ころがり込んできた指名手配犯人」タグアーカイブ

読売梁山泊の記者たち p.010-011 目次(つづき) 章扉

読売梁山泊の記者たち p.010-011 目次02 序に代えて 務臺没後の読売(扉)
読売梁山泊の記者たち p.010-011 目次02 序に代えて 務臺没後の読売(扉)

第五章 異説・不当逮捕、立松事件のウラ側

大誤報で地に堕ちた悲劇のスター記者
三十年後に明かされた事件の真相

政治的思惑で立松を利用した河井検事
もしデマのネタモトを暴露していたら…
事件の後始末、スター記者時代の終わり

第六章 安藤組事件・最後の事件記者

ころがり込んできた指名手配犯人
犯人を旭川へ、サイは投げられた
発覚、そして辞職、逮捕、裁判へ…
いま「新聞記者のド根性」はいずこへ

あとがき

序に代えて 務臺没後の読売

読売梁山泊の記者たち p.272-273 かねて顔見知りの元山富雄から電話があった

読売梁山泊の記者たち p.272-273 六月に入ると、横井英樹・殺害未遂事件という、ドラマチックな事件がボッ発した。渋谷の不良、安藤組が拳銃で横井を射ったのである。いまでこそ、横井の〝正体〟はバレていて…
読売梁山泊の記者たち p.272-273 六月に入ると、横井英樹・殺害未遂事件という、ドラマチックな事件がボッ発した。渋谷の不良、安藤組が拳銃で横井を射ったのである。いまでこそ、横井の〝正体〟はバレていて…だが当時は、「東洋郵船社長」という実業家として通っていた

ころがり込んできた指名手配犯人

「危険な記者は、社会部の現場からトバす」というのが、新任の金久保社会部長の方針のようであった。

部長のこの方針は、とりも直さず、国会の法務委員会に、証人喚問されそうになって、震え上がってしまった、小島編集局長の方針でもあったのだろう。

この時期、原四郎は、編集総務から出版局長になって、新聞制作からは、遠ざけられていた。〝遠ざけられ〟たといっては、語弊があろう。立松事件の後遺症に苦しむ、社会部記者たちとは、隔離されていたのだった。

金久保部長に対する、私の反抗的な言動が、部長に伝わったのだろう。大阪の次長、週刊読売の次長といった、配置転換の話が、私にきたのは、昭和三十三年春ごろのことだったろう。

この二つの人事異動を拒否したのだから、この次には、もっと悪いポストの話がくるだろう、と思っていた。例えば、厚生部の次長とか、編集以外の部門に出されるナ、と感じていた。

——編集局以外へ左遷されたら、サッサと辞めてやる!

心中秘かに、そう決心をしていたものであった。まだ、三十歳代なのだから、転進するぐらいはヘッチャラさ、と、思っていた。

そして、六月に入ると、横井英樹・殺害未遂事件という、ドラマチックな事件がボッ発した。渋谷

の不良、安藤組が拳銃で横井を射ったのである。

久しぶりの、事件らしい事件に、警視庁クラブは沸き立っていた。司法クラブ前任キャップの萩原が、警視庁のキャップになっていたので、私も、道路一本を隔てた警視庁に出かけて、記者会見のやりとりを聞いていたりしたのだった。

ところが、安藤組の親分、安藤昇は逃亡していて、所在がつかめない。組事務所には、花田という副親分ひとりが残っていて、主な組員は、みな、地下に潜伏してしまった。

いまでこそ、毎日のように、殺人事件が起きていて、コロシが社会面のトップになるようなことはない。だが、そのころには、まだ殺人事件というのは、月に一件か二件だったから、コロシは、やはり社会面の花だった。

考えてみれば、きょうこのごろは、何でもないことで、すぐ、人を殺す。少なくとも、三十年前ごろには、殺人の件数が非常に少なかったのだから、イヤな世相に変わった、ともいえるだろう。

安藤親分は、依然として捕まらない。「これは社会不安である」として、当時の岸首相は、田中栄一警視総監を呼びつけて、叱りつけた。異例中の異例であった。

いまでこそ、横井の〝正体〟はバレていて、横井が射たれたといったところで、首相が総監を叱るなどとは、考えられもしないことだ。だが、当時は、横井は「東洋郵船社長」という、レッキとした実業家として、通っていたからであろう。

と、そこに、かねて顔見知りの元山富雄から、私に電話があった。元山とは、さきごろの国際航業

事件で、十二億円の〝闇対策費〟を受け取ったのち、急死してしまったことで有名な人物である。

読売梁山泊の記者たち p.274-275 「殺すんじゃない。左肩でもブチ抜いてやれ!」

読売梁山泊の記者たち p.274-275 横井は、白木屋の乗ッ取りをかけたことがある。その時動員したなかに、安藤がいた。いまは、渋谷の安藤組親分になっていた安藤を見て、横井は、「ナンダ、白木屋の時のチンピラか」と、小馬鹿にした。
読売梁山泊の記者たち p.274-275 横井は、白木屋の乗ッ取りをかけたことがある。その時動員したなかに、安藤がいた。いまは、渋谷の安藤組親分になっていた安藤を見て、横井は、「ナンダ、白木屋の時のチンピラか」と、小馬鹿にした。

いまでこそ、横井の〝正体〟はバレていて、横井が射たれたといったところで、首相が総監を叱るなどとは、考えられもしないことだ。だが、当時は、横井は「東洋郵船社長」という、レッキとした実業家として、通っていたからであろう。
と、そこに、かねて顔見知りの元山富雄から、私に電話があった。元山とは、さきごろの国際航業

事件で、十二億円の〝闇対策費〟を受け取ったのち、急死してしまったことで有名な人物である。

「安藤組事件のこと、知ってるかい?」というのだから、私は、欣喜雀躍して会いに出かけていった。

簡単に、事件のことを述べよう。横井が、蜂須賀侯爵家から、当時の金で二、三千万だかを借りて、返そうとしない。蜂須賀家では裁判を起こし、勝訴して差し押さえをかけたら、豪邸から家財道具までのほとんどが、他人名義のため、三万五千円の応接セットしか差し押さえできなかった。

その話を聞きこんだのが、元山である。元山は、安藤に話し、「法律で解決できないワルなら、オレたちが裁く」ということで、横井に掛け合いに行った。

横井は、それ以前に、東洋製糖の秋山社長問題から、白木屋の乗ッ取りをかけたことがある。白木屋というのは、いまの東急デパート日本橋店のことで、名門デパートだった。その時に、横井側で動員した不良少年のなかに、安藤がいたものだった。

いまは、渋谷の安藤組親分になっていた安藤を見て、横井は、「ナンダ、白木屋の時のチンピラか」と、小馬鹿にしたものである。

怒った安藤は、蜂須賀問題どころではなくて、渋谷の事務所に取って返すと、子分の千葉に命じた。

「横井をコラシめてこい。殺すんじゃない。左肩でも、ブチ抜いてやれ!」

千葉は、射撃の名手といわれ、銀座の東洋郵船社長室にのりこんで、命令通りに左肩を射ってきた、ものである。

一方、病床の横井に、警視庁の係官が、安藤組の顔写真を見せると、「コレだ!」と、犯人の顔を見つけた。これは、横井の見誤りで、事件に関係のない小笠原だったが、警視庁は、小笠原を全国に指名手配した。

そしてそのころ、これまた、旧知の王長徳という、怪中国人がいた。「東京租界」のころ、取材で知り合った男だ。この王から電話があって、彼の許に出かけていった。

この王が経営している、碑文谷あたりのマーケットの事務所にいるというので、そちらへまわって見ると、大声で怒鳴っている。

「なんだ、ホンの二、三日だというから、かくまってやったのに、もう一週間にもなる。一体、どうする気だ」

「ハ、ハイ。でも、まだ、組のほうから、何もいってこないので…」

安藤組の若い衆らしい男が、困り切った様子で、頭を下げている。

「ナニが、どうしたんだい?」

「イヤね、安藤組の男を預かったんだけど、指名手配だというから、出ていってくれ、といってるところだ」

「面白そうだネ。その男に会わしてくれよ」

「ヨシ、アンタにやるよ」

「わかった、オレがもらった!」

読売梁山泊の記者たち p.276-277 安藤組というのは背広をキチンと着こみ

読売梁山泊の記者たち p.276-277 やがて、彼が小笠原であること。射ったのは千葉という男、安藤より先に捕まるワケにはいかない、まだ自首はできない、ことなどを聞かされた。彼に電話させて、花田を奈良旅館に呼ばせた。
読売梁山泊の記者たち p.276-277 やがて、彼が小笠原であること。射ったのは千葉という男、安藤より先に捕まるワケにはいかない、まだ自首はできない、ことなどを聞かされた。彼に、花田に電話させて、花田を奈良旅館に呼ばせた。

男の受け渡し場所を決めて、私の、読売の社旗を立てた車が、その場所に近づいてゆくと、対向車線に停まった車から、ひとりの男が、こちらをめざして走ってくる。

その男を、社の車に拾って、赤坂見付の社用旅館の「奈良」に向かった。もちろん、運転手は、なにも知らないし、車内では一言も話をしなかった。もう夜になっていた。

奈良旅館に着いて、女中さんに部屋をとらせて、はじめて、明るい部屋で対座した。男は、「山口です」と名乗った。だが私には、王との話で、指名手配の小笠原らしい、と判断できたが、もとより、確認はしない。

「一体、どういうことです?」

それから、長い時間、私と彼とは、話をつづけていた。社会部の誰にも、何も連絡していない。ただ、司法クラブの二人には、電話して、「仕事で奈良旅館にいる」とだけ、連絡しておいた。

やがて、彼が、小笠原であること。射ったのは、千葉という男で、写真で見ると、自分に似ているので、横井が間違えたのだろう。私は、バクチの係で、「顧客名簿」を持っているので、これをサツには渡せないこと。

安藤がまだ捕っていないので、安藤より先に捕まるワケにはいかないから、まだ、自首はできないこと。自分が犯人でないということは、花田が知っていること。花田に聞いてもらいたい、といったことなどを聞かされた。

彼に、花田に電話させて、花田を奈良旅館に呼ばせた。

安藤組というのは、博徒でもないし、テキ屋でもない。不良少年グループだ、という。安藤の方針は、いわゆるヤクザ風な服装や髪形を禁じていた。「オレたちはギャングだ」というので、背広をキチンと着こみ、サラシの腹巻や、モンモン(刺青)など、許されなかった。

博徒ではないから、縄張りなど関係なし、ということで、渋谷で花札賭博をやる。博徒としては、渋谷は武田組のショバだ。武田組が安藤に文句をつけてきた時、安藤はこう答えた、という。

「オレが博徒なら、縄張り荒らしになる。しかし、オレたちはギャングだ。筋違いだ」

こうして、武田組と紛争になった。安藤組事務所に、武田組が殴り込みをかけてきた。三階建てビルの三階、せまい階段があるだけで、多数がワッとなだれこめない。一列縦隊で、階段を上がってくるのを、上から、消火器を噴射する。その圧力に、先頭の男が転がり落ち、後につづいた全員が、将棋倒しになって、殴りこみは失敗した、というエピソードさえある。

そして、花田という副親分は、当時、なんの事件も抱えておらず、合法面に出ていられる立場だった。

やがて、花田が現われた。礼儀正しい紳士であった。犯人は千葉であり、小笠原の指名手配は間違いだ。まだ、安藤とも、千葉とも連絡はついていないが、そのうち、安藤が捕まれば、千葉たちも自首するだろう。

安藤組としては、まだ、小笠原を自首させるわけにはいかない。ご迷惑をかけましたが今夜はもう

遅いので、明日、出発させます、という。

読売梁山泊の記者たち p.278-279 「事件とはこういうもんだ」と教えてやろう

読売梁山泊の記者たち p.278-279 車中、ひとりになって考えてみた——花田に頼んだら、安藤と連絡がつくかも…自首の前夜に、〈単独会見〉というのも、悪くないな。〝安藤逮捕〟というビッグ・ニュースを読売のスクープにできる。毎日ひとりずつを自首させて…
読売梁山泊の記者たち p.278-279 車中、ひとりになって考えてみた——花田に頼んだら、安藤と連絡がつくかも…自首の前夜に、〈単独会見〉というのも、悪くないな。〝安藤逮捕〟というビッグ・ニュースを読売のスクープにできる。毎日ひとりずつを自首させて…

やがて、花田が現われた。礼儀正しい紳士であった。犯人は千葉であり、小笠原の指名手配は間違いだ。まだ、安藤とも、千葉とも連絡はついていないが、そのうち、安藤が捕まれば、千葉たちも自首するだろう。
安藤組としては、まだ、小笠原を自首させるわけにはいかない。ご迷惑をかけましたが今夜はもう

遅いので、明日、出発させます、という。

「分かりました。しかし、指名手配は解除されていないのだから、私は、これで帰りますが、夜があけたら、ここから立ち去って下さい」と、私は結論を出した。

トイレに立って、部屋に二人だけの時間を作ってやった。帳場に行って、「お客さんはひとり泊まる。朝食を出してやってくれ」と頼んで、部屋に戻った。

花田は、小笠原に金を渡したようだった。

「それでは、私はお先に失礼します」と、挨拶をして、花田は帰った。私も、車を呼んで帰宅した。

車中、ひとりになって、考えてみた——花田は、安藤と連絡が取れていない、といっていたが、小笠原の連絡が、すぐ花田に通じたことをみると、もちろん、組事務所ではなく電話連絡のルートがあるのだろう。

花田のカミさんは、渋谷でクラブを経営しているというし、渋谷一帯には、安藤組の影響下にある店や事務所は多い。

小笠原は、横井の写真面通しで、指名手配犯人にされているが、事実は、千葉の犯行だということだ。小笠原には、これ以外に、現在のところ、なんのヤマ(犯罪事実)もないということだった。

——ウン? 花田に頼んだら、安藤と連絡がつくかも知れないナ…。安藤だって、逃げ切れるものではないのだから、やがて、自首するだろう。

——それなら、自首の前夜に、花田に頼んで安藤に会わせてもらって、〈単独会見〉というのも、悪

くないな…。

——首相が総監を叱りつけた事件だ。その安藤にあって、オレが自首をすすめる。説得できれば、警視庁と連絡をとって、逮捕という形の自首をさせる。すると、〝安藤逮捕〟というビッグ・ニュースを読売のスクープにできるな!

——いま、地下に潜っているのは、安藤以下五人だ。小笠原は、「兄キより先に自首はできない」といったから、安藤でスクープしたあと、小笠原以下、毎日ひとりずつを自首させて、五日間の連続スクープか…。——だいたいからして、いまの社会面はなんだ? 企画モノでなければ、トップを張れないなンて、事件の読売はどうなったンだ?

——巨人戦の招待券を、クラブでバラまいているような社会部長なんて、あるもんか。畜生! 〝社会部は事件〟なんだゾ!

——黙っていたら、あの部長には、社会部なんて、分かりやしないさ…。ひとつクーデターを起こして、目を覚まさせてやるか!

世田谷は、梅ヶ丘の自宅まで、車の中で、私の気持ちは、だんだん、高揚してくるのだった。

——そうだ、これはクーデターだ!

〝五人の犯人の生け捕り計画〟は、五日間の連続スクープ、ということになる。〝事件〟に逃げを打つ編集局長と、社会部長とに、事件で育ってきた社会部記者が、「事件とはこういうもんだ」と、教えてやろう…。

読売梁山泊の記者たち p.280-281 小笠原ではダメだ。花田にゲタを預けなければ

読売梁山泊の記者たち p.280-281 「え? かくまえ、だって? あんたは、指名手配犯人ですよ。…刑法の犯人隠避罪になるんですよ、この私が…」今度は、小笠原が口をつぐんでしまった。気まずい沈黙の時が、しばらく流れた。——ウン、とうとう、飛びこんできたゾ!
読売梁山泊の記者たち p.280-281 「え? かくまえ、だって? あんたは、指名手配犯人ですよ。…刑法の犯人隠避罪になるんですよ、この私が…」今度は、小笠原が口をつぐんでしまった。気まずい沈黙の時が、しばらく流れた。——ウン、とうとう、飛びこんできたゾ!

金久保社会部長と、小島編集局長に対してクーデターを起こそう、という決心は、社の車で送られて、世田谷の家に帰りつくまでにもう、九分九厘まで決めていた。

翌日、やや早目に起きると、社の自動車部に電話して、家から五分ぐらいの距離にある北沢署に車を呼んだ。

たしかに、〝いい時代だった〟と思う。三十歳代の後半とはいえ、出勤には、いつも社用車が使えたのだから…。

ひる前ごろ、赤坂の奈良旅館に着いてみると、小笠原は、昨夜、「指名手配なのだから夜が明けたら、ここを立ち去って下さい」といっていたのに、まだ、旅館に居たし、私の来るのを、待っていたような感じだった。

「どうしたんです。まだ、居たんですか」と私はワザと、詰問調にいった。

「…あのう、お願いがあるんですが…」

——きたな! と、私は思った。

「ゆうべと今朝、花田とも、連絡を取ったのですが、やはり、兄キよりも先に、捕まるわけにいかないんです。それに、私の指名手配はマチガイですし…」

「……」

「…で、兄キが自首するまで、もうしばらくの間、どこかに、かくまって頂けないものでしょうか…」

「え? かくまえ、だって? あんたは、指名手配犯人ですよ。…刑法の犯人隠避罪になるんですよ、この私が…」

今度は、小笠原が口をつぐんでしまった。気まずい沈黙の時が、しばらく流れた。

——ウン、とうとう、飛びこんできたゾ!

——しかし、小笠原との〝取引〟ではダメだぞ。花田に、ゲタを預けなければ…。

ダンマリのなかで、私の心の中では、着々と、クーデター計画が煮つまっていった。

「この場では、私には返事ができない。仕事もあるので、私はでかけるけど、夕方、暗くなったら、花田さんを呼んでおきなさい。

メシは運ばせるけど、部屋から出てはダメだよ。今朝、ここを立ち去らなかったので、私は、再度、今夜には出ていくように、厳重に注意したんだよ」

事務的な口調でそういうと、司法記者クラブに出かけていった。

犯人を旭川へ、サイは投げられた

夕刊の締め切りがすぎたころ、私は、警視庁クラブに出かけていって、キャップの萩原や、捜査二課担当の子安雄一記者に、安藤への追及状況を聞いた。まだ、足取りは、まったくつかめていないようだった。

それから、シベリアで一緒に苦労した、大隊長の塚原元大尉に電話を入れ、「至急、会って相談した

いことがある」といった。