最後の事件記者 p.346-347 あらゆる男性がおそろしいけがらわしい

最後の事件記者 p.346-347 この投書は下積みになっていて、女史が見たのはつい最近のことで、すでに遅かった。叔父が彼女の家にいってみると、昨夜服毒したらしく、苦しがってのたうち廻っている彼女の姿があったのだ。
最後の事件記者 p.346-347 この投書は下積みになっていて、女史が見たのはつい最近のことで、すでに遅かった。叔父が彼女の家にいってみると、昨夜服毒したらしく、苦しがってのたうち廻っている彼女の姿があったのだ。

自殺した娘の日記

私がふたたび真杉女史のもとを訪れると、意外な人物がきていた。自殺した娘の叔父である。彼は、娘の日記と、人生案内の記事とを持ってきていたのである。

「八人兄妹の次女で二十歳の娘。二年前に母と死別、兄と姉は家出して行方不明。私は勤めもやめて、五人の弟妹の面倒をみてきたのですが、食べてゆくのがやっとです。父は給料の半分以上もお酒に使い、私がいくらお金がないといっても、きいてくれません。最近では、父は酔うと、私にイヤらしいことをいったり、夜中にフトンをめくったりします。あまりのことに夜もねむられず、父がお酒をのんだ時の、あの眼をみると恐しくて、このままでいけば、自殺するより仕方のない私に、希望のもてる生き方を教えて下さい」

「お手紙を読んで、私も泣きました。二十歳の娘さんであるあなたは、そんなお父さんの変質の犠牲になるわけにはゆきません。紙上解答が原則ですが、特にあなたには相談にのってあげますから、お手紙を下さい」

そんなような問答だった。だが、この投書は下積みになっていて、女史が見たのはつい最近のことで、あわてて解答を掲載したのだったが、すでに遅かった。彼女は、その新聞を持って、叔父のもとにやってきた。

「もう、遅かったわ」

彼女はそういって、その新聞を叔父にみせた。その時、手の中でオモチャにしているものがあるので、見るとネコイラズだった。あわてる叔父に、「大丈夫よ」と笑うので、「明日は工場を早退して、相談に乗ってやるから」といってやったので、彼女は帰っていった。

翌日の夕方、叔父が彼女の家にいってみると、昨夜服毒したらしく、苦しがってのたうち廻っている彼女の姿があったのだ。

「そんなことを書かれたら、父親は自殺してしまいます。酒をのむと人が変ってしまうのですがシラフの時は気の小さい男なのですから、死ぬことは間違いありせん。どうか、書かないでやって下さい」

父親の弟というその男は懸命になって頼むのだったが、私は黙っていた。真杉女史も答えない。日記をみると、如何にも文学少女らしい日記で、一日もかかさずにつけている。だが、その年の三月ごろから、父への呪いの言葉が書かれはじめている。

三月×日、父はお酒をのむと、いやらしい様なしぐさをする。それがほんとにいやだ。

四月×日、叔父は相談に来いという。なぜ行けないのだろう。叔父もやはり男性として考えているからかもしれない。私は父のある半面を非常に憎み、そしておそれている。私にとっては、あらゆる男性がおそろしい。けがらわしいもののように思えてしまう。

六月×日、父はお酒をのんでは、いやなことばかりしようとする。人の身体をさわりたがったり……