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最後の事件記者 p.010-011 生れてはじめての留置場生活

最後の事件記者 p.010-011 我が事敗れたり 浅草のヨネサン 『オイ、ブンヤさん。電話だよ』『エ? 電話?』 私は自分の耳を疑った。ここは警視庁一階の留置場、第十一房である。
最後の事件記者 p.010-011 我が事敗れたり 浅草のヨネサン 『オイ、ブンヤさん。電話だよ』『エ? 電話?』 私は自分の耳を疑った。ここは警視庁一階の留置場、第十一房である。

我が事敗れたり

浅草のヨネサン

『オイ、ブンヤさん。電話だよ』

『エ? 電話?』

私は自分の耳を疑った。思わず上半身を起したほどだった。

ここは警視庁一階の留置場、第十一房である。七月二十二日の夕刻、逮捕状を執行されて、ブチこまれてから、生れてはじめての留置場生活に、毎日、新聞記者根性丸だしの取材を続けていた私だったが、〝電話〟と聞いては、驚きのため飛び起きざるを得ない。

板敷きの上に、タタミ表のウスベリを敷いた留置場は、正座が、留置人心得という規則によって原則である。しかし、旅馴れた私は早くも担当サンの眼を盗んで、横になって午睡をたのしん

でいたところだった。

最後の事件記者 p.018-019 文芸春秋が安藤に手記を書けと…。

最後の事件記者 p.018-019 『ブンヤさん!担当!』ヨネさんの鋭い声が飛んだ。巡回の看守が、房の中を覗きこみながら通りすぎる。
最後の事件記者 p.018-019 『ブンヤさん!担当!』ヨネさんの鋭い声が飛んだ。巡回の看守が、房の中を覗きこみながら通りすぎる。

それで判った。房内には、顔に傷のある男が多いし、同一事件のホシは各署の留置場へ分散す

るのが通例だから、まさか安藤とは思わなかった。

手記の相談

運動というのは、毎日一回だけ、タバコ一本を戸外で吸わせてくれるのである。運動という名で呼ばれているが、駈け足や体操などするわけではない。オヤ指を焦がす位、時間をかけて吸う一本のタバコ、約八分ほどの間だけ、太陽光線を浴びさせる時間だ。

安藤はその後の運動の時間にも、「このたびは御迷惑をかけてしまって、何とも申しわけありません」とか、「会社の方は大丈夫ですか」「身体は悪くありませんか」などと、顔があうたびに、キチンと声をかけて挨拶をしてきた。そのようなやりとりが、私と安藤との間にあってからの、この電話なのだ。

例のように、私の健康へのいたわりの言葉があってから、彼は用件に入ってきた。

『実は、三田さん。文芸春秋から、私に手記を書けッて、いってきたんだけど、どうしましょう』

『何、手記? いいじゃないか。あンたの横井を射ったことについての、感想をかけばいいよ』

『ブンヤさん!担当!』

ヨネさんの低く押しつぶした、鋭い声が飛んだ。私はさり気なく金網をはなれて、腰をふり、小用を済ませたように装った。

コツ、コツ、コツ。巡回の看守が、房の中を覗きこみながら通りすぎる。内側から看守の動きをみていたヨネさんが、安藤の九房の前を通りすぎたのを確認して、「イイヨ」と合図した。

断線である。電話は事故のため、通話中に切れてしまった。すぐ復旧にとりかからねばならない。要領を覚えた私は、また金網にヘバリついて、小声で十房を呼んだ。

『十房、十房。十一房から、九房の安藤さん』

『ハイ、十房』

私の声を聞きつけて、十房の見も知らぬ男が立ち上ってきた。

『十一房の三田から、九房の安藤さん』

『九房、 九房。十一房の三田さんから、九房の安藤さん』

『ハイ、安藤です』

『アア、 三田です』 断線した電話は、即座に復旧した。

新宿慕情122-123 エッ、あの女の人が、オ、カ、マ?

新宿慕情122-123 「三田サン。あんまりおそくなると…。早く、オカマに会わせてよ」女性記者は、夜のノガミがコワイ、と聞かされていただけに、またぞろのブラブラ歩きに、ジレてきたようだ。
新宿慕情122-123 「三田サン。あんまりおそくなると…。早く、オカマに会わせてよ」女性記者は、夜のノガミがコワイ、と聞かされていただけに、またぞろのブラブラ歩きに、ジレてきたようだ。