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雑誌『キング』p.118中段 幻兵団の全貌 D氏 情報将校

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.118 中段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.118 中段

もう、帰ってから一年の余になりますが、本当ですよ。合言葉はきいていませんです。

しかし、今でもまだハッキリと、あの言葉は耳に残っています。時々、街角でマーシャではないかと思って、ハッとするような婦人をみかけることもあるんです。

『また、東京でおめにかかりましょう』

あの女なら、本当にもう一度、逢ってみたいような気もします…。

四、D氏の場合(談話)

D氏(特に名を秘す、四十一歳、元大尉、東京都、アルマアタ地区より二十五年に復員)

私は収容所で大隊長をしていた。軍隊時代には情報将校だった。昭和二十二年の春のこと。組織の力で所内の生活を改善しようと計画をたてていた時、反ソ的だというのと、何事かを企図していると密告され、また、情報関係だったという密告もあって、逮捕されたのである。

四月二日のこと、作業に出ようとしていたら、六、七名が転属だといわれ、私の名も入っていたので、仕度をして集合した。ところが、私一人だけ、NKの下士官が拳銃をつきつけて、約四キロはなれた他の収容所の近くにある監獄に入れられた。

ここは戦犯を調べるところらしく、レンガ造りの

雑誌『キング』p.117上段 幻兵団の全貌 マーシャは口を寄せ

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.117 上段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.117 上段

ような気持ちでした。

フト、気がつくとすぐそこに一台の米国製ジープが停まっています。その時、いきなり私の方にむき直ったマーシャは、私の両手を握りしめて耳もと近くに口を寄せ、香わしい息とともにささやきました。

『また、東京でおめにかかりましょう』

『エッ?』

私がきき返す暇もなく、彼女はサッとスカートをひるがえして、どんどん行ってしまうのです。ハッと思った時、ジープの中から恰幅の良い男が、無言のまま手招きをしているではありませんか。

無言のまま私をのせたジープは、フルスピードで走り出しました。車内にはパリトー(外套)をきた背広の肥った男と、軍服の若い中尉と、それに運転手です。シベリアの大波状地帯らしいゆるやかな丘が行く手に見えます。やがてその丘を越えると、また丘の稜線がみえ、白樺の疎林に牛が放牧している風景は平和そのものでした。だが本当のところは、そんな景色も眼に入りません。パチエムウ(何故?)、クト(誰?)、クダー(何処?)という質問ばかりが、のどをつき上げるのですが、背広と軍服の二人の表情は、それを口にすることを許さないようでした。

ずいぶん走って、いつの間にか深い松林に入