懺悔」タグアーカイブ

最後の事件記者 p.256-257 「もっと熱心に信心しなければ」

最後の事件記者 p.256-257 いずれも支部と自分の名を書いたノシ袋に、オサイ銭を入れて、本部拝殿前の三宝の上に差出す。名前が明らかにされるのだから、誰でも数枚の百円札はハズまざるを得ない。
最後の事件記者 p.256-257 いずれも支部と自分の名を書いたノシ袋に、オサイ銭を入れて、本部拝殿前の三宝の上に差出す。名前が明らかにされるのだから、誰でも数枚の百円札はハズまざるを得ない。

だが、おばさんも外出姿になると、精一ぱいのオシャレだから、電車に乗ると、私のみすぼらしさたるや、彼女が同行するのも恥づかしかろうと思うほどだ。蓬髪、不精ヒゲ、オーバーなし

の穴あきズボンに、ヒビ割れ靴というのだから……。

こちらも国電に乗ると緊張した。誰か知人に出会って、「よう」などと、肩を叩かれたら大変。「何だ、読売はやめたのか?」と、きかれること間違いなしの格好だからだ。伏眼がちに、四方を警戒しながら、やっとのことで新宿駅へ。そしてバスで本部へ。

行ってみると、オサイ銭をあげるオバさんの気前の良さに驚いた。冬のさ中にあんな朝食をとるオバさんが、実にカルイ気持で三百円もの大マイを、妙佼先生に捧げる。イヤ、ふんだくられているのだ。

バスを降りると、参拝者の列がつづく。それが、いずれも支部と自分の名を書いたノシ袋に、オサイ銭を入れて、本部拝殿前の三宝の上に差出す。名前が明らかにされるのだから、誰でも数枚の百円札はハズまざるを得ない。しかも、信者の勤労奉仕の道路整理係がいて、信者の群れを本部拝殿前へと追いこむのだ。そこを通らぬと、直接は修養道場へ行けないように、交通制限をしている。

そして、拝殿前でこのノシ袋を市価より高く売っているのは、教祖一族のものだというから、二重、三重のサク取である。

金の成る礼拝道路を経て、修養道場へ入る。道場というと立派そうだが、要するにクラブである。大広間になっていて、支部ごとに別れて、支部長を中心に〝法座〟を開いている。輪(和)になって、妙佼先生の代理ともいうべき支部長さんの前で、ザンゲしたり教えを受けたりする場だ。

しかし、実際は、例のノシ袋で支部ごとのオサイ銭上り集計表が作られて、支部長が「もっと熱心に信心しなければ」と、金のブッタクリを訓示する場所である。〝熱心に信心する〟ということは、〝毎日本部へ来る〟ことである。本部へ来れば、あの礼拝道路を必らず歩かせられるのだから。

支部長の御託宣

オバさんの支部長への報告の済むまで、隅ッこに坐っていた私は、やがて法座へ加えられた。そこで、まず、ザンゲをしなければならないのである。

肩を落し、低い声で、とぎれとぎれに語る私のセリフに、年配のオカミさんたちの、好奇の視線が集まる。……とうとう女房は逃げてしまったのです。私はすてられました……という件りに

きたとき、支部サン(支部長)の声がかかった。

最後の事件記者 p.258-259 いい奥さんが御手配になります

最後の事件記者 p.258-259 『色情だよ! オ前さんには、名前の示す通り、色情のインネンがあるンだよ。だから奥さんに逃げられたんだ』
最後の事件記者 p.258-259 『色情だよ! オ前さんには、名前の示す通り、色情のインネンがあるンだよ。だから奥さんに逃げられたんだ』

そこで、まず、ザンゲをしなければならないのである。

肩を落し、低い声で、とぎれとぎれに語る私のセリフに、年配のオカミさんたちの、好奇の視線が集まる。……とうとう女房は逃げてしまったのです。私はすてられました……という件りに

きたとき、支部サン(支部長)の声がかかった。

『アンタ、何て名前だっけね』

『ハイ、鈴木勝五郎です』

支部サンは、掌に字を描いて、その名前の画数を数えていたが、吐き出すように、自信をこめて断言した。

『色情だよ! オ前さんには、名前の示す通り、色情のインネンがあるンだよ。だから奥さんに逃げられたんだ』

『ハ、ハイ』消え入りそうな声だ。

『だけどね。熱心に信心すれば、この教えは有難いもんでね。御利益があるよ。妙佼先生の有難いお手配でね、前の奥さんが知ったら口惜しがるような、いい奥さんがまた御手配になりますッ』

高圧的にいいきる支部長の言葉は、確かに神のお告げのように、何かいいようのない新しい力を、私の体内に湧き起らせた。

また、新しいオヨメさんがもらえる! 現実には八年の古女房が、二人の子供とともにデンと

居坐っている私にさえ、この言葉は不可思議な魅力を持っていた。ただし、〝熱心に信心すれば〟イコオル〝うんとおサイ銭をあげれば〟である。

社へ帰って報告したら、景山部長はじめ社会部のデスクは爆笑につつまれた。

『これァ邪教じゃないよ。ズバリ、最初に色情のインネンがあると喝破したからな』

『妙佼サマのお手配で、またオヨメさんがもらえるなら、オレモ信者になるよ』

と大変な騒ぎだった。

その後の法座で見聞したところによると、男の入会者はすべて、「色情のインネン」「親不孝」のどちらかである。聖人君子はさておき、男の子でこの二つに該当する過去をもたないものはあるまい。女に対しては、「シュウト、シュウトメを粗末にしたからだよ。思い当ることがあるだろ?」である。これもまたムベなるかなである。

三百円ほど支払って、タスキなどの一式を買わされ、翌日は導き親であるオバさん宅の総戒名、支部サン宅のオマンダラ(日蓮上人筆の経文のカケ軸)、本部と、三カ所へお礼詣りだ。

お礼詣りが、無事とどこおりなく済むと、翌々日は祀り込みだ。本部で頂いた鈴木家の総戒名を、支部の幹部が、私の自宅へ奉遷し参らせて、諸顕安らかに静まり給えかしと、お題目をあげ

る儀式である。

このことのあるのは、かねて調査で判っていたから、城西のある古アパートの一室を、知人の紹介で借りておいた。家主には事情を話し、チャブ台その他、最少限の世帯道具も借りておいたのであった。

最後の事件記者 p.260-261 交成会青年部の妙齡の乙女

最後の事件記者 p.260-261 色情のインネン、妙佼先生のお手配、新しい奥さん、等々。その視線の中に、隣にならんで坐っている、女子青年部員の、紺のスカート、発育したモモとが入る。
最後の事件記者 p.260-261 色情のインネン、妙佼先生のお手配、新しい奥さん、等々。その視線の中に、隣にならんで坐っている、女子青年部員の、紺のスカート、発育したモモとが入る。

お礼詣りが、無事とどこおりなく済むと、翌々日は祀り込みだ。本部で頂いた鈴木家の総戒名を、支部の幹部が、私の自宅へ奉遷し参らせて、諸顕安らかに静まり給えかしと、お題目をあげ

る儀式である。

このことのあるのは、かねて調査で判っていたから、城西のある古アパートの一室を、知人の紹介で借りておいた。家主には事情を話し、チャブ台その他、最少限の世帯道具も借りておいたのであった。

幹部婦人の愛欲ザンゲ

その当日、幹部サンと導き親のオバさん、それにもう一人、交成会青年部の妙齡の乙女と三人が、連れ立って本部からそのアパートへやってきた。

儀式が終ってから、幹部サンはやがて法話のひとくさりをはじめたのであった。その法話も、いつかザンゲに変っていた。

『これでネ。私も色情のインネンがあってネ。一度では納まらなかったのですよ。』

優しい調子で、こんな風に話しはじめた幹部サンは、彼女の悲しい愛欲遍路の物語をはじめた。富裕な商家の一人娘に生れた彼女は、我儘で高慢に育った。年ごろになったころ、同郷の知人からあずかって、店員として働らいていた青年に恋をされた。

しかし、気位が高くて、店員なんぞハナもひっかけなかった彼女の態度に、その青年は破鏡の胸を抱いて故郷へ帰っていった。

『あとでそのことを知ってネ。私の色情のインネン、そして、そのごうの深さに恐しくなりましたよ』

最初の夫との結婚話、それに失敗した第二の結婚、そして、いまの生活——それは、彼女の性欲史であった。彼女のその物語は、もう窓辺に宵闇をただよわせている部屋の薄暗さと相俟って、私は何かナゾをかけられているのかナ、とも考えたりした。

他人に恋心をよせられるのも、再婚するのも、浮気するのも(とは彼女は口にこそしないが)、すべてこれ、色情のインネンのしからしむるところだという。そのごうから逃れるための修養だというが……。

『しかしネ。なかなか修業が足りなくて……。あなたも、熱心に修業しなくちゃあネ』

色情のインネン、妙佼先生のお手配、新しい奥さん、等々。私は正座してうつむき、抜けかけた膝をみつめ、ジュズをにぎってそんなことを考えていた。その視線の中に、隣にならんで坐っている、女子青年部員の、紺のスカート、発育したモモとが入る。

美しい部類に入るその子は、眼の下のホクロが、色白の肌に鮮やかで魅力的だ。