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赤い広場ー霞ヶ関 p.154-155 中国系米人アルバート・リーとは

赤い広場ー霞ヶ関 p.154-155 Tomi Kora who entered the Soviet Union was given a mission by the Soviet authorities. And she noticed for the first time that she was being manipulated by secretary Michitaro Murakami.
赤い広場ー霞ヶ関 p.154-155 Tomi Kora who entered the Soviet Union was given a mission by the Soviet authorities. And she noticed for the first time that she was being manipulated by secretary Michitaro Murakami.

村上氏の緑十字運動参加は、父君の関係もあって自然に行われた。村上氏のシベリヤ・オル

グとしての使命は、ソ連側の人選が高良女史を適任と認められてから与えられた。女史は村上氏の演出する環境下に欣然として入ソした。

女史は入ソ後にある使命を与えられた。その与えられ方は幻兵団のスパイ誓約署名と同じく拒み得なかったであろう。そして比喩的な表現をすれば、女史は初めて自分は〝猿〟で、秘書という名の〝猿廻し〟がいることに気付いたであろう。女史はその環境下でこれを自分の政治的立場に転用することを図って成功した。しかし村上氏への憎悪は消えない、と同時に自己の秘密を握る同氏を恐れた。

村上氏は「人間変革」を完成した人物である。彼には強い圧力で口止めが行われた。母堂の母親としての吾が子への愛情は深く、若干部分の秘密が母堂へだけは洩れた——?

話は前へ戻ってアルバート・リー氏にもう一度御登場を願わねばならない。「高良女史とナゾの秘書」を書いて数ヶ月後。「東京租界」キャンペーン記事の第十回分「諜報機関」にこう書いてある。

上海の租界にはかって各国の諜報部員が姿を変えて忍び込んでいたことは、日本の陸海軍の例を見ても明らかである。東京が租界的様相を呈しているとすれば、同じことが当然あると思われる。

国警、旧特審局、警視庁がお互いに得た情報を交換して、東京を中心にした在日中共組織の実態を組立てた極秘文書がある。

その中に中共の在日組織は人民革命軍事委に直属するものと、華南軍政委に直属する二つの非公然組織があるとされ、後者の対日責任者は頼洸(在広東)で日本には林美定という人物が特派され、林は部下に姚美戈(京大卒)を持ち、姚はさらに閻西虹(法大卒)という男を使っており、この姚と閻とに資金を提供しているのが目黒区上目黒八の五七六に住む廖伯飛ともう一人中国系米人アルバート・リーだといわれる。以上は極秘の公文書だがこれを一応信頼出来るものとして調べあげ、東京の租界的様相の一典型として読者の判断の資料とした。

警備当局の連中がいま最大の関心を持って知りたがっていることはモスクワ経済会議に呼ばれた高良とみ、帆足計、宮腰喜助氏らに費用の一部を提供したのが、アルバート・リーではなかったかという漠然たる疑いである。

警備当局の言い分によると、話は少し大ゲサだが蒋介石と対立した浙江財閥の孔祥煕が中共ヘ寝返るため大番頭の冀朝鼎を中共政府に派し、自らはアメリカに逃げた。冀朝鼎は現在中共政府に用いられて北京中国銀行総裁となり、中共代表団が国連総会に呼ばれたときも随員の一人になった。一方孔祥熙はアメリカで揚子公司を創設したが、これは中共へ送り込む戦略物資 の買漁りをやったためアメリカ政府によって閉鎖させられた。

赤い広場ー霞ヶ関 p.158-159 高良女史はソ連圏の在日出納責任者さ。

赤い広場ー霞ヶ関 p.158-159 Albert Lee's lawyer threatened me, "If you don't revoke the article, you'll have $ 4 million in damages and $ 6 million in compensation, as well as a defamation case."
赤い広場ー霞ヶ関 p.158-159 Albert Lee’s lawyer threatened me, “If you don’t revoke the article, you’ll have $ 4 million in damages and $ 6 million in compensation, as well as a defamation case.”

ところがこの三人がソ連に入ったのだから大変である。AP通信の記者がその米人の許へきて、『旅費は貴方が出したそうだが本当か』という。これを聞いてビックリした米人は岡崎外相に会って、『米人が共産党の旅費を出したというのでは大変だ。是非私のサインのある証拠をなくしてくれ』と頼み込んだ。岡崎外相はOKとばかりに一件書類を取寄せて破り捨て公文書毀棄をやってのけたというのである。

 しかしこの話ではリー氏が無関係だという立証はされなかった。相手方の日本人弁護士は私に対して『取消さないなら、名誉棄損と同時に四百万ドルの損害賠償と、六百万ドルの慰謝料請求訴訟も起す』と脅かした。

 私は再調査の結果、原社会部長に『大丈夫です』と報告した。期限付の最後通告がきたが黙殺したところ、ついに訴訟は起されなかったので、私は事実だったと信じている。

 もう一つ記事の後日譚で村上氏のことがある。例の記事の取材の時、村上氏は最後に『もしもこんなことをスッパ抜くと貴方は大衆の怒りを買いますよ、国際的にも……』と私を脅かしたが、別の機会に母堂と令妹とに逢うことができた。

 御両人の語る村上氏の像は、私に〝ナホトカ天皇〟津村謙二氏を想い出させた。村上氏はそ

の後、日ソ親善協会の役員をしていると聞いたが、私には村上氏がやがていつの日にか、『俺はヒューマニストだったンだ』と呟く日があるように思えてならない。だが、その村上氏にあのように強く、口をつぐませているものの正体は何だろうか。

 当局のあるアナリストはこう語っている。

 高良女史はソ連圏の在日出納責任者さ。女史が最適任と太鼓判を押されて、マークされたのだ。そしてモスクワ経済会議にひきつけられてマンマと乗ってきたわけだ。その時に〝莫大な金額〟を渡された。これが「高良資金」の実態で、女史はこれを香港の銀行にあずけている。ソ連圏の国際会議などに出かける者は香港までの七万円の旅費さえあれば、あとは香港で高良名儀のトラベラーズ・チェックを受取ってゆく仕掛さ。娘さんの小切手もその一部だろう。三十七万円だって? ゼロが三つ、四つ落ちているんぢゃないかな。可哀想なのが松山繁君さ。一般論として任務の終ったスパイはどうなるかと思う? 厳重な箝口令をしかれて、あとは飼い殺しさ。しかし、「高良資金」を日本に持ち込まないで、香港にプールしておくところがミソだよ。そこに香港の香港たるところがあるんだよ。ウソだと思ったら、香港の中國銀行ビル華潤公司の孫氏をたずねてみたまえ。まず二億だネ。

 この言葉をそのまま信ずるとしよう。そうするならば、われわれはシベリヤ・オルグの姿とつねに一貫して流れているソ連の対日政策の実態と、そしてソ連秘密機関の周到緻密にして、

完璧な諜報調略の手口とを学ぶことができよう。