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新宿慕情 p.122-123 「エッ、あの女の人が、オ、カ、マ?」

新宿慕情 p.122-123 「三田サン。あんまりおそくなると…。早く、オカマに会わせてよ」女性記者は、夜のノガミがコワイ、と聞かされていただけに、またぞろのブラブラ歩きに、ジレてきたようだ。
新宿慕情 p.122-123 「三田サン。あんまりおそくなると…。早く、オカマに会わせてよ」女性記者は、夜のノガミがコワイ、と聞かされていただけに、またぞろのブラブラ歩きに、ジレてきたようだ。

こうして、私は彼女を伴って宵の上野広小路あたりを、ブラブラと散歩していた。

「アラ、ミーさん!」

人ごみのなかから、嬌声が飛んできた。

あでやかに化粧して、和服をピッと着付けている〝女性〟がほほえんでいた。

ナント、〝オカマの和子〟ではないか。この女形くずれのオカマは、当時のノガミのナンバー・ワンであった。

ノドボトケも目立たず、小柄なだけに、その美貌と相俟って、だれが、〝男〟だと思うであろう!

私は、和ちゃんを誘って、永藤パン店の喫茶室に入った。もちろん、女性記者もいっしょである。

「アラ、アベックなのに、おじゃまじゃ、ありません?」

「ナニ、社の同僚だよ。やはりブンヤだから、気にしないでくれよ」

「とかなんとか、オッシャッテ、うらやましいワ」

そんな、とりとめもない会話が、二、三十分もつづいただろうか。コーヒーを飲み終わって、三人は、店を出た。

あの人がオトコ?

もう、夜になっていた。

「三田サン。あんまりおそくなると……。早く、オカマに会わせてよ」

女性記者は、夜のノガミはコワイ、と聞かされていただけに、またぞろのブラブラ歩きに、ジ

レてきたようだ。

「エ? オカマ?」

「そうよ。オカマ探訪の目的できたんでしょ? 今夜は……」

「オカマって……」

私は、そういって絶句した。たったいま、オカマの和ちゃんと、あの明るいシャンデリアの下で、三人で雑談をして、別れたばかりではないか。

女性記者だって、私と和ちゃんの会話に口をはさみ、三人で大笑いさえした、というのに!

「あの子が、オカマの和ちゃんといって、上野ではピカ一のオカマだよ。いま、会ったばかりじゃないか」

「エッ、あの女の人が、オ、カ、マ?」

あまりのオドロキに、彼女はオ、カ、マと、一語ずつ区切って、反問してきた。

いまでこそ、オカマ志向者が激増してしまって、若い女性たちの目も肥え、例えば、銀座のクラブなどで、ホステスたちの間に、ひとり、まじって立ち働くオカマは、見分けられるようになってきている。

だが、まだ当時は、オカマ人口が少なくて、〝えらばれた人たち〟だけが、オカマになれたのである。

そうであろう。まだ、赤線は盛大に営業しており、辻々にはパンパンがあふれていたのだ。つ

まり、女には不自由のない時代だったから、オカマが、営業してゆくためには、〝女〟と信じこませられなければ、商売にならなかったのである。

新宿慕情 p.124-125 オカマにも三種類

新宿慕情 p.124-125 オカマの和ちゃんが、打ち明けてくれた、彼女たちの〝秘めたる行為〟とは…と、それを述べることにしよう。
新宿慕情 p.124-125 オカマの和ちゃんが、打ち明けてくれた、彼女たちの〝秘めたる行為〟とは…と、それを述べることにしよう。

だが、まだ当時は、オカマ人口が少なくて、〝えらばれた人たち〟だけが、オカマになれたのである。
そうであろう。まだ、赤線は盛大に営業しており、辻々にはパンパンがあふれていたのだ。つ

まり、女には不自由のない時代だったから、オカマが、営業してゆくためには、〝女〟と信じこませられなければ、商売にならなかったのである。

女性記者が、和ちゃんをホステスのひとり、と見ても、やむを得ない時代であった。

第一、警視総監が、オカマに殴られて金ピカの正帽を飛ばされたり、女だと思って買ったのに夜中になって、男だと知った少年が、ハラを立てて、刺し殺してしまったりといった事件がつづいていたころなのである。

サツまわりの私は、仕事の合い間を見ては、こんなオカマたちのアパートを訪ねたり、女暴力団の親分(男装に近い姿で、チャンと、可愛い十九歳ほどの愛人を持っていた)と仲良くなったりしていた。

和ちゃんとは、そんな〝付き合い〟で、私の〈社会部記者的好奇心〉に応えて、性倒錯者の行為についても、微に入り、細をうがって、話してくれた。

オカマにも三種類

気がもめる泊まり

オカマの和ちゃんが、打ち明けてくれた、彼女たちの〝秘めたる行為〟とは……と、それを述べることにしよう。

まず、オカマには、形態学的に三種類ある。第一は、カルーセル麻紀のように(ただし、私が確認したわけではない。巷間に伝えられるように……である)、〈行為可能者〉である。つまり突出部分を切削し、収納部分を新たに付加した連中だ。

第二は、突出部分の切除のみに終わっている者。さらに第三は、機能上、まったく〈男性〉である人たち。

オカマの和ちゃんの時代には、ただいまのように、〝整形〟医ばやりではなかったから、ほとんどの者が、この第三類に属していた。

だから彼らは、ノガミの夜に遊冶郎を求めていながらも、決して〝泊まりの客〟は取らない。いわゆる〝ショート〟ばかりである。