読売梁山泊の記者たち p.276-277 安藤組というのは背広をキチンと着こみ

読売梁山泊の記者たち p.276-277 やがて、彼が小笠原であること。射ったのは千葉という男、安藤より先に捕まるワケにはいかない、まだ自首はできない、ことなどを聞かされた。彼に電話させて、花田を奈良旅館に呼ばせた。
読売梁山泊の記者たち p.276-277 やがて、彼が小笠原であること。射ったのは千葉という男、安藤より先に捕まるワケにはいかない、まだ自首はできない、ことなどを聞かされた。彼に、花田に電話させて、花田を奈良旅館に呼ばせた。

男の受け渡し場所を決めて、私の、読売の社旗を立てた車が、その場所に近づいてゆくと、対向車線に停まった車から、ひとりの男が、こちらをめざして走ってくる。

その男を、社の車に拾って、赤坂見付の社用旅館の「奈良」に向かった。もちろん、運転手は、なにも知らないし、車内では一言も話をしなかった。もう夜になっていた。

奈良旅館に着いて、女中さんに部屋をとらせて、はじめて、明るい部屋で対座した。男は、「山口です」と名乗った。だが私には、王との話で、指名手配の小笠原らしい、と判断できたが、もとより、確認はしない。

「一体、どういうことです?」

それから、長い時間、私と彼とは、話をつづけていた。社会部の誰にも、何も連絡していない。ただ、司法クラブの二人には、電話して、「仕事で奈良旅館にいる」とだけ、連絡しておいた。

やがて、彼が、小笠原であること。射ったのは、千葉という男で、写真で見ると、自分に似ているので、横井が間違えたのだろう。私は、バクチの係で、「顧客名簿」を持っているので、これをサツには渡せないこと。

安藤がまだ捕っていないので、安藤より先に捕まるワケにはいかないから、まだ、自首はできないこと。自分が犯人でないということは、花田が知っていること。花田に聞いてもらいたい、といったことなどを聞かされた。

彼に、花田に電話させて、花田を奈良旅館に呼ばせた。

安藤組というのは、博徒でもないし、テキ屋でもない。不良少年グループだ、という。安藤の方針は、いわゆるヤクザ風な服装や髪形を禁じていた。「オレたちはギャングだ」というので、背広をキチンと着こみ、サラシの腹巻や、モンモン(刺青)など、許されなかった。

博徒ではないから、縄張りなど関係なし、ということで、渋谷で花札賭博をやる。博徒としては、渋谷は武田組のショバだ。武田組が安藤に文句をつけてきた時、安藤はこう答えた、という。

「オレが博徒なら、縄張り荒らしになる。しかし、オレたちはギャングだ。筋違いだ」

こうして、武田組と紛争になった。安藤組事務所に、武田組が殴り込みをかけてきた。三階建てビルの三階、せまい階段があるだけで、多数がワッとなだれこめない。一列縦隊で、階段を上がってくるのを、上から、消火器を噴射する。その圧力に、先頭の男が転がり落ち、後につづいた全員が、将棋倒しになって、殴りこみは失敗した、というエピソードさえある。

そして、花田という副親分は、当時、なんの事件も抱えておらず、合法面に出ていられる立場だった。

やがて、花田が現われた。礼儀正しい紳士であった。犯人は千葉であり、小笠原の指名手配は間違いだ。まだ、安藤とも、千葉とも連絡はついていないが、そのうち、安藤が捕まれば、千葉たちも自首するだろう。

安藤組としては、まだ、小笠原を自首させるわけにはいかない。ご迷惑をかけましたが今夜はもう

遅いので、明日、出発させます、という。