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迎えにきたジープ p.048-049 何か大変なことがはじまる!

迎えにきたジープ p.048-049 I heard the dull sound of "Clunk" and looked down at Petrov's desk. ——Gun! The muzzle of a Browning type pistol point at me.
迎えにきたジープ p.048-049 I heard the dull sound of “Clunk” and looked down at Petrov’s desk. ——Gun! The muzzle of a Browning type pistol point at me.

正面中央に大きなデスクをすえて、キチンと軍服をきたペトロフ少佐が坐っていた。傍らに

は、みたことのない若いやせた少尉が一人。その前には、少佐と同じ明るいブルーの軍帽がおいてある。ピンと天井の張った厳めしいこの正帽は、NKだけがかぶれるものである。

密閉された部屋の空気はピーンと緊張していて、わざわざ机の上においてある帽子の、眼にしみるような鮮かな色までが、すでに生殺与奪の権を握られた一人の捕虜を威圧するには、充分すぎるほどの効果をあげていた。

『サジース』(坐れ)

少佐はかん骨の張った大きな顔を、わずかに動かして向い側の椅子を示した。

——何か大変なことがはじまる!

私のカンは当っていた。私は扉の処に立ったまま落ちつこうとして、ゆっくりと室内を見廻した。八坪ほどの部屋である。

正面にはスターリンの大きな肖像が飾られ、少佐の背後には本箱、右隅には黒いテーブルがあり、沢山の新聞や本がつみ重ねられていた。ひろげられた一抱えの新聞の「ワストーチノ・プラウダ」(プラウダ紙極東版)とかかれた文字が印象的だった。

歩哨が敬礼をして出ていった。窓には深々とカーテンがたれている。

私が静かに席につくと少佐は立上って扉の方へ進んだ。扉をあけて外に人のいないのを確か

めてから、ふり向いた少佐は後手に扉をとじた。

『カチリッ』

という鋭い金属音を聞いて、私の身体はブルブルッと震えた。

——鍵をしめた!

外からは風の音さえ聞えない。シーンと静まり返ったこの部屋。外部から絶対にうかがうことのできないこの密室で、私は二人の秘密警察員と相対しているのである。

——何が起ろうとしているのだ?

呼び出されるごとに立会の男が変っている。ある事柄を一貫して知り得るのは、限られた人人だけで、他の者は一部しか知り得ない組織になっているらしい。

——何と徹底した秘密保持だろう!

鍵をしめた少佐は静かに大股で歩いて再び自席についた。それからおもむろに机の引出しをあけて何かを取りだした。ジッと少佐の眼に視線を合せていた私は、『ゴトリ』という鈍い音をきいて、机の上に眼をうつした。

——拳銃!

ブローニング型の銃口が、私に向けておかれたまま冷たく光っている。つばきをのみこもう と思ったが、口はカラカラに乾ききっていた。

最後の事件記者 p.124-125 彼は机の引出しをあけた

最後の事件記者 p.124-125 ブローニング型の拳銃が、銃口を私に向けて冷たく光っている。私の口はカラカラに乾き切って、つばきをのみこもうにも、ノドボトケが動かない。
最後の事件記者 p.124-125 ブローニング型の拳銃が、銃口を私に向けて冷たく光っている。私の口はカラカラに乾き切って、つばきをのみこもうにも、ノドボトケが動かない。

――何が起ろうとしているのだ?

呼び出されるごとに、立会の男が変っている。ある事柄を一貫して知り得るのは、限られた人だけで、他の者は一部だけしか知り得ない組織になっているらしい。

――何と徹底した秘密保持だろう!

鍵をしめた少佐は、静かに大股で歩いて、再び自席についた。何をいいだすのかと、私が片唾をのみながら、少佐に注目していると、彼はおもむろに机の引出しをあけた。ジット少佐の眼に視線を合せていた私は、「ゴトリ」という、鈍い音を聞いて、机の上に眼をうつしてみて、ハッとした。

――拳銃!

ブローニング型の拳銃が、銃口を私に向けて冷たく光っている。私の口はカラカラに乾き切って、つばきをのみこもうにも、ノドボトケが動かない。

誓いの言葉

少佐は、半ば上目使いに私をみつめながら、低いおごそかな声音のロシア語で、口を開いた。一語一語、ゆっくり区切りながらしゃべりおわると、少尉が通訳する。

『貴下はソヴェト社会主義共和国連邦のために、役立ちたいと願いますか』

歯切れのよい日本語だが、直訳調だった。少佐だって、日本語を使えるのに、今日に限って、のっけからロシア語だ。しかも、このロシア語という奴は、ゆっくり区切って発音すると、非常に厳粛感がこもるものだ。平常ならば、国名だってエス・エス・エス・エルと略称でいうはずなのに、いまはサューズ・ソヴェーツキフ・ソチャリスチィチェスキフ・レスプーブリクと、正式に呼んだ。

私をにらむようにみつめている、二人の表情と声とは、ハイという以外の返事は要求していないのだ。そのことを本能的に感じとった私は、上づったかすれ声で答えた。

『ハ、ハイ』

『本当ですか』

『ハイ』

『約束できますか』

『ハイ』

タッ、タッと、息もつかせずたたみこんでくるのだ、もはや、ハイ以外の答はない。