黒幕・政商たち」タグアーカイブ

黒幕・政商たち p.078-079 全部日本電建の名儀となった

黒幕・政商たち p.078-079 「井原政務次官は、私の前で、田中角栄前蔵相(注。日本電建の前社長である)に電話をかけ土地買上げの予算措置まで頼んでくれたほどで、井原、田中議員らへの、政治献金も信じられた」
黒幕・政商たち p.078-079 「井原政務次官は、私の前で、田中角栄前蔵相(注。日本電建の前社長である)に電話をかけ土地買上げの予算措置まで頼んでくれたほどで、井原、田中議員らへの、政治献金も信じられた」

そしてまた、この佐々木環は、四十二年夏の、東京相互銀行からの、一億円詐取事件をおこし、さらに、朝日新聞の「板橋署六人の刑事」問題のタネとなった人物であることは、いうまでもないことであろう。一億円詐取は大映手形パクリ事件の、保釈金返済のため、迫られて起した事件であり、こうして常習犯罪者の犯罪は、金額の面からも次第にエスカレートしてゆくものなのである。

岡林の犯罪歴は、二十七年一月に商品詐欺で西宮署(起訴猶予)、二十九年一月に業務上横領で生田署(不起訴)、三十六年十一月に土地詐欺で兵庫署(起訴猶予)の三回。いずれも、法のスレスレを歩いているとみえて、起訴をまぬかれている。

この岡林が、二十六年九月に、神戸市兵庫区湊町の自宅に、自分の片腕としていたグレン隊大江某を社長に、自分は監査役となって設立したのが、神港建設である。これを三十八年三月に解散し(光明池の売買の税金を背負わせたためか=冒頭の話の実例)、同年八月、大阪市西区江戸堀北通に、東洋殖産を設立した。茨城県のケースは、この東洋殖産でやるつもりであったらしい。今度は、自分の銀行取引停止期間が満了していたためだろうか、自ら社長となり、専務には日本電建大阪支店用地係長だった村木典男を据え、監査役には内妻中村君子を配した。

愛媛出身の自民党井原岸高代議士と同郷で、秘書と称するほど同氏に可愛がられていたが、

これが、茨城県の土地の防衛庁買上げやら、政治献金やらに利用されるキッカケとなった。告訴人の佐々木にいわせると、「井原政務次官は、私の前で、田中角栄前蔵相(注。光明池地区転売と、東洋殖産村木専務に関係のある日本電建の前社長である)に電話をかけ土地買上げの予算措置まで頼んでくれたほどで、井原、田中議員らへの、政治献金も信じられた」というのに対し、井原代議士は、「トンでもない。三十八年十月ごろ、岡林に連れられて次官室へきたので、一分足らず会っただけ」と、全くアベコベで、真相はさだかではない。

だが、この岡林の逮捕歴と、光明池団地の宅地の所有権移転、茨城県の広布産業事件と、時間的に彼の行動を追ってみると、内容が明らかになってくる。二十六年神港建設創立、二十七年商品詐欺、二十九年業務上横領、三十六年一月光明池A地区買収(坪二百二十円程度)、同年二月東棉へ売却、同年三月同F地区買収、同年四月東棉へ売却、同年八月、A、E地区を日本電建へ売却(東棉嘱託)、同年十一月土地詐欺、同十二月B地区買収、三十七年一月B地区を日本電建へ売却、同年七月、B、C地区買収、いずれも直後に日本電建へ売却、同年八月F地区買収、同年九月日本電建へ売却。こうして、光明池地区三十八万坪は、三十七年九月八日現在で、全部日本電建の名儀となった。そして、その時期に公団本所から、大阪支所へ光明池団地の調査命令が出たのだから、田中角栄代議士と日本電建、公団という、三者の関係を想起させるに十分であろう。その間、東棉不動産部は、わずかに、A、E地区に介在したにすぎない。ま た、勝又用地課長の収賄は、この時期から三十八年春にかけてのことである。

黒幕・政商たち p.080-081 児玉誉士夫一派の幹部吉田の子分

黒幕・政商たち p.080-081 日本電建から東棉へ、すべてが売られた時期、岡林は神港建設を解散させた。〝蒸発〟させたのである。税法上の問題は、すべて「神港建設」にかぶせた。そして、「東洋殖産」を設立して、茨城県に取りかかった
黒幕・政商たち p.080-081 日本電建から東棉へ、すべてが売られた時期、岡林は神港建設を解散させた。〝蒸発〟させたのである。税法上の問題は、すべて「神港建設」にかぶせた。そして、「東洋殖産」を設立して、茨城県に取りかかった

田中角栄代議士と日本電建、公団という、三者の関係を想起させるに十分であろう。その間、東棉不動産部は、わずかに、A、E地区に介在したにすぎない。ま

た、勝又用地課長の収賄は、この時期から三十八年春にかけてのことである。

大映手形パクリ事件の主役は?

三十八年四月一日、この三十八万坪は日本電建から東棉へと、すべて売却された。その登記が同月二十六日、週日後の五月一日には、東棉から大橋富重の興亜建設へ売却されて、六日に登記された。眼を公団側の動きに転ずると、同八日に大阪支所支部長会議で、光明池開発を決め、買収価格の承認申請を、本所にすることになった。同十三日、本所理事会はこれを承認したが、十五日には東棉と興亜建設とは、五月一日の売買契約を解除して東棉に所有権をもどしたが、同じ日のうちに、再び売買契約を結ぶという不明朗極まりないことをしている。十五日の合意契約解除を、翌十六日に登記したのち、十五日の再契約は十七日に登記した。

というのは、十六日には、公団と興亜建設との間で、公団希望の三十八万坪を興亜が世話するという協定書が調印されて、十七日には三十一万坪の、売買契約が行なわれていたからである。そして、二十日に公団名登記、二十四日には九割に当る十一億五千二百万円が支払われるという、スピード振りである。

三十八年四月一日、日本電建から東棉へ、すべてが売られた時期、岡林は神港建設を解散させてしまった。〝蒸発〟させたのである。多分、税法上のいろいろの問題は、すべてこの「神

港建設」にかぶせたのであろう。そして、八月に「東洋殖産」を設立して、茨城県に取りかかったようだ。

そのころ、今西(前出英文誌社長)の紹介で、佐々木と知り合い、十月には防衛庁政務次官室へ伴い、二十五日に契約、十一月五日登記という段取りであったが、公団と違って、相手も海千山千のしたたか者、筋書き通りに運ばなかったようだ。三十年二月、地元民から四億八千万円で買いあげ、七億五千万円で佐々木に売りつけようとしたのが失敗、それどころか詐欺で告訴され、志賀代議士に国会で問題化されるという、すべて裏目に出てしまった。

この三十四万坪も、しかるべき政界要路の人物を動かして、公団に売りつけようとしたか、公団の情報を取っていたかだったのだろうが、そうそう柳の下にドジョウがおらず、佐々木をえらんだのだろう。志賀質問でビックリしたのが、岡林本人はもちろん、東棉側である。

早速、この話を内緒にせねば、光明池の痛いハラも探られては叶わんというので岡林、佐々木会談が開かれ、告訴取下げという条件で、話が進められた。その時、佐々木の大映手形パクリ事件のさいに、その保釈金二百万円を立替えたということで、佐々木の代理人と称する、白垣某が登場してきた。児玉誉士夫一派の幹部吉田裕彦氏の子分である。

そればかりではない。港会の親分波木量次郎氏も、この広布産業事件を書きたてるオ色気専門の日刊観光との仲介にと乗り出してきた。サア事は大変になってきた。こういう事態になっ

てくれば、金を出して「ヨロシク」と、頭を下げて廻る役廻りは、〝伝統ある綜合商社〟東洋棉花以外の誰でもない。

黒幕・政商たち p.082-083 必ず顔を見せる右翼の先生方

黒幕・政商たち p.082-083 赤坂の料亭「金竜」で、児玉誉士夫、吉田裕彦が立ち会い、一派の永光伝、大橋富重らが、居る中で、東棉代理人岡林から、今西、柴山へ一千万円が手渡され
黒幕・政商たち p.082-083 赤坂の料亭「金竜」で、児玉誉士夫、吉田裕彦が立ち会い、一派の永光伝、大橋富重らが、居る中で、東棉代理人岡林から、今西、柴山へ一千万円が手渡され

早速、この話を内緒にせねば、光明池の痛いハラも探られては叶わんというので岡林、佐々木会談が開かれ、告訴取下げという条件で、話が進められた。その時、佐々木の大映手形パクリ事件のさいに、その保釈金二百万円を立替えたということで、佐々木の代理人と称する、白垣某が登場してきた。児玉誉士夫一派の幹部吉田裕彦氏の子分である。

そればかりではない。港会の親分波木量次郎氏も、この広布産業事件を書きたてるオ色気専門の日刊観光との仲介にと乗り出してきた。サア事は大変になってきた。こういう事態になっ

てくれば、金を出して「ヨロシク」と、頭を下げて廻る役廻りは、〝伝統ある綜合商社〟東洋棉花以外の誰でもない。

一方、光明池で、用地課長に贈賄して〝事務的処理〟の促進を図った柴山は、日本電建—東棉—興亜—東棉—興亜—公団と、コトがうまく運んだにもかかわらず、彼への「手数料」が来なかったので社長の今西と共に「岡林から一千万円をおどし取った」ことにされた。本人はもちろん、〝手数料を正規に請求〟したにすぎないという。

この時も、赤坂の料亭「金竜」で、児玉誉士夫、吉田裕彦が立ち会い、一派の永光伝(大元産業社長、児玉の片腕吉田の直系)、大橋富重らが、キラ星の如く居流れる中で、東棉代理人岡林から、今西、柴山へ一千万円が手渡され、それも東京勢四百万、大阪勢六百万と分割されて、大阪勢は、今西、柴山は各二百万、他の一人が二百万と分配されたそうだ。

さて、こうして眺めてみると、一体、この事件で誰が稼いだのか、というバランス・シートを作ってみたいものだ。損をしたのは間違いなく東棉。イヤ、〝損な役廻り〟というべきか。馴れない不動産部門を作って、岡林の素性も調べず、ハンコ一切を預けて、嘱託の肩書を認めたのだから、豊田の責任が追及されるのも当然。さらに府警の調べから、実弟が金融業をしていることも判り、地価吊りあげの共犯から、私腹を肥やした疑いまでかけられている。だから、戦前からの東棉マンたちは、金の得失にかえられない、社名のドロを嘆いている。

会社のモメ事には、必らず顔を見せる右翼の先生方は別としても、左翼の志賀先生まで登場するのだから、この事件のスケールが判ろうというもの。

関係者の誰れ彼れにたずねても、バランス・シートの人名表は出してくれないが、最後に、当時、公団宅地担当理事であって、光明池に反対した滝野好暁氏をたずねた。公団の総務部長、監事、理事と進んだ、消防庁出身の生え抜きで、現在は社保連常務理事にある人。氏が公団を去ったあと、理事には河野人事で、ラジオ関東から弘田竜之進が入った。

「私もまだこんな団体の役員でいるから、そのことは話したくない。しかしですね、河野一郎という人は、大キライですナ、私を呼びつけて、大勢の人がいる前で、バカヤロー呼ばわりで、クビにするゾと怒鳴りつけたですよ。かりにも、住宅公団の理事をですよ。そんな態度をとるというのは、人間として認めていないことです。何で呼びつけられ、何でクビにするぞといわれたか、それは、まだ、話す機会ではありませんな」

滝野氏には、数年前の〝暗い想い出〟がまだよみがえるのだろうか、暗たんとした表情がよぎった。〝力は正義〟なのだろうか。検察が解明できないというのであれば、与論だけしか期待できないのだろうか!

黒幕・政商たち p.084-085 福田蔵相の名を使い不渡り手形

黒幕・政商たち p.084-085 昭和四十年。八月十一日付毎日新聞朝刊=福田蔵相の名を使い、不渡り手形を出したゆうれい会社事件を国会で 追及
黒幕・政商たち p.084-085 昭和四十年。八月十一日付毎日新聞朝刊=福田蔵相の名を使い、不渡り手形を出したゆうれい会社事件を国会で 追及

第5章 怪談「流通機構社」のその後

昭和四十年。八月十一日付毎日新聞朝刊=福田蔵相の名を使い、不渡り手形を出したゆうれい会社事件を国会で追及、十日の衆院商工委員会で、民社党の麻生委員は、全日本流通機構会社にまつわる疑惑などについて、大蔵、通産両省、中商企業庁当局の責任を追及した。

黒幕・政商たち p.086-087 福田一元通産相の息子の福田弘

黒幕・政商たち p.086-087 会長福田赳夫、顧問、湊日興証券社長、星野東京ヒルトン副社長、飯塚国学院大学教授、相談役、神谷トヨタ自動車販売社長、社長は、福田一元通産相の息子。ところが、その手形は、全部不渡り。
黒幕・政商たち p.086-087 会長福田赳夫、顧問、湊日興証券社長、星野東京ヒルトン副社長、飯塚国学院大学教授、相談役、神谷トヨタ自動車販売社長。社長は、福田一元通産相の息子。ところが、その手形は、全部不渡り。

会長が大蔵大臣の会社

詐欺を働いても安全?

衆議院議員麻生良方。民社党所属で東京一区選出の知性派である。まず、この人の話から紹介しよう。この麻生議員の言葉が信じられないことはあるまい。

「私は、全日本流通機構株式会社の件を、衆院商工委で質問するに当って、関係者である福田赳夫蔵相や福田一元通産相に質問の連絡をしました。すると、御両人とも、本人じきじきに、幾度か私のもとに連絡をされてきました。これでも、事件の内容というものが推察されるではありませんか。そして福田一議員などは、『イヤ、いろいろとユスられて困っているんだ』と、述懐されていたほどです……」

つまり、麻生委員の質問は、同社のパンフレットを印刷した「さとう印刷」という会社は、そのパンフレットに、「会長福田赳夫、顧問、湊守篤(日興証券KK社長)、星野直樹(東京ヒルトンホテル副社長)、飯塚重威(国学院大学教授)、相談役、神谷正太郎(トヨタ自動車販売KK社長)」と、現役大蔵大臣をはじめとして、知名人の名が記入されており、社長は、福

田一元通産相の息子ときいたので、すっかり信用して、手形払いの条件で仕事を引受けた。ところが、その代金四十四万円の手形は、全部不渡り。こんなことがあってよいものか、蔵相は承知しているのか、といったものである。

これに対し、福田蔵相は出席せず、大蔵省の村上官房長が代って答弁に立ち、「結論からいうと、承諾を与えたことはない。三十九年春知人が青年を連れてきて『最近の流通機構の近代化について、話を聞かせてほしい』といい、大臣は『準備なり資金がととのわないと……』と説明した。ところが、四十年の一月に会社ができ、名前が使われているというので、誤解を招くといけないと知人を呼び、大臣が語気強くパンフレットの回収と名前の削除を命じた。電光石火のようにものを買って姿をくらましたため、誠に申しわけない。大臣に就任してから、会社の役員などは全部やめている」と、弁明した。(毎日紙)

さて、これで、大体前後の事情はのみこんで頂けたことであろう。つまり、福田一元通産相の息子の福田弘なる人物が、代表取締役になって、本人の許可もなく、会長に福田赳夫の名前を使い、さらに、顧問、相談役などに一流財界人の名前を並べて、取込み詐欺同様のマネをして、会社は〝蒸発〟し、社長はノウノウとしている、といった事件なのであるが、不思議なことには、これが、いわゆる事件化しないのである。つまり、刑事事件として、十分な要件を揃えておりながら、何故か〝不発〟なのである。

黒幕・政商たち p.088-089 福田一はユスられて困っている

黒幕・政商たち p.088-089 この金を渡す時、福田一議員はクドイほど「これは不渡り手形の買戻し代金ではない。あくまで、親として息子の不始末への寸志です」と、念を押した
黒幕・政商たち p.088-089 この金を渡す時、福田一議員はクドイほど「これは不渡り手形の買戻し代金ではない。あくまで、親として息子の不始末への寸志です」と、念を押した

そこで、冒頭の、麻生議員のいう「福田一さんは、ユスられて困っていると、述懐していた」という言葉を、思い起して頂きたい。何故、福田一議員がユスられねばならないのだろうか。

なお、この麻生質問のあとで、福田一議員から、麻生議員へ申し入れがあったのだ。つまり、息子の不行跡によって、迷惑をかけた相手に対して、親としての誠意を見せたいというのである。そして若干の金が、福田一議員からさとう印刷社長に対して贈られた。その金額は、関係者が明らかにしないので不明だが、この金を渡す時、福田一議員はクドイほど「これは不渡り手形の買戻し代金ではないですよ。あくまで、親として息子の不始末への寸志ですよ」と、麻生議員に念を押したという。

この辺のところが、私がこれから語ろうとする〝怪談〟の、ナゾ解きのヒントなのである。

さて、毎日新聞の記事を読んで、これは何かがありそうだと感じた私は、これを切り抜いてスクラップした。それから数カ月後に、Yというイニシアルの男が元流通機構の社員で、事情に詳しいという話を聞いたのであった。

あるミシン会社の社員になっているという、そのYを探すため、まず各社の人事部を調べたが、本社員に該当者はいない。次は、各支店ごとに持っている、セールスマンの名簿だ。これを丹念に調べていって、ついにYの居所をつきとめたのである。そして、Yは私の会見申込に

応じて、都心の喫茶店に現われた。

おそまつな〝ごあいさつ〟

問題の全日本流通機構株式会社は、登記とう本によると、代表取締役に福田弘(福井県大野市亀山二二八)=注。福田一議員の選挙区=金沢政男(大阪市住吉区中加賀町四ノ六一)の両人がなっており、福田蔵相の名前はない。資本金二千五百万円で、四十年一月十二日設立。

「全国唯一の全国組織をもつ、共同仕入供給の代行機構です」と謳う、会社概況によると、営業種目は多様である。乾物嗜好品、乳製品、調味料、菓子、缶詰等の食料品。外衣、肌着、寝具等の衣料。化粧品、日用雑貨、薬品、酒類、時計、家具等の消費財。前記商品の販売業務と輸出、輸入及び製造と加工。

陳列用ケース、レジスター、計量器、車両等の営業用什器、備品類、包装品等の営業用消耗品。運送及び倉庫業務。旅行あっせん、共同店舗の経営、広告宣伝の請負及び代理業務。生命保険及び損害保険の代理業——。これだけ、列記されているのであるが、この営業種目と、前記キャッチ・フレーズとの間に、何かチグハグな印象が生れないだろうか。

これが〝会長〟福田赳夫以下の連名による、第一頁の「ごあいさつ」になると、さらに意味が判らなくなる。その「ごあいさつ」を紹介する。

黒幕・政商たち p.090-091 この会社に注目したグループ

黒幕・政商たち p.090-091 私は、これを名付けて、「潜入屋」と呼ぶ。新らしい知能暴力団であり、産業スパイと総会屋との職能を取り入れた近代的会社ゴロだ。
黒幕・政商たち p.090-091 私は、これを名付けて、「潜入屋」と呼ぶ。新らしい知能暴力団であり、産業スパイと総会屋との職能を取り入れた近代的会社ゴロだ。

「当機構会社は、全国地域共同仕入組合小売商の合同参加を得、全流通機構のメカニズムに対して価格問題がもつ基本的な重要性即ち流通機構の整備をするという問題の解決をめぐって小売商団体と企業各社の協賛を得生活必需品メーカーのつくりだす大量商品を近代的機構によってギリギリの低価格と最高度の回転で大量販売する能力を最大限に発揮することを目的。

またこの目的は協賛会社の販売機構を支える一助ともなりメーカーから最終小売段階に至る流通機構経路の新しい担い手ともなり、全国小売商の共同仕入組合傘下に対する供給ルートとして新しい座標を確定すべく活動を進めるものであります。

当機構会社の新しい市場性のご検討を戴き、貴社製品の供給ルート開発をお願いする次第です」(原文のまま)

この、意味も正体も不明の〝怪文書〟のごあいさつを読んで、品物を売った企業があったら、その売った方が〝悪い〟といわれてもやむを得まい。そして、この〝怪文書〟に、眼光紙背に徹したのかどうか、この会社に注目した、あるグループがあったようだ。私は、これを名付けて、「潜入屋」と呼ぶ。

新らしい知能暴力団であり、産業スパイと総会屋との職能を取り入れた近代的会社ゴロだ。

ということは、この会社の元社員であった、Yという男との、奇妙なデートから、おぼろ気ながら、明らかになってきたのである。

河野一郎をめぐる閨閥
元日本毛織社長
川西清司 喜美子 呉羽化学取締役 伊藤広二
元三井合名常務
福井菊三郎 福井素史 絹
千代
東洋パルプ会長
伊藤忠兵衛 早川電機常務 松村満雄 美代
呉羽紡社長 伊藤恭一 周子
代議士 河野洋平 武子
元代議士 田川平三郎 照子 元国務相 河野一郎
元神奈川県会議長 河野治平 参議院議員 河野謙三 明子
元農相 重政誠之 小泉忠之

黒幕・政商たち p.091 河野一郎をめぐる閨閥
黒幕・政商たち p.091 河野一郎をめぐる閨閥

黒幕・政商たち p.092-093 親分は、何ていう人だい?

黒幕・政商たち p.092-093 「第一、もうじき選挙でしょう? 福田赴夫を蹴落すため、田中角栄側から高く買いにきているンですよ」Yの第一声であった。
黒幕・政商たち p.092-093 「第一、もうじき選挙でしょう? 福田赴夫を蹴落すため、田中角栄側から高く買いにきているンですよ」Yの第一声であった。

「潜入屋」という新商売

新聞記者ともツー・カー

「こんな喫茶店なんかで、私からネタを取ろうなんて、ダメですよ。私だってモトをかけているんだから……。第一、もうじき選挙でしょう? 福田赴夫を蹴落すため、田中角栄側から高く買いにきているンですよ」

Yの第一声であった。情報源との接触には、場馴れたハズの私も、流石に先手を取られた感じであった。彼の話によると、流通機構会社のネタで、もう小一年ほどは、遊んで喰っているという。

「何しろ、福田ピン(一)さんの選挙区だけでも、数カ月も滯在して調べたンだから、モトもテマもかかっているンだ。しばらくは遊ばせてもらわなけりゃ……」

だが、彼のレインコートのエリは真ッ黒に汚れて、それほどラクなくらしとは思えなかった。年のころは、三十四位。

「キミに命令している親分は、何ていう人だい?」

「エッ!」

不意打ちの質問に、彼はガク然として十分な反応を見せた。

「そんなこと、いえませんよ」

「じゃ、判るまできかないよ」

ようやく、イニシアチブを取りもどした私は、第一回の会見を打ち切った。数週後の第二回目。彼は少年院友だちのCという男に、私の名前を聞いてきたといって、(私の名は、安藤組事件から彼らアウト・ローの世界では、いっぱし通用するらしい)雑談の間に、ポロポロと内容をもらしはじめた。以下は、彼の話を総合的にまとめてみたものであるが、もちろん、裏付け取材はまだである。

流通機構という会社がスタートしたとき、彼は組織から命ぜられて、その社員としてモグリこまされた。いわゆる投入牒者である。そして、会社の実態を目の当りにみてきたのである。もちろん、報告をして、その分の報酬が彼の手に入った。会社の末期には、事務所荒らしを装って、ロッカーを破り、重要な書類を盗んだり、コピーしたりした。

重要なものでは、会社設立の時の、政財界人たちの、賛同の署名簿があるし、麻生議員は軽くイナされてしまったが、福田蔵相は『承諾した事実がない』というのにもかかわらず、同氏 の会長就任承諾書まである。署名捺印がしてある。

黒幕・政商たち p.094-095 福田蔵相の会長就任承諾書

黒幕・政商たち p.094-095 もう一人の代表取締役、金沢政男という人物は、スター商会という、手形のサルべージ屋(パクられた手形をサルべージしてくる商売)の社長である。
黒幕・政商たち p.094-095 もう一人の代表取締役、金沢政男という人物は、スター商会という、手形のサルべージ屋(パクられた手形をサルべージしてくる商売)の社長である。

重要なものでは、会社設立の時の、政財界人たちの、賛同の署名簿があるし、麻生議員は軽くイナされてしまったが、福田蔵相は『承諾した事実がない』というのにもかかわらず、同氏

の会長就任承諾書まである。署名捺印がしてある。

今は、不渡り手形を集めて、これを買取らせている。値段は、額面以上だと思うが、ハッキリ判らない。彼らは、命ぜられたテーマの任務により、その出来高払いである。

ミシン会社に勤めていたのも、月掛け五百円という、ミシンの販売予約制度がその後の物価上昇やら、モデル・チェンジで、現実にミシンを受けとる時には、何千円もまとめて払わねばならないという、詐欺的な販売制度をとっているのでその実態を調べるため、モグリこんでいたのだ。そして、もう任務が終ったのでそこは辞めて、今はある土地会社に入っている。このような問題会社の選定は、組織がやる。彼らは命令で動くだけにすぎない。

その問題会社が、どの程度、新聞、雑誌や、捜査当局にマークされているかを調べるためには、まず、ある程度の調査結果にもとづいて新聞社の社会部あてに、投書をする。すると、必らず、警視庁の記者が窓口として現われるので、その記者と接触して、情報提供を装って、実際には、捜査当局の動きをつかむ。その動きを見ながら、金をユスる。もちろん合法的にである。

そして、いよいよ、事件として、問題が表面化しそうだと判ると、相手方も、どうせ事件化するのならと、ケツをまくって金を出さなくなるので、その最後のチャンスの判断をして、その時にできるだけ多額の金を取るようにする。

全日本流通機構のケースだって、福田一代議士にとっては、政治生命にかかわるほどの材料がある。しかし、六月ごろで、打切りにしなければならない。客観状勢がそうなってきているので、近く手に入る巨額の不渡り手形で、終わりにする予定だ——。

Yは、私の取材結果を知りたくて、幾度か会い、雑談しているうちに、ほぼこのような話をもらしたのであった。彼の話のうち、不渡り手形を買い取らせている(相手を明示しなかったが、話の前後から、それは、福田一議員であった)という件は、福田一議員が麻生議員にいった、「ユスられて困っている。この金は不渡り手形の買い戻し代金ではなく、見舞金だ」というのと、符節するではないか。

官房長官がアキレタ早わざ

流通機構社の、パンフレットには「代表取締役福田弘」と、一名しか名前が出ていないが、登記とう本にある、もう一人の代表取締役、金沢政男という人物は、大阪府警の、捜査四課、捜査二課の調べによると、スター商会という、手形のサルべージ屋(パクられた手形をサルべージしてくる商売)の社長である。つまり、手形ブローカーである。サルべージ屋とはいっても、これはパクリ屋と表裏一体で、パクリ屋がパクった手形を、サルべージ屋が回収してきて、その料金を折半するのだから、一ツ穴のムジナである。

黒幕・政商たち p.096-097 日綿のウラ書き三和銀行で割引

黒幕・政商たち p.096-097 各県商工会議所などの、小売り側からマキ上げた手形は、「割り引きのため」金沢代表取締役から、大阪の暴力団「柳川組」組長柳川次郎に渡った
黒幕・政商たち p.096-097 各県商工会議所などの、小売り側からマキ上げた手形は、「割り引きのため」金沢代表取締役から、大阪の暴力団「柳川組」組長柳川次郎に渡った

流通機構社は三十九年ごろから機構づくりをはじめた。村上官房長の国会答弁にある、「三十九年春、知人が青年を福田蔵相のもとにつれてきた」という、その青年が、福田弘その人である。すると〝知人〟というのが誰であるか、容易に想像されるのは、福田一議員であるが、関係者は口をカンして〝知人〟の名を明かそうとはしない。こうして、三十九年の秋には「全日本流通機構」なる構想が煮つまってきて、全国の商工会議所や業者への働らきかけがはじまった。こうした仕事が、誰の紹介で誰の口利きで行なわれたのであろうか。

村上官房長答弁にいう「電光石火のように物を買った」とある通り、帝人をはじめとして、繊維会社や文具メーカーから品物を買いこみ、数億円にのぼる不渡り手形をつかませ、一方、それらの品物を流した。各県商工会議所などの、小売り側からマキ上げた手形は、「割り引きのため」金沢代表取締役から、大阪の暴力団「柳川組」組長柳川次郎に渡ったのであるが、これは、〝結果的に〟パクられてしまった、ことになった。被害を受けたのは、福田一議員の選挙区、福井をはじめとする、岐阜、熊本、高知などの各県の商工会議所である。この辺に、Yのいう、「福田さんの選挙区に数カ月も滞在して調べた」事実があるのだろう。

この、手形サギ事件も、Yの断片的な話からまとめてみたもので、いずれも各関係者が、被害を伏せているので、果して、総計で、何億という金になるのか、全く不明である。明らかになったのは、さとう印刷の四十四万円だけという、それこそ、全くの〝怪談〟である。そして

また、各県商工会議所を経た、本物の手形の金は、どこに消えてしまったのであろうか。金沢、柳川両名にただすべく、大阪に飛んでみた私が知り得たのは、両名とも別件で拘禁されていて、取材ができないということだった。

だが、この手形サギ事件ばかりではなく、もう一つ、不可解な土地の不正払下げ事件なるものがある。

六甲山の国定公園に隣接する国有地の地主たちに、同社は「福田蔵相の政治力で、土地を高く売ってやる」ともちかけ地主たちに運動資金約三千万円を出させたといわれる。そして、国定公園の国有地の一部を抱き合わせ、これを日綿実業に払下げるという話をデッチあげた。流通機構の手形に、そんな関係で日綿のウラ書きをさせ、これを三和銀行で割引いて、四億円もの現金が動いたが、これまた、全くの詐術で、話は吹き飛んでしまった。日綿実業で取材してみると、これまた、「会社を調べてみましたが、流通機構なる会社と取引きした事実はありません」と、否定の返事である。

では、土地買収の資金として、三和銀行から出ていった、四億円の金は一体、どこに消えてしまったのだろうか。

福田一議員の側近筋では、「弘さんというのは、全くのお坊ッちゃんで、そんな悪事のできる人ではない。第一、芝で喫茶店を経営しているのだから、喰うに困るわけじゃなし、誰か、

悪い朝鮮人にカツがれたのではないだろうか」と、はなはだ同情的であるが、福田弘、金沢政男の両代表取締役の下には、I大蔵省係長、I通産省といった、元役人二人もいるのだから、そもそもの、この会社の構想は、このあたりからスタートしていると見られよう。

黒幕・政商たち p.098-099 知らぬ存ぜぬの奇怪なお話

黒幕・政商たち p.098-099 何千万、何億という金が、使途不明になるということは、あまりにもバカゲているではないか。
黒幕・政商たち p.098-099 何千万、何億という金が、使途不明になるということは、あまりにもバカゲているではないか。

福田一議員の側近筋では、「弘さんというのは、全くのお坊ッちゃんで、そんな悪事のできる人ではない。第一、芝で喫茶店を経営しているのだから、喰うに困るわけじゃなし、誰か、

悪い朝鮮人にカツがれたのではないだろうか」と、はなはだ同情的であるが、福田弘、金沢政男の両代表取締役の下には、I大蔵省係長、I通産省といった、元役人二人もいるのだから、そもそもの、この会社の構想は、このあたりからスタートしていると見られよう。

大臣もひっかかった知能犯罪

当の福田一議員は、人を介して「全日本流通機構という会社のことに関して、ユスられているということはない。すべて、弁護士にまかせているので、私からは何もお話することはない」として、これまた、否定的な返事である。日綿にしても、全面否定しているが、銭高組が宅地造成、葵(あおい)土木が施工とまで、スケジュールが決まり、業者名まで、明らかになっているのに、そんな事実はない、というのも、解せないことではあるまいか。

また、顧問、相談役の諸氏が、これまた、知らぬ存ぜぬの奇怪なお話である。福田弘が事前に、福田赴夫蔵相のもとを訪ねて、御高話を拝聴している事実がある(村上官房長答弁)ところからみるとやはり、諸先生方にも、しかるべき何らかの手が打たれているとみられるのに、今となっては、鹿十(シカトウ、花札の十月の鹿が横を向いていることから、知らぬふりをすること)とは、これまた、解せないお話でもある。

日綿と三和銀行とのつながりに関しても、大阪の消息通はこう語る。

「この話は私も聞いてはいた。しかし裏付けをとることは、むづかしいことですよ。何故なら、この事件の関係者は、みな〝おとな〟だからネ……」

最後に、さとう印刷の佐藤社長は、首をかしげながら、こう語る。

「すべて麻生先生におまかせしたので、不渡り手形も、私の手許にはない。また、私のもとに、警視庁の刑事が二人、訪ねてきて事情をきいてはいったが、もう、それっきりです。どうなっちゃったのでしょうね」

事件があって、被害者が出た。関係者の父親が見舞金を出した。——これは、事実である。しかし、被害者は他には現れてこない。

事件があって、加害者が出た。ユスってるから、遊んでも喰えるという男がいるのだから、これも事実だ。しかし、ユスられている被害者がいない。

名前の出てくる人、会社。みんなが否定している事件——これを、〝怪談〟といわないでいられようか。警視庁の刑事すら、その足跡を消してしまっている。現職の大蔵大臣が否定し、元通産大臣が否定しているが、両省の役人の古手が加わっている会社の、知能的な犯罪! この両者の否定を、国民に納得させてくれるものは、一体、誰なのか。

何千万、何億という金が、使途不明になるということは、あまりにもバカゲているではないか。そして、今ごろはまた壮大な本社ビルを新築したミシン会社から、相当な金額の金が、Y たちのグループに、流れ出しているにちがいない。

黒幕・政商たち p.100-101 演説一本槍の男がいた

黒幕・政商たち p.100-101 九頭竜ダムの解けないナゾ 彼は叫ぶ。政局をおおう〝黒い霧〟は……この演説のマクラを聞いただけで、街頭の聴衆は散りはじめる。
黒幕・政商たち p.100-101 九頭竜ダムの解けないナゾ 彼は叫ぶ。政局をおおう〝黒い霧〟は……この演説のマクラを聞いただけで、街頭の聴衆は散りはじめる。

何千万、何億という金が、使途不明になるということは、あまりにもバカゲているではないか。そして、今ごろはまた壮大な本社ビルを新築したミシン会社から、相当な金額の金が、Y

たちのグループに、流れ出しているにちがいない。

対外貿易でさえ、荷抜きが横行しているほど、商業道徳が地におちている時代とはいえ、企業内に詐術めいた部分を抱えた会社が、あまりにも多い昨今である。あなたの会社も、この新知能暴力団〝潜入屋〟に狙われてはいないだろうか!

第6章 九頭竜ダムの解けないナゾ

昭和四十三年。さる一月の総選挙、東京三区の候補者の一人に演説一本槍の男がいた。ポスターとハガキと演説、彼の選挙運動らしきものはただそれだけである。だから有力日刊紙も彼を〝ほうまつ候補〟扱いとし、選挙記事の中でも黙殺されてしまった。彼は叫ぶ。政局をおおう〝黒い霧〟は……この演説のマクラを聞いただけで、街頭の聴衆は散りはじめる。もう耳にタコのできた言葉〝黒い霧〟……。それだけで、彼は……。

黒幕・政商たち p.102-103 利権と陰謀と悪徳とがうずまき

黒幕・政商たち p.102-103 私は、この電発九頭竜ダムにからむ〝疑惑の数々〟を、機会あるごとに究明して、戦後最大の汚職といわれる事件の真相をキャンペーンした。
黒幕・政商たち p.102-103 私は、この電発九頭竜ダムにからむ〝疑惑の数々〟を、機会あるごとに究明して、戦後最大の汚職といわれる事件の真相をキャンペーンした。

戦後最大の汚職の真相

三百億円に群がる黒い蟻

開票の結果は、一、四九四票。三区の総投票数四十七万票の三百十三分の一しかとれなかった。だが、この千五百票の支持者は、彼の演説のうち、〝黒い霧〟につづく、「かの電発九頭竜ダムの問題では…」にフト耳を傾け、足を止めた人たちであったに違いない。麻布中学、慶大という名門校コースの履歴をもつこの男が、〝ほうまつ候補〟扱いの恥辱にも耐えて、何故、立候補したのであろうか。

電発—電源開発法による特殊法人「電源開発株式会社」はこう略称で呼ばれる。株式会社といっても、株主は政府と九電力の十人だけ。資本金六百一億円のうち、六百億円は政府の出資というのだから、その性格もうかがえよう。

昭和二十七年に創立されてから十余年の社歴を持つにいたったがこの十年間の電発をめぐる政治疑惑は、佐久間ダムの輝かしい成功をよそに、「九頭竜ダム」の名とともに、日本を暗くおおっている。

石川達三の政治小説『金環触』に具体的に示され、田中彰治事件で報道もされたが、三百五十億という巨費が投じられる「九頭竜ダム」とあっては、自民党の総裁選もからんで、利権と陰謀と悪徳とがうずまき、果ては〝ケネディ暗殺〟まがいに、ナゾの犠牲者すら生んだのであった。

池田首相秘書官をつとめ、大蔵官僚としてのエリート・コースを歩んでいた中林恭夫氏の突然の死。九頭竜ダム入札問題の渦中の人、政界紙社長倉地武雄氏の変死——ともに、飛降り自殺、息子の凶行と、それぞれに〝解決〟はされているが、「ウォーレン報告」と同じく、素直に信じない多くの人たちがいることは事実である。

一体、そこで何が行なわれたのか? 巨額の金が動く土木工事に、〝政治的圧力〟がつきまとう。

私は、この電発九頭竜ダムにからむ〝疑惑の数々〟を、機会あるごとに究明して、戦後最大の汚職といわれる事件の真相をキャンペーンした。

過去の事件ではあるが、その「人」と「事件」と役割との関係を明らかにして、社会的弾劾を加え、糾弾されねばならないからである。

危険と困難とは、このキャンペーンの前途に予想される。しかし、どうして、〝九頭竜のナゾ〟は〝小説〟の形をとらねば書けないのだろうか。「真実の報道」の形で、私はこの〝壁〟

に挑む決意を、いよいよ深くしたのだった。

黒幕・政商たち p.104-105 緒方克行氏がその決意を固めた

黒幕・政商たち p.104-105 池田首相夫人満枝さんの入札問題での〝活躍〟を、清水建設の幹部がウッカリ洩らしてしまったという「事実」さえ出ているではないか。
黒幕・政商たち p.104-105 池田首相夫人満枝さんの入札問題での〝活躍〟を、清水建設の幹部がウッカリ洩らしてしまったという「事実」さえ出ているではないか。

危険と困難とは、このキャンペーンの前途に予想される。しかし、どうして、〝九頭竜のナゾ〟は〝小説〟の形をとらねば書けないのだろうか。「真実の報道」の形で、私はこの〝壁〟

に挑む決意を、いよいよ深くしたのだった。

すでに断片的に多く書かれ、小説としてまとめられている「九頭竜」ではあっても、これを十年という時の流れの中でその全貌を正確に記録し、報道することも必要である。

ことに、九頭竜で大きな比重を占める、池田首相夫人満枝さんの入札問題での〝活躍〟を、清水建設の幹部がウッカリ洩らしてしまったという「事実」さえ出ているではないか。完全犯罪でも、時間の経過が思わぬ過失を招くものだ。まして、利害の変転や、関係者の力の転移は、時間の経過とともに動くのだから、取材はある場合には容易になってくる。

緒方克行氏が、その決意を固めたのも、時間の経過が一番大きな原因であろう。そして、私はこのキャンペーンで、究明されなければならない問題点の主なものへの、疑問の提起をしようと思う。

現実の調査と取材とは、まだまだこれからの長い時間を必要とするだろう。

【疑問】

その一、計画変更の経緯 電発と北陸電力との竸願はなぜか。電発に決った時、なぜ水路が遠くなり発電力が落ちたのか。土建業者とのクサレ縁はないのか。

その二、不正入札 土建業者の談合は? クチバシを入れた政治家夫人はいないか。

その三、人事問題 藤井総裁実現のため誰と誰が動いたか、エンギをかついだ末広がりの八千万円の金は誰の手に?

藤山愛一郎をめぐる閨閥
元資生堂社長 福原有信 元東洋電気取締役 松本信太郎 美誉子
中上川彦次郎 カツ
藤山雷太 み禰
元日本陶器会長 広瀬実光 広瀬治郎 桜子
元外相 藤山愛一郎 久子
参議院議員 中上川あき
大日本製糖社長 藤山勝彦 茂子
元日本金銭登録機社長 藤山照彦
日本NCR副社長 田中元彦
元日東化学副社長 藤山洋吉 しま

黒幕・政商たち p.105 藤山愛一郎をめぐる閨閥
黒幕・政商たち p.105 藤山愛一郎をめぐる閨閥

黒幕・政商たち p.106-107 日本産銅の両鉱区は水没する

黒幕・政商たち p.106-107 そのスッタモンダの最中の三十六年ごろ、緒方は赤坂で地元代議士の福田に会見した。「巌洞鉱山なんて知らない」と開口一番、福田はいった。
黒幕・政商たち p.106-107 そのスッタモンダの最中の三十六年ごろ、緒方は赤坂で地元代議士の福田に会見した。「巌洞鉱山なんて知らない」と開口一番、福田はいった。

現実の調査と取材とは、まだまだこれからの長い時間を必要とするだろう。

【疑問】

その一、計画変更の経緯 電発と北陸電力との竸願はなぜか。電発に決った時、なぜ水路が遠くなり発電力が落ちたのか。土建業者とのクサレ縁はないのか。

その二、不正入札 土建業者の談合は? クチバシを入れた政治家夫人はいないか。

その三、人事問題 藤井総裁実現のため誰と誰が動いたか、エンギをかついだ末広がりの八千万円の金は誰の手に?

その四、ナゾの死 中林、倉地両氏の死にいたるまでのナゾ。

その五、利権代議士 その名は? 計画変更や不正入札に暗躍した奴はいないか?

その六、補償 池原ダム汚職の金の動きこそ、補償問題の典型である。ここにも、代議士が登場する。

今、彼は東京駅前、郵船ビル六階にある株式会社「シリカ」の社長室で、静かに選挙戦のあとをふり返ってみる。侯補者からようやくシリカ社長にもどった彼の、脳裡に去来するものは、九頭竜ダムのため、悲運に傾いた会社の十年の苦闘と、現実に味わった〝民主政治の選挙〟の苦杯。——その中から、彼は、ふたたび新たな闘志を、湧き立たせてくれたものを感じていた。

「現状の打破です。現代官僚権力政治は、法律さえ守れば道義も道徳も顧みない。責任はとらない。今日の経済の繁栄は自民党官権政治のおかげだとうそぶく。こうした連中を叩きつぶさねば、明日の日本はどうなります!」こうして彼は驚くべき〝政治の恥部〟について語り出した。

右翼の巨頭乗りだす

九頭竜ダムの水没地点付近に、昭和十五年から操業している日本産銅という鉱山会社があった。同社巌洞鉱業所の巌洞鉱区と長野鉱区である。もちろん上場会社だった。

戦後の混乱期がすぎて二十六年同鉱業所を再開し、同時に設備の拡張合理化(日産一〇〇トン処理採掘選鉱設備)を目指して操業兼建設を始めた。

そこに昭和三十三年になって、電発が〝日本最後の大ダム工事〟という九頭竜ダムの計画も具体化してきた。電発案によれば、この日本産銅の両鉱区は水没する——そして電発側から同社に、「貴社の協力がなければこの計画が実現できない。国家的見地からぜひご協力願いたい。当然補償は着工前にいたしますから」という、協力要請さえもあった。

日本産銅としては昭和三十六年完成の予定で、通産省より開銀融資の推薦をうけ、同鉱業所の設備を一新する計画が進んでいたが、この〝要請〟から計画を変更して翌三十四年、電発への協力を株主総会で決定、鉱区は休山することとなった。だが、北陸電力が竸願したことから、九頭竜ダム計画は二転、三転、日本産銅は宙ブラリンのまま放出されてしまった。

「国家的意義のある建設工事と思えばこそ、進んで協力したのに政治家にとってはダム工事も単なる利権にすぎない。彼らの利権争いが、竸願、計画変更といった現象を生みだすのだ」

緒方はこうきめつける。

そのスッタモンダの最中の三十六年ごろ、緒方は赤坂で地元代議士の福田に会見した。 「巌洞鉱山なんて知らない」と開口一番、福田はいった。しかも時間がたってから、「お前のところは二十億もの補償を要求しているそうだナ」

黒幕・政商たち p.108-109 人を介して児玉誉士夫にあった

黒幕・政商たち p.108-109 緒方の訴えをきいて、児玉は「まず調べさせよう。そして可能性があれば引受けてやる」といった。赤坂の千代新に、すぐさま某政治記者と某経済記者が呼びつけられた。政治記者は中曾根康弘をつれてくる
黒幕・政商たち p.108-109 緒方の訴えをきいて、児玉は「まず調べさせよう。そして可能性があれば引受けてやる」といった。赤坂の千代新に、すぐさま某政治記者と某経済記者が呼びつけられた。政治記者は中曾根康弘をつれてくる

そのスッタモンダの最中の三十六年ごろ、緒方は赤坂で地元代議士の福田に会見した。

「巌洞鉱山なんて知らない」と開口一番、福田はいった。しかも時間がたってから、「お前のところは二十億もの補償を要求しているそうだナ」

高飛車にこういわれて、緒方は福田の行動に疑問を感じた。

福田は「九頭竜ダム」には自民党北陸開発委員として、あらゆる面で関係していたし、当時通産省公益事業局(局長大堀弘)ではダム計画は相当に福田の圧力をうけていたとみていた。

三十八年春、休山したままの日本産銅は、力つきて株式会社シリカ(資本金二億五千万円)に吸収合併された。緒方謙吉(克行の父)は引退し、緒方がシリカの社長となった。三十九年春、シリカは電発に対し長野鉱区一・四億、巌洞鉱区四億、計五・四億の補償を要求した。前年暮に、九頭竜ダムは電発がやることに決ったが、計画は変更され、巌洞鉱業所の水没部分は、はじめの要請時よりも減っていた。

そして、電発がシリカ(日本産銅時代をも通して)の補償問題に全くとりあってくれないため、三十九年一月、緒方は大野伴睦を訪れて陳情した。大野は納得して子分の村上勇にいいつけ、電発の藤井総裁を呼びつけた。その〝実力〟ぶりをみて彼は問題解決を期待したが、大野はまもなく死去した。

大野が藤井総裁を呼びつけた二カ月後、シリカは正式に五・四億の補償を要求、さらに四カ月後の三十九年七月、電発との間にはじめて折衝が行なわれた。

「電発を交渉のテーブルにつかせてくれたのは、大野の力と村上勇の努力だと思う」と緒方は回顧する。テーブルにはついたが、電発は数字を示さない。時は流れてゆく。緒方は苦慮

して、人を介して児玉誉士夫にあった。

緒方の訴えをきいて、児玉は「まず調べさせよう。そして可能性があれば引受けてやる」といった。赤坂の千代新に、すぐさま某政治記者と某経済記者が呼びつけられた。政治記者は中曾根康弘をつれてくる、経済記者は電発大堀副総裁工作をする、と役がふられた。

のちに緒方が内幕話をきいてみると、中曾根康弘は大堀にあい、大堀から緒方の悪口をきかされるや、「アレはダメだ」と児玉に復命したが、児玉に「オレは緒方が正しい主張をしていると思う。大体電発は官僚的で怪しからん会社だ。もう一度検討してやってみてくれ」とハッパをかけられて、ようやく本気で動きだした。

電発工作資金に一千万円

三十九年十二月二十日すぎ、児玉から緒方のもとに「補償はとってやる。資金一千万円を持ってこい」と連絡があった。押しつまっての現金一千万円の工面に緒方は泣いた。二十七日に、児玉の家にとどけにゆくと、二人の記者が坐っていた。児玉は現金をかぞえてからいった。

「この中の三百万は、この男(政治記者を示し)の関係している出版社の株代金にするぞ」

緒方は児玉の堂々たる事務処理に感嘆しながら、ハイと答えた。「き誉ほうへんは別として

やはり魅力ある人物ですナ」緒方は金の工面の苦しさも忘れ、大船にのった安堵をおぼえたという。

黒幕・政商たち p.110-111 緒方は不吉な予感を覚えた

黒幕・政商たち p.110-111 「河野が死んで、オレも忙しくなった。ついては例の件は忙しくてやれないから断わるよ」児玉は拓銀の帯封のピン札を一千万円、押しやりながらこう緒方にいった。
黒幕・政商たち p.110-111 「河野が死んで、オレも忙しくなった。ついては例の件は忙しくてやれないから断わるよ」児玉は拓銀の帯封のピン札を一千万円、押しやりながらこう緒方にいった。

児玉は現金をかぞえてからいった。

「この中の三百万は、この男(政治記者を示し)の関係している出版社の株代金にするぞ」

緒方は児玉の堂々たる事務処理に感嘆しながら、ハイと答えた。「き誉ほうへんは別として

やはり魅力ある人物ですナ」緒方は金の工面の苦しさも忘れ、大船にのった安堵をおぼえたという。

年があけた。三月になって、経済記者から「大堀副総裁によばれ電発はほば要求額を支払うことになった。ついては、技術的な問題だが、長野鉱区の鑑定書の数字を水増ししてもらいたい」という連絡が入り、ついで児玉からも、「電発の内部調整のため、お盆がすぎたら、要求通り支払がある」と、正式な連絡があった。

この返事をきいて、緒方は感慨無量であった。晩年の父が我が子さながらの日本産銅から冷たく放逐された原因であり、経歴ある実業家が六年の歳月を費やしても、一顧だにされなかった補償交渉が、一私人の指揮で新聞記者が走りまわれば、数カ月で解決する——五・四億の大金も、経費をさし引き、株主に分配すれば、緒方には幾ばくも残らない。

「しかし、これでいいんだ。日本産銅の数百の株主に対し、その債権、債務を継承したシリカ社長として、オレは十分責任を果したのだ」緒方はそう自分にいいきかせた。だが、シリカ社長は納得できても、緒方個人は釈然としなかった。

「これが、日本の政治の現実なのか!」肩の重荷を下ろした喜びと、現実直視の苦しみの、混乱した日がすぎて、ある日、テレビニュースが、河野一郎の急逝を告げた。

その瞬間、緒方は不吉な予感を覚えたという。

四十年七月二十六日(河野の死後十八日目)、緒方は呼ばれて児玉家へやってきた。中曾根康弘と経済記者が同席していた。

「河野が死んで、オレも忙しくなった。ついては例の件は忙しくてやれないから断わるよ」児玉は拓銀の帯封のピン札を一千万円、押しやりながらこう緒方にいった。「中曾根康弘は、腕組みしたまま天井をみつめ、私の方を見ませんでした」不吉な予感は的中した。河野の突然の死が、こんな形で影響してくるとは——

これも〝政治の現実〟であった。

河野の死の前、四十年四月に電発の用地担当理事は石井に代っていた。呆然自失の数カ月がすぎた。緒方には大堀副総裁が憎かった。親密な経済記者を通して、補償を認めるといいながら、河野という重石がなくなるとヒョウ変するとは——

緒方は泣くに泣けなかった。記者を通しての大堀の返事には、何の証拠もない。児玉だって、一銭もとったわけではなし、〝お願い〟を〝断わられ〟たのだから、どうしようもないのだ。その上、とんでもないオトシ穴さえ掘られていたのに、気付いたのは後になってからであった。

その年の春、ようやく気力を回復した緒方は、山梨の田辺国男に会った機会に、この驚くべき〝現実〟について語った。

黒幕・政商たち p.112-113 親分の川島正次郎に話して

黒幕・政商たち p.112-113 そして、第三回目に自宅を訪ねた時、緒方と対談中の田中角栄に、「御挨拶だけ……」といいながら、一人の男が部屋に入ってきた。
黒幕・政商たち p.112-113 そして、第三回目に自宅を訪ねた時、緒方と対談中の田中角栄に、「御挨拶だけ……」といいながら、一人の男が部屋に入ってきた。

その年の春、ようやく気力を回復した緒方は、山梨の田辺国男に会った機会に、この驚くべき〝現実〟について語った。

緒方に同情した田辺国男は、「親分の川島正次郎に話して、決算委でとりあげてやろう」といってくれた。田辺国男から話をきいた川島正次郎は、村上勇と相談して、四十一年四月六日、永田町のグランド・ホテルに、大堀副総裁を呼んだ。村上勇の話では、「川島正次郎副総裁が、大堀に直か談判して、その場で話をつけてくれるそうだ」という。緒方は別室で待っていたが、ホテルにやってきたのは、大堀ではなく石井理事であった。

やがて、石井は帰り、村上勇と田辺国男が緒方のもとにやってきた。田辺国男は興奮して「石井の奴ケシカラン」というのを、村上勇が押えて、「川島正次郎副総裁が『オレにまかせろ』というのだから、この際黙っていろ」という。

田中角栄先生の意外な一面

「川島正次郎自民党副総裁の呼び出しに部下のチンピラを代理に出す——こんな失礼な態度を大堀ごときに取れるものですか。当日前に、なんらかの形での川島正次郎、大堀両者間の取引、といって悪ければ、了解がついていたに違いない。でなければ川島は大堀にナメられたことになる」その後、川島からは何の連絡もなかった。

緒方は伝手を求めて、時の幹事長田中角栄に会いにいった。シリカ社長としての陳情もさることながら、この時点では、緒方個人として、田中角栄がどうでるかの興味も大きなものにな

っていた。

自宅を訪れると、田中角栄は気さくに会ってくれた。話をきいて彼は即座につぶやいた。

「九頭竜か、困ったナ」第一回はそれで終った。

次に書類をとどけた時、田中角栄は良く話をきいてくれた。

「ナニ? その用地担当理事は何という男だ? 石井? 知らん奴だ」田中角栄は石井について反問さえしたのだった。そして、第三回目に自宅を訪ねた時、緒方と対談中の田中角栄に、

「御挨拶だけ……」といいながら、一人の男が部屋に入ってきた。

「先生、ありがとうございました。おかげをもちまして、電発の石井さんにおめにかかり、契約を頂いてきました」田中角栄は「そうか、そうか」といって、その男の話を早く打切らせようとした。だが、緒方はすでに〝電発の石井〟の名をききとっていた。

「田中角栄は、はじめ石井の名前を知らなかった。それなのに部屋に入ってきた男の挨拶では、田中角栄の紹介で石井を訪ね、契約をもらってきたという。田中角栄の前を辞してから、室外の秘書にきくと挨拶にきた男は、新潟県人で保険会社の重役だという。これでは邪推したくなるというものだ。田中角栄は補償の件で石井理事に連絡して、彼を相知った。石井は、『緒方はインチキな男だ』というに決っている。そして、田中角栄は同県人を紹介し、石井は田中角栄のカオを立てて電発の保険を契約してやる。こんな推理は、失敬極まりないかもしら

んが、それが人情というものではないだろうか。そして人情の機微をいたわるのが、政治の妙諦というものではなかろうか」

緒方はついに政治家遍歴をあきらめた。

黒幕・政商たち p.114-115 水増書類を証拠にするアクラツさ

黒幕・政商たち p.114-115 さきにふれた〝オトシ穴〟というのは、河野—児玉—中曾根の線が動いてくれた時、経済記者にいわれて、電発に出した〝水増書類〟のことだ。
黒幕・政商たち p.114-115 さきにふれた〝オトシ穴〟というのは、河野—児玉—中曾根の線が動いてくれた時、経済記者にいわれて、電発に出した〝水増書類〟のことだ。

田中角栄は補償の件で石井理事に連絡して、彼を相知った。石井は、『緒方はインチキな男だ』というに決っている。そして、田中角栄は同県人を紹介し、石井は田中角栄のカオを立てて電発の保険を契約してやる。こんな推理は、失敬極まりないかもしら

んが、それが人情というものではないだろうか。そして人情の機微をいたわるのが、政治の妙諦というものではなかろうか」

緒方はついに政治家遍歴をあきらめた。彼が慶応で政治学を学んだのは、もうずいぶん昔のことになる。しかし、彼が現実にみた〝政治〟の姿は、あまりにも学問とはカケ離れすぎていた。彼は失望した。

さきにふれた〝オトシ穴〟というのは、河野—児玉—中曾根の線が動いてくれた時、経済記者にいわれて、電発に出した〝水増書類〟のことだ。これを逆手にとって、電発は「緒方はこの通りインチキ野郎だ」という証拠にしたほどのアクラツさだった。

その年、つまり四十二年暮、電発から正式に補償案が示された。いわく、長野鉱区に対し一千二百万円、協力費として一千万円、合計二千二百万円也。彼が三年前に示したのは、五億四千万円であった。

「私はどの政治家にも一銭の現金も出していない。会談の時の食事代くらいしか払っていない。金を出していないからこそ、私の〝政治家の調停依頼〟は、ヤミ取引ではないといえるのだ。そしてあるいはそれだから、まとまらなかったともいえよう。もし、私が金銭で政治家を利用しようとしたのなら、彼らと一つ穴のムジナでこのような話をする資格はないのだ。結論すると、正しい意味での純粋な『政治調停』は、日本の現状にないということだ。

そしていかに正論をはき、それをまた民衆に訴えても、時の権力にいとも簡単に押しツブされてしまうものであるのだ。すべて、私利私欲であり、ギブ・アンド・テイクである」

緒方は紛争の一切を四十年七月に、「工事停止の仮処分」で法廷に移した。そこにニュースが入った。九頭竜の残存部落の補償問題だ。部落側は四億五千万円を要求し、電発は五千万と回答、対立していたのだが、福井県知事の調停で急転直下解決し、電発は四億一千三百万円を支払った。電発が世銀借款の条件である水利権を得るため、水利権者である知事のカオをたてたのだ。

おりから、総選挙の立候補締切日であった。緒方は徒手空拳のまま立った。

そして、敗れた。

でも、彼は屈しない。理想主義にもえて、政界のゆがみをただす一粒の麦になろうとしているのだ。

食いちがう意見

緒方克行氏はいう。

「これは私の見聞した事実の記録だ。政治の裏側にふれてみて、はじめて気がついた。これが新生日本の現実とあっては、海軍特攻の仲間たちの死も、それこそ犬死だと感じた。そして、

私自身の政治への無関心が誤りだったと知った。田中角栄氏の部分の〝邪推〟は、あくまで私自身の〝邪推〟の型の見本であって、田中角栄氏はそうしたというのではないことをお断りしておく」

黒幕・政商たち p.116-117 児玉家で会ったのは事実だ

黒幕・政商たち p.116-117 「緒方という人に会った記憶はない。電発側の話では、緒方という人は、あまりタチの良くない人ということだった」
黒幕・政商たち p.116-117 「緒方という人に会った記憶はない。電発側の話では、緒方という人は、あまりタチの良くない人ということだった」

緒方克行氏はいう。

「これは私の見聞した事実の記録だ。政治の裏側にふれてみて、はじめて気がついた。これが新生日本の現実とあっては、海軍特攻の仲間たちの死も、それこそ犬死だと感じた。そして、

私自身の政治への無関心が誤りだったと知った。田中角栄氏の部分の〝邪推〟は、あくまで私自身の〝邪推〟の型の見本であって、田中角栄氏はそうしたというのではないことをお断りしておく」

これに対し中曾根康弘氏は

「緒方という人に会った記憶はない。児玉さんの家に行ったことはある。児玉さんに頼まれて、電発の補償のことを調べたことは記憶している。しかし、電発側の話では、緒方という人は、あまりタチの良くない人ということだった。また、この問題に深入りすると傷つく、やめろと忠告する人もあり、私はすぐ手を引いた」

だが緒方氏は話す。

「政治記者の話からも、私と中曾根さんが児玉家で会ったのは事実だ。相手は顔の知れる人だし、名刺を交換しなくとも初対面の挨拶ぐらいできる。第一、『緒方に会った〝記憶〟がない』といっているので、『会ったことはない』とはいっていないではないか。いま、清潔ムードで売出し中なので、児玉さんに使われて走ったり、利権に関係しているという印象をもたれたくないのでしょう」

そして、終りに「池原ダム」汚職のケースをつけ加えておかねばならない。

不発に終った「池原ダム」汚職

さる四十三年三月三十一日朝、奈良地検は東京都千代田区丸の内一の一、電源開発株式会社の本社事務所を収賄(経済関係罰則の整備に関する法律)の疑いで捜索、同社管財課長富樫貞夫の任意同行を求め取調べたのち逮捕した。

このように電発本社が家宅捜索をうけ、現職本社課長が逮捕されたというケースは、電発創設以来はじめてのことである。しかも、電発の補償をめぐっての、有利な取計いを期待しての贈収賄事件であるだけに、大きなニュース・ヴァリューがあると見られるのだが、大阪各紙が地元の事件として妥当な扱いをしたのに、なぜか、東京各紙の扱いは不当に小さく、ほとんど眼につかない扱いであった。

事件は昭和三十八年ごろ奈良県吉野郡下北山村地内に、電発が池原ダムを建設することになり、同村漁業協組が漁業補償をうけることになった。同協組はこの補償交渉を同村三尾真一村長に委任して電発との間に、昭和四十年十二月に一億一千三百万円で契約が成立した。

ところが、三尾村長と勝平敬一組合長の二人が共謀して、この補償金のうちから、当時、現場の用地課長であった富樫に四十万円、全国内水面漁業組合連合会長の重政誠之代議士に百万円、重政氏に紹介されて、交渉に当ってもらった、愛知県選出の上村千一郎代議士に五十万円

をそれぞれ勝手に支払った。