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迎えにきたジープ p.112-113 尾行。運転手だけは変らない

迎えにきたジープ p.112-113 The Soviet representative's car ZIM is touring a fixed course in central and suburbs of Tokyo at a fixed time. Then, a car following the ZIM appears out of nowhere.
迎えにきたジープ p.112-113 The Soviet representative’s car ZIM is touring a fixed course in central and suburbs of Tokyo at a fixed time. Then, a car following the ZIM appears out of nowhere.

高級住宅地である麻布の高台を滑るように走ってゆく外国製車が一台。ナムバープレートには「SPACJ—35」とあるから、ソ連代表部の車だ。見馴れない型だからモロトフに違いない。ZIM式六基筒九十五馬力。モロトフ工場製でソ連が誇る新車ジムだ。

前に二人、後に二人と、いずれも座席の中央をあけて四人のソ連人が乗っている。車はグングンとスピードを出して虎の門から桜田門へと向った。警視庁のクスんだ建物を左にみて右へ

大廻り、祝田橋の信号にかかってギュッと停った。たちまち七、八台の車が後につかえる。

『Aコースだナ。今日こそ何かをつかんでやるぞ』

モロトフの直後にピタリと続いた黒のポンティアックの運転手が呟いた。何時の間に何処から現れたのか、目立たない地味な四十二年ぐらいの車で、客席には若奥様然とした美しい婦人が一人、運転手は紺のダブルに黒のネクタイ、金モールの帽子、どこからみても高級ハイヤーの運転手だ。

モロトフは日比谷交叉点からGHQ前へ、馬場先門から大手町、そして日本橋へと抜ける。ポンティアックは直後についたり、適当に一、二台をはさんだりしながら、執拗にモロトフを尾行する。

日本橋、京橋を左折して昭和通から、新橋へ向う。新橋から虎の門、さらに麻布へ。狸穴の代表部前を通過して、飯倉から六本木。交叉点を渡ったモロトフはようやく新竜土町付近で停り、後部席の二人を降して走り去った。二人は旧連隊の方へ歩き出す。

『USハウス九二六号行きか!』

ポンティアックの運転手は再びそう呟くと、アクセルを踏んで一気に二人を追越した。

奇怪な二台の車である。モロトフはつい最近からいつも定まった時間に、こんな不思議なド

ライヴを始めだした。乗員はいつも四名、まれに日本人が交ることもある。快スビードで無停車のまま、いつも定まったコースを走るのだ。

Aコース、麻布—虎の門—桜田門—日比谷—GHQ—交通公社横—日本橋—京橋—昭和通—新橋—虎の門—麻布。

Bコース、麻布—六本木—赤坂—外苑—代々木—日共本部前—甲州街道—立川、三鷹、青梅(復路同じ)

Cコース、麻布—目黒ロータリー—五反田—横浜(復路同じ)

Dコース、Bコースの甲州街道から—水道道路—中野—昭和通—鷺の宮—練馬—池袋—王子—西新井—池袋—練馬(以下復路同じ)

始発点の麻布が麻布狸穴のソ連代表部を指していることはいうまでもない。

五つのコース。遠く立川、青梅、三鷹までのばすこともあるが、道順は毎回少しも違わない。車はいつもモロトフ、ナンバー三十五号と決まっている。

そしてもう一台の車。これは必らず何処からか現れてモロトフを尾行する。だが車は自家用や三万台だったり、ハイヤー、タクシーのこともある。運転手だけは変らない。

六本木に向って黒い自動車が疾走してくる。白Yシャツにハンチングの運転手で、客席には

誰もいない。歩いて行く二人のソ連人の手前で、自転車でも避けたのか、グッとカーヴを切ってまた元通りに走り過ぎた。

『成功、成功。これで写真はOKヨ!』