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新宿慕情 p.038-039 庭にフトンを投げ出して飛び降りた

新宿慕情 p.038-039 翌日、正午ごろになって、ふたりは、新宿二丁目のとある妓楼で、目を覚ましたのであった――正月だというのに…
新宿慕情 p.038-039 翌日、正午ごろになって、ふたりは、新宿二丁目のとある妓楼で、目を覚ましたのであった――正月だというのに…

私たちの顔を見て、午後からの延長戦の酒がはじまった。部下相手の酒よりは、やはり、まわりも早いのだろう。奥さんも可愛いお嬢さんたちも出てきて、正月らしいフンイキが盛り上がってきていた。
小学生のお嬢さんたちが、宿題の書き初めをやり出したので、私たちも、久し振りの毛筆に

興味を感じて、書き初めをはじめた。課長もその気になってきたようだった。

やがて、半紙がなくなると、課長は、公舎のフスマを指差して、「紙はあすこにある!」と叫んだ。

私たちはワルノリして、たちまち、フスマいっぱいに、文字やら絵らしきものなど、書き殴り出した。フスマから壁へと、座敷いっぱいに落書をしたあげく、夜ふけとともに、三人ではもの足りないと、近隣の公舎から、親しい課長たちを狩り集めてきて、大宴会になってしまった。

さて、靴はどこだ

サテ、話はこれからである。夫人が、二階にフトンをのべてくれて、ふたりは、そこに酔いつぶれ、寝こんでしまった。

だが、翌日、正午ごろになって、ふたりは、新宿二丁目のとある妓楼で、目を覚ましたのであった——正月だというのに、ふたりとも、オーバーは着ておらず、なによりも困ったことには、靴がないのである。帰れないのだ。

ふたりが、途切れ途切れの記憶をつづり合わせてみると、どうやら、こういうことだったらしい。

どちらが先に、目を覚ましたのか明らかではないが、夜半「どうして女がいないのだ?」と、遊廓に泊まっている夢でもみたのか、騒ぎ出したらしい。その結果、「どうやら、監禁されてい

るらしい」と、とんだ〝公安記者〟的推理から、〝脱走〟することになった。

二階の雨戸をあけ、庭にフトンを投げ出して、飛び降りた。ヘイを乗り越え、ガケをすべりおりて、タクシーを拾った。

そして、女たちの証言で、明け方ごろ、二丁目にたどりついた、ということらしかった。

こうして、正気にもどってみると、たとえ、正月のこととはいえ、警視庁記者クラブで、公安担当のふたりが、ふたりとも不在では困る、と気付いた。

出かけようとして、靴がないことがわかった。やむなく、警視庁に電話を入れ、課長別室付きの、巡査部長の運転手クンを呼び出した。

「いったい、どうしたのです。朝になって、〝犯行〟が発覚して、〝指名手配〟中でしたよ」

「イヤ、おれたちにも、良くわからんのだよ……」

「課長も心配してましたよ。二階の窓は明け放しだし、庭にはフトンが散乱しているし……」

「スマン。……ところで、靴があるかい?」

「持ってきましたよ。で、どこです。クラブでしたら、届けましょうか?」

「イヤ、クラブじゃないんだ」

「どこです?」

「二、チョ、ウ、メ……」

「二丁目? 新宿の?」