そして、この記事をはじめとするキャンペーン物で、文芸春秋の菊池寛賞の新聞部門で、読売社会部が第一回受賞の栄を担ったのである。
その第一回の記事に、「ねらう東洋のモナコ化、烈しい編張り争い」と、国際バクチ打ちの行状がある。この時に登場を願ったのが、即ちこの王長徳である。つまり、東京租界を自分のシマ(縄張り)にしようと、三人の国際博徒の大物が争っている。その一人はアル・カポネの片腕、アメリカはシカゴシチーで東洋人地区の取締りをやっていた鮮系米人のジェイソン・リー。二人目は、フィリピンはマニラの夜の大統領といわれるテッド・ルーインの片腕、自称宝石商のモーリス・リプトン。どんじりに控えたのが、上海の夜の市長〝上海の王〟だという情報だった。
牧野記者と二人で、この大物バクチ打ちの所在を探し、リーとリプトンとにはインタヴューすることが出来たが、〝上海の王〟はその所在さえつかめない。調べてみると、この王は、上海のマンダリン・クラブの副支配人という仮面をかむっていたリチャード・王という男で、青幇の大親分杜月笙と組んでいたギャンブル・ボスなのであった。
そしてこの青幇の幹部の一人が経営していた、銀座二丁目の米軍人クラブのⅤFWクラブにもぐりこんでいるというところまで突きとめたが、どうしても会えない。他の二人には会えたのに、三人目が欠けたのでは面目ないと、考えこんでいる時、サツ廻りの上野記者が、『新橋に王という変った男がいますよ』と情報を入れてくれた。