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雑誌『キング』p.128右側上・中段 幻兵団の全貌 同胞相喰む悲劇

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.128 つづき上段・中段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.128 つづき上段・中段

を求められた。元憲兵として有名な四、五人の名前を報告したところが、〝これだけしか知らんのか〟と嘲笑され、収容所をタライ廻しされた(チェレムホーボ)、同様の命令で、すでに検束された元憲兵四、五人の名前をあげてゴマ化そうとしたら、二つ、三つビンタを喰い、営倉に入れられ、一日四五〇グラムのパンと水だけの生活が、二カ月も続いた(ライチハ)という例でも分かるように、報告は厳重に要求していた。

従って、ここに同胞相喰む悲劇の源があるのであって、自己保身のため、無実の同胞を、虚偽の密告に苦しめるという、〝幻兵団の悲劇〟が、続々と起こったのである。樺太の阿部検

事正、永田判事らの非業な最期など、その代表的なものであろう。しかし、これら密告者たちに、各種の脅迫をもって、その報告を強要した、より大きな責任者のいることを見逃してはいけない。——

Ⓑは、在ソ間には、全く飼い殺しで、ただ報酬を与えられて、報告提出の義務はなかった。月一回程度の呼び出しの際には、思想係将校と、思想、政治関係の雑談に、一時間ばかりすごしてくるだけだった。これは、ソ連への忠誠の確かめと、ただ不労所得の大金を得ることが度重なることによる、心理的束縛感を深め、裏切りを予防することが、目的であったようだ。

雑誌『キング』p.115下段 幻兵団の全貌 『金をやろう』

雑誌『キング』昭和25年5月号 p.115 下段
雑誌『キング』昭和25年5月号 p.115 下段

したら、『なんだ、お前はこれだけしか知らないのか』と、その中尉に嘲笑されてしまった。そして、呼び出しがあると『腹痛だ』『作業に出ている』と逃げばかり打っていたので、役に立たないと思ったのか、各収容所を転々として廻される羽目になった。そして他の仲間はどんどんダモイするのに、私ばかり帰されなかった。

各所を廻されている間も、連絡はあるとみえて、それぞれのところで呼び出されていた。合計六回も行ったろう。最後は昭和二十四年七月末のこと、最初の通訳の少尉に逢った。

『金を持っているか』

この手で今までによくマキ上げられた経験があるので警戒して少なく答えた。

『二十ルーブルほどある』

『足りるか』

『どうやら煙草代にはなる』

『金をやろう』

私は驚いたが、わずかばかりの金なぞと思い、

『いらない』

『では、オレのいう通り書け』といって、

『私ハ賞金トシテ一二〇ルーブルヲ受領シタ』

と、領収証を私にかかせ、スパイ名で署名すると、金も一緒に自分のポケットにしまいこんで、『もう帰れ』と涼しい顔をしていた。

自分がスパイになったので、気をつけてみる