迎えにきたジープ p.032-033 CICは彼をおとりに使った

迎えにきたジープ p.032-033 "Phantom Corps, No. 3", Takurou Saito has asked the CIC for protection from the Soviet Union. He had been ordered by the Soviet Union to "return to his previous job and spy on shipbuilding plans."
迎えにきたジープ p.032-033 ”Phantom Corps, No. 3″, Takurou Saito has asked the CIC for protection from the Soviet Union. He had been ordered by the Soviet Union to “return to his previous job and spy on shipbuilding plans.”

ソ連から政治的な指令をおびてきているという自供をした、一月七日の遠州丸草田梯団の鈴木高夫氏は、「幻兵団第一号」ではあったが、この酒井元少尉の場合は政治的というより、純然たるスパイ指令であったから、いよいよ本格的

になってきたのである。

ともかくCICの二世たちは、日本人の取扱いが下手で、猜疑心ばかり深く、そしてらつ腕であった。だからその取調べも想像がつこうというものである。それにくらべると、LSの方がより好意的である。

LSではこうだ。せまい小部屋に呼びこまれて好意的に訊問される。いい話が出たりすると、まず「ひかり」の数本が机上に出される。その話が詳しければ、さらにチョコレートやキャンデーが出てくる。しまいにはジュースや果物だ。

——どんな服装の兵隊がいた? それはどんなマークをつけていた? 何人位? フーン。どんな武器を持っていた?

——貨物列車が走っていたって? 何方へ? フーン、何輛位? 何を積んでいた?

こうして兵力の分布や装備、移動までが分り、工場の煙突の数や作業内容から、軍需生産の規模が分り、その土地の一年間の天候気象までがつかめる。この訊間法や引揚者の取扱の差違が、軍事情報のLSと思想警察のCICの違いである。

瓜生対高木の功名争いはついに瓜生准尉の勝となった。本格的「幻兵団」の出現にCICは色めき立ったのである。顧問団の発意で、幻兵団摘発係の一班が顧問団の中に設けられ、直ち

に同船の元将校たちの帰郷準備は延期することとなった。だがその甲斐もなく他には一名も発見されなかった。

八月に入って第二回の将校梯団が入ったがそれも駄目。九月二十七日に栄豊丸が入港したとき、一人の元将校が米側当局に保護を求めて駈け込んできた。「幻兵団第三号」であった。

齊藤卓郎という九大工学部卒の某造船所勤務の航空技術少尉で、『帰郷後は前職にもどり、造船計画をスパイせよ』というのである。合言葉もスパイ用偽名も決められてきた。彼は保護を申出たが、CICは彼をおとりに使った。彼はいまでもその造船所に勤めているが、果してCICの操るように、おとりとして働らき、その成果をあげたかどうか分らない。

このようなアメリカ側の挑戦に対して、ソ連側が黙っているはずはなかった。舞鶴での軍事思想調査の件は、二十一年暮と翌年一月の引揚者たちから直ちにソ連側に伝わった。彼らは完全にソ連スパイとしての初仕事をしたのだ。

この事実は直ちに日本新聞に掲載されて、大々的に宣伝され、全収容所に訓令が飛んで、特に最終集結地のナホトカでは、その米軍調査への対策特別教育までが行われ始めた。

幻兵団第三号の齊藤氏が保護を訴え出たころになると、ソ連側の教育も徹底してきた。例えば何号ボックスの調べ官は何という男で、何と何をきくから、それに対してはこう答えろ。