最後の事件記者 p.124-125 彼は机の引出しをあけた

最後の事件記者 p.124-125 ブローニング型の拳銃が、銃口を私に向けて冷たく光っている。私の口はカラカラに乾き切って、つばきをのみこもうにも、ノドボトケが動かない。
最後の事件記者 p.124-125 ブローニング型の拳銃が、銃口を私に向けて冷たく光っている。私の口はカラカラに乾き切って、つばきをのみこもうにも、ノドボトケが動かない。

――何が起ろうとしているのだ?

呼び出されるごとに、立会の男が変っている。ある事柄を一貫して知り得るのは、限られた人だけで、他の者は一部だけしか知り得ない組織になっているらしい。

――何と徹底した秘密保持だろう!

鍵をしめた少佐は、静かに大股で歩いて、再び自席についた。何をいいだすのかと、私が片唾をのみながら、少佐に注目していると、彼はおもむろに机の引出しをあけた。ジット少佐の眼に視線を合せていた私は、「ゴトリ」という、鈍い音を聞いて、机の上に眼をうつしてみて、ハッとした。

――拳銃!

ブローニング型の拳銃が、銃口を私に向けて冷たく光っている。私の口はカラカラに乾き切って、つばきをのみこもうにも、ノドボトケが動かない。

誓いの言葉

少佐は、半ば上目使いに私をみつめながら、低いおごそかな声音のロシア語で、口を開いた。一語一語、ゆっくり区切りながらしゃべりおわると、少尉が通訳する。

『貴下はソヴェト社会主義共和国連邦のために、役立ちたいと願いますか』

歯切れのよい日本語だが、直訳調だった。少佐だって、日本語を使えるのに、今日に限って、のっけからロシア語だ。しかも、このロシア語という奴は、ゆっくり区切って発音すると、非常に厳粛感がこもるものだ。平常ならば、国名だってエス・エス・エス・エルと略称でいうはずなのに、いまはサューズ・ソヴェーツキフ・ソチャリスチィチェスキフ・レスプーブリクと、正式に呼んだ。

私をにらむようにみつめている、二人の表情と声とは、ハイという以外の返事は要求していないのだ。そのことを本能的に感じとった私は、上づったかすれ声で答えた。

『ハ、ハイ』

『本当ですか』

『ハイ』

『約束できますか』

『ハイ』

タッ、タッと、息もつかせずたたみこんでくるのだ、もはや、ハイ以外の答はない。