届けてほしい。これは重要犯罪捜査上、ぜひ必要なものです」とある。

KRでは、一月二十日に頼まれ、翌二十一日午後一時二十五分の、「生活新聞」の時間に放送している。

——国警都本部のやっている重要犯罪?

私はその原文をもらいうけて、KRを出ながら考えてみた。当時、都本部では、マンホール殺人事件(のちにカービン銃ギャング大津の犯行と判った)と、青梅線の列車妨害事件の二つだけしかなかった。

——どちらも、刑事部長が頼みにくるほどの事件じゃないし、第一、ここ数日動きがないのだし

二十日の依頼だから、動いていればもう表面化するはずだ。