事実、伊藤忠商事ばかりが〝悪役〟にされて、防衛庁事件は終わった。今秋のFX以降、伊藤忠商事は、防衛庁特需に肩身がせまくなるのは当然だし、現役将官の自殺者まで出ているのだから、伊藤忠は〝商戦〟に参加できなくなろう。機密ろうえい事件の事実関係はさておき、伊藤忠の脱落で利益を得る者は誰なのか? どこの商社なのか?
大熊検事が、昨秋から手がけていた情報捜査となると、そのネタモトは誰か? ということ
になってくる。話はさかのぼって、ロッキード・グラマン空中戦以来の、登場人物たちを調べねばならない、前記の司法記者クラブ員たちの〝解説〟も、その新聞社、その記者個人によって異なり、あくまで〝風説〟にすぎないのであるが、八月七日の公判廷での猿芝居をみると、〝児玉と河井次席検事の組んだデッチ上げ〟証言が事前に大熊検事らに了解されていたことは間違いない。
大熊検事と児玉氏とが、電話連絡で、〝情報交換〟をしていると断言する記者もいる。しかし、その記者はつけ加える。「大熊だって、児玉をヤルといってるのだから、〝情報交換〟といっても、証拠関係は別だろう。検事なんて、事件のためには誰だって利用するし、誰とでも手を組むからネ。あんただって、司法クラブにいたから知ってるだろ?」
この言葉は事実である。児玉証人脅迫で、保釈取り消しを検討されている森脇被告こそがこの〝猿芝居〟でオドカされている。保釈金は三億三千万円、現金一億に残りは保証書だが、保釈取り消しとなれば、これが没収されてしまう。今の彼には大きな金であろう。
その記者は、大熊検事と児玉証人との〝じっこん〟ぶりを説明したあとで、森脇被告の転変を目して〝殷鑑遠からず〟と、「検察の公正」について敷衍するのであった。
児玉氏が河井次席検事と親しい——という〝噂〟は田中彰治〝黒い霧〟事件以後、特に流れはじめた。吹原、森脇、大橋富重、東京大証の各事件など、ここ一連の特捜部事件を眺めてみ
ると、児玉氏は〝重要な関係者〟でありながら、〝被疑者〟として登場したことは一度もない。ただ、大阪の住宅公団光明池事件の時は、大阪府警の捜査四課から出張してきた捜査官に、「被疑者調書」を取られたという、〝伝説〟がある。この時も、呼び出しを受けた児玉氏は、警視庁の捜査四課長室に現われて雑談をし、地下の調べ室に待機していた府警係官を課長室に呼びつけてタイミングを狂わせたといわれるほどだから、果たして、「参考人調書」か「被疑者調書」かは、つまびらかではない。
〝イケショウ〟の挑戦状
このように、現象面で児玉氏が摘発されないのだから、世評は〝河井検事と組んでる〟という噂を、根強く信じこませていった。吹原事件でも、特捜部の若手検事には「児玉捕るべし」を主張する者がおり、日通事件では、「果たして児玉までゆくであろうか」という、〝風聞〟が流れていたことは事実だ。
そのようなところへ、この八月七日の児玉証言があったのだから、その内容は極めて〝奇異の感〟をもって受け取られたハズである。新聞記事では、森脇被告本人の談話の続報も、解説も出なかった。朝日だけ、朴弁護人の談話として、「児玉発言は一方的。今後証人を立ててでも、児玉発言がまちがいであることを立証してゆく。偽証工作ではない」旨を伝えた。
すると、「児玉と河井のデッチあげ説は森脇のデマ」というのも否定していることだ。