『先日亡くなった母は、鹿児島にいました。もちろん、戸籍上も清水郁夫ですよ。父は大陸で働いていて、引揚げてきて亡くなりました』
黒幕とみられている有名政治家が、実は彼の手先なのだッて? では一体……
私は再びアナリストに会った。
『第二、第三の男は?』
『第三の男、これは、鳩山、ドム会談に立会っているはずだ。この男も自称清水というンだ。しかし、本名は頭文字Oで、某政党の大立物S氏の関係者らしい』
『そのOとかSとかの本名は?』
『それはいえない。第二の男、ド氏を裏玄関へ案内した男、この男の正体は、いまもって分らないンだ……』
『前にアタった当局の係官は、清水郁夫の身許を、トコトンまで調べないうちに、上から止められたといっていたが、これはどうしてなンだい? S氏の線かね?』
『それは、わしにも分らない。きっとズットズット上の方で、納得がいっているからだろう。役人は上のいうことは、何でもきかなきゃいけないからネ、服務規律にそう書いてあるヨ』
もはや、これ以上は私には調べられなかった。もちろん、訊ねてみたって、国警長官も警視総監も、正直に打明けてはくれない。或は、彼らだって、そのワケは知らないかもしれない。警察は法律の執行体であって、政治家ではないのだから……。
ともかく、私の得た結論では、この鳩山邸の〝奇怪な三人〟については、なみなみならぬ高等政治によって、登場させられてきた男たちだということであった。
私がこれ以上、〝奇怪な三人〟について調べることを断念したとき、口籠ってばかりいた例のアナリストは、ホッとしたような表情で、私にいった。
『よかったですナ。アレはさわらん方がいいですよ。貴方も、奥さんや子供さんがいるンだから……』
私は、瞬間、〝恐怖〟が稲妻のように、背骨を走り抜けたように感じた。
『エッ!』
ニコヤカに微笑んだつもりだったが、顔の筋肉は醜く硬張っていたらしい。
四 日本の〝夜の首相〟と博愛王国
日ソ交渉が具体的に動きはじめた、二十九年十二月から、二、三ヶ月前のことだった。
当時まだ警視庁記者クラブ詰だった私は、ある日女性の電話に呼び出された。
『実は、Q氏(米人)に関してお話を承わりたいのですが、御都合如何でございましょう』
第一回菊池寬賞を受けてから、「東京租界モノ」は読売の専売特許であった。この女性は、読売本社に電話して、それならば警視庁クラブの三田記者に聞けと教えられ、今、こうして私
を呼び出したのであった。