最後の事件記者 p.232-233 まず仙洞田部長へ当ってみる

最後の事件記者 p.232-233 三橋事件の古ハガキで重要なもの、三橋の焦点は鹿地との結びつきだから、これほどの大騒ぎをするとすれば、その結びつきを立証するもの
最後の事件記者 p.232-233 三橋事件の古ハガキで重要なもの、三橋の焦点は鹿地との結びつきだから、これほどの大騒ぎをするとすれば、その結びつきを立証するもの

これが記者のカンである。私は三橋事件だと断定した。すぐ車をとばしてNHKに行ってみる

と、仙洞田部長は、ここにもきているのだが、何故か断られている。これで当局が熱心な手を打っていることが判った。

次は現場の日暮里駅だ。助役に聞いてみると、翌十八日には二名の刑事がきて、駅のゴミ箱中を漁り、ないとなるや、さらに駅出入のバタ屋を探していったという。私は車をさらに八王子支局へと駈った。

国警カブトを脱ぐ

当時、三橋の身柄は起訴されてから一カ月もたつというのに、まだ八王子地区署におかれてあった。支局でずっと三橋の動静をみている記者に聞いて、調べ官の異動の有無を調べると、あった、あった、ドンピシャリだ。

二十日の放送依頼日から、事件発生以来、三橋を手がけていた永井警部に代って、佐藤警部が担当官となり、永井警部は全く事件から手を引いてしまったという。

私はこおどりしてよろこんだ。事件はやはり三橋だったのである。そこで私は、これまでつかんだ事実から、推理を組み立てる。

紛失物は古ハガキ。なくした人は永井警部一人。他に処分者がいないからだ。すると紛失時の状况は彼一人ということだ。捜査に出かける時は、刑事は必らず二人一組になるから、捜査ではない。

紛失時間が夜の七時。彼の家が常盤沿線だから、これは帰宅の途中。しかも翌日は日曜日だから、迫ってきた公判の準備に、自宅で調べものをしようと、書類を持ちだして、駅のホームで、雑誌か何かをカバンから取り出した時に、一しょにとび出して落したものだ。

三橋事件の古ハガキで重要なもの、三橋の焦点は鹿地との結びつきだから、これほどの大騒ぎをするとすれば、その結びつきを立証するもの、ハガキで結びつきを立証するとすれば、鹿地の直筆で、三橋へあてたレポのハガキということになる。

こう結論を出した私は、はやる心を押えてその日の取材を終った。翌二日、まず仙洞田部長へ当ってみる。この取材が〝御用聞き取材〟ではないということだ。

『部長、マンホールや列車防害なぞの小事件で、部長が直々に放送を頼みにいって、ペコペコしたら貫禄が下がるよ』

『なんだい? ヤブから棒に放送なんて』