投稿者「mitaarchives」のアーカイブ

黒幕・政商たち p.058-059 戦前、井上日召の付け人

黒幕・政商たち p.058-059 「田中角栄幹事長は、キミイ、比島葉は難しいぜ、キミイ、といっただけだった。ワシのこれからの仕事は、米葉利権と政治家の結びつきの究明だ」
黒幕・政商たち p.058-059 「田中角栄幹事長は、キミイ、比島葉は難しいぜ、キミイ、といっただけだった。ワシのこれからの仕事は、米葉利権と政治家の結びつきの究明だ」

〝怪人物〟コバケン

利権と政治家の結びつき

さて、私は一方で、〝コバケン〟なる人物をたずね歩いていた。右翼で小林健といえば、全愛会議の青年組織である、青年思想研究会議長の小林健氏を指すものと思われたが、ジンタイ(人体、人相、風態の意)が違う。この小林氏を追尾してみた時、「甲府のコバケン」といわれる人物がいることを聞き、私は直ちに市外番号調べのダイヤルを回してみた。

交換嬢の告げる電話番号と住所を書き取った私は、直ちに甲府市の地図をひろげる。意外! この小林健氏は、甲府市外、しかも笛吹川を渡って、なお数キロもある境川村に居住しておりながら、甲府の市内番号の電話を引いているのであった。これだけの事実で、私のカンはピシャリと決った。新宿駅にかけつけて、第二アルプス号に乗ったのである。ついに〝怪人物〟の割り出しに成功した。

甲府市外境川村、駅から小型のタクシーで八百円余りの草深い田舎に、「洗心荘」という、数寄屋造りの別荘を構え、小林健氏は、京風の庭の手入れをしていた。私の調査によれば、戦

前、憲兵隊から井上日召氏のもとに、付け人として派遣され監視に当っていたといわれる、治安当局の分類によれば、右翼に位置づけられている人物。

氏は、米葉と結びついている利権政治家の名前をあげ、その腐敗をつき、〝義によって〟マカパカル大統領の応援に乗り出した経緯から説き起した。

「まず第一に、外貨が節約できるではないか。第二に、条約の批准が期待できるではないか。これはすべて国益だ。比島葉の栽培、採り入れ、味付け、すべて公社が指導すればよいことだ。そのための研究所も持っているではないか。このワシの正論の前に、公社はグウの音も出ないのだが、既得権益を守る勢力の方がまだ強い。これを打破せねばならないのだ」

確かに、氏の主張は正論であった。だが、氏の応援が期を失っていたのか、或いは力及ばなかったのか、デュモン上院議員、〝密使〟ミス・コーラーは、何の収獲もなく、九月に入るとともに、ホテルを引払って帰国した。

「田中角栄幹事長は、キミイ、比島葉は難しいぜ、キミイ、といっただけだった。ワシのこれからの仕事は、米葉利権と政治家の結びつきの究明だ」

〝怪人物〟コバケンは、こういって新聞に眼を落した。マカパカル敗る! のニュースであった。そして、その頃、通産省は、四十年下期のタバコ輸入割当を決定した。葉たばこ二千八百トン、紙巻二万二千八百本、葉巻百五十万本、パイプ三十一トン。葉たばこ対象国としては

依然として、アメリカ、ローデシア、インド、タイ、そして新たに、韓国が候補に上ってきた。フィリピンはやはり葉巻用だけで、黄色種(ヴァージニア葉)はカクエイ・タナカのいう通り、〝むづかしい〟らしい。

黒幕・政商たち p.060-061 貢献度による特権商社の会

黒幕・政商たち p.060-061 公社に百%依存して、そのOBを重役に引取っている専業者たちが「数字は公社から」と拒み、公社は「予算的にもルーズ」であれば、もちろん米葉の実態を明らかにはしないであろう。
黒幕・政商たち p.060-061 公社に百%依存して、そのOBを重役に引取っている専業者たちが「数字は公社から」と拒み、公社は「予算的にもルーズ」であれば、もちろん米葉の実態を明らかにはしないであろう。

〝怪人物〟コバケンは、こういって新聞に眼を落した。マカパカル敗る! のニュースであった。そして、その頃、通産省は、四十年下期のタバコ輸入割当を決定した。葉たばこ二千八百トン、紙巻二万二千八百本、葉巻百五十万本、パイプ三十一トン。葉たばこ対象国としては

依然として、アメリカ、ローデシア、インド、タイ、そして新たに、韓国が候補に上ってきた。フィリピンはやはり葉巻用だけで、黄色種(ヴァージニア葉)はカクエイ・タナカのいう通り、〝むづかしい〟らしい。

週刊新潮四十年九月四日号「阪田総裁、人望の裏側」という記事は、「専売公社は他の機関と違って、予算的にもルーズな面があるようなんですよ。従来、きびしい経理監督の面がなかったんじゃないですか。公労協傘下の組合には、ヤミ賃金というのがありましてね。これはそれぞれの組合が、理事者側とウラ協定を結んでいるわけです。これが多いのが、専売と電通といわれますがねえ。……大蔵省がうるさくなると、ヤミ賃金なんかの面でしばられる結果を、全専売はおそれているんですよ」と、公社がヤミ賃金を出している事実を社会党系人物の談話として述べている。

一体、このヤミ賃金の財源は何であろうか。

友成外国課長補佐は、米葉の買付け状況を、数字を抜きにして、親切にシロウトにも判り易く説明する。

「ヴァージニア葉は、ピース、富士、ハイライトなどに、香喫味として加えるのであって、主原料は国産葉です。だからピース、ハイライトの伸び率に伴って、米葉の輸入もふえるのが当然で、米葉の輸入増大に特別の意味はありませんよ」

東南ア外交の裏で——

たとえ、ピース、ハイライトの伸び率のグラフと、米葉のそれとを比較してもナゾ解きのヒントは得られない。たばこの輸入は、ドルと数量のワクをはめられるが、現実にこの二つのワク内での買付けをドンピシャにはできないのである。葉には茎の上部から、天、中、本、土と四種類あり、乾燥にも蒸気と日干とあり、土壌や天気で品質、味ともに変り、しかも発酵のため二年間は貯蔵する。

これを組み合せ、混ぜ合せて、銘柄の味、香気を作り出すのだから、公表されている数字をすべて集めてみても、〝大統領の密使〟たちが出した条件のように簡単明瞭な金の動きはつかめない。

そして、公社に百%依存して、そのOBを重役に引取っている専業者たちが「数字は公社から」と、拒むのであれば、前記週刊新潮が指摘しているように「予算的にもルーズ」であれば、もちろん米葉の実態を明らかにはしないであろう。

秋山、協同、米星、国際、吉川、三倉、東亜の七社が「七葉会」といわれるが、このうち東亜産業は消息通によれば公社のきびにふれて、除名され、現在は米葉を取扱っていない。また、民営たばこ以来の貢献度による特権商社の会といわれるにしては、三倉物産の創立は昭和三十 一年であり、元公社副総裁、現米葉協会長石田吉男氏(三洋貿易東京支店勤務)が米国勤務中の女性秘書ミス・マートの実兄が、三倉物産社長だと業界では噂されている。

黒幕・政商たち p.062-063 米葉輸入のウマ味

黒幕・政商たち p.062-063 どうして、専売公社は、業者の口を封じ、米葉輸入に関する内容数字を公表しないのか。七葉会の「東亜」が米葉輸入からオロされたのは、何故か。
黒幕・政商たち p.062-063 どうして、専売公社は、業者の口を封じ、米葉輸入に関する内容数字を公表しないのか。七葉会の「東亜」が米葉輸入からオロされたのは、何故か。

秋山、協同、米星、国際、吉川、三倉、東亜の七社が「七葉会」といわれるが、このうち東亜産業は消息通によれば公社のきびにふれて、除名され、現在は米葉を取扱っていない。また、民営たばこ以来の貢献度による特権商社の会といわれるにしては、三倉物産の創立は昭和三十

一年であり、元公社副総裁、現米葉協会長石田吉男氏(三洋貿易東京支店勤務)が米国勤務中の女性秘書ミス・マートの実兄が、三倉物産社長だと業界では噂されている。同社の登記とう本によると、ミスター・オット・F・マートが取締役におり、他はM姓の男女と三人しかない会社であった。この七葉会六社に、東洋、宇田、日辰、協栄の四社が加わったのが、〝専業十社〟であり、長く独占体制であったらしいが、米葉輸入のウマ味が知れてきてから、三井物産、三菱商事、三洋貿易、岩井産業、大倉商事の大手五社が加入した。

阪田前総裁が、結婚式の仲人を池田総理に頼みに行ったところ、「ワシは功成り名遂げた人間だ。キミのこれからの為には、田中蔵相に頼みなさい」といわれたという。一方、田中蔵相は組閣にさいし、後任に池田派の大平外相を推したという。自分のリモコンが利くからだという説である。だが、福田蔵相が実現した。

昭和四十年を回顧してみると、春の吹原事件は、池田派の大蔵官僚出身議員たちをふるえ上らせた。つづいて夏の国有地払下げ問題が、同じように大蔵OBへの圧力。そして、秋には、ついに大蔵官僚の牙城「専売公社総裁」が、財界人に明け渡された。しかも、この全期間を通じてのキャンペインが、〝専売一家〟をゆさぶる小林章派選挙違反事件である。

この一連の動きこそ、私は、偶然の一致とは見ずに、〝佐藤長期不安定政権〟が、着々と打ってきた、政財官界への布石であり、与論形成のためのキャンペインであるとみる。事実、エ

リートの中のエリートをもって任ずる大蔵官僚は、今まで、あまりにも傍若無人であり、あまりにも権力を持ちすぎていた。それは〝利権〟を握っていたからである。

米葉輸入量のグラフに、年度ごとに時の実力者、担当大臣名を記入し、選挙、政変などの主な政治事件を並記すれば、このグラフは、さらに雄弁に米葉輸入のウラ側をも示してくれるであろう。だが、どうして、専売公社は、業者の口を封じ、かつ、米葉輸入に関する内容数字を公表しないのであろうか。七葉会の専業社中「東亜」が指定を取消されて、米葉輸入からオロされたのは、何故だろうか。コバケンこと小林健氏は一通の手紙、アメリカのタバコニストの一人(特に名を秘す)からの私信を示した。

「(前略)下級品(三級)は高値の上に質も良くありません。しかし、当地の業者は、日本専売公社のために、上、中、下級そのものではなく、それらに似通ったものを、買付けるでしょう。割当を充足するためにのみ。

この点に、私はフィリピン煙草をもって、補充する余地を見出せるわけです。何故なら、彼らの煙草はあまりに高値にすぎ、品質が悪すぎるからです。ここに新聞の切抜きを同封しますが、日本側では当地の煙草生産の余剰品を買付けると書かれています。(後略)」

ノース・カロライナ発の英文の手紙が、「米葉でなきやダメ」と主張する公社外国部の主張をくつがえしている。

黒幕・政商たち p.064-065 コバケン一人がアガいても

黒幕・政商たち p.064-065 井上日召の身辺の世話をみてあげたが、私は右翼ではない、という氏が、〝黒い葉たばこ〟のウラ側の、利権政治家の名前をあげるのは何時の日か。
黒幕・政商たち p.064-065 井上日召の身辺の世話をみてあげたが、私は右翼ではない、という氏が、〝黒い葉たばこ〟のウラ側の、利権政治家の名前をあげるのは何時の日か。

「公社はコバケン一人がアガいても、米葉は政治資金につながってるからダメなのサ、といわんばかりに冷笑して。私の正論に耳をかそうとしない。だが、河野、池田らに汚された保守政治を、洗い清めてくれる保守党最後の旗手——それが佐藤なんだと、私は信じている」

戦後、井上日召の身辺の世話をみてあげたが、「だからといって、私は右翼ではない。甚だメイワク……」という氏が、〝黒い葉たばこ〟のウラ側の、利権政治家の名前をあげるのは何時の日か。

日韓をあげた佐藤政権の、次の課題は日ソといわれていた。だが、マニラにアジア開銀本店を誘致された政府は、東南ア外交を再検討せざるを得なくなった。日韓の次は、日比の声が強くなるのも当然であろう。

今まで、河野一郎、田中角栄といった実力者たちに、全世界をマタにかけた、気宇壮大な物語りに登場していただいたのであるが、ここで忘れてならないのは、インドネシヤはジャカルタのデビ夫人と、夫人が〝パパ〟と呼ぶ川島正次郎副総裁である。

川島副総裁のテコ入れで、スカルノ大統領の第三夫人デビさんという、元日本女性がアジアのファースト・レディという扱いを受けるように変った。

この〝美談製造〟の物語りは、項を改めて詳述しなければならないが、ソウルにジャカルタに、はたまた、マニラにと、黒幕やら政商やらは、まさに東奔西走の多忙ぶりである。

第4章 マイホームの夢を食う虫

昭和四十三年。十月十二日付毎日新聞朝刊=自民党の佐藤派議員は、十一日午後、東京のホテル・ニューオータニで会合し、十一月の総裁選に臨む同派の態度を協議した。十一日の会合で、田中角栄氏は「佐藤首相三選のためには」として、首相三選の体制固めの必要を強調した。

黒幕・政商たち p.066-067 佐藤の三選への執念

黒幕・政商たち p.066-067 自民党会館二階の喫茶室。記者らしい二人連れの対話に、私は耳を澄ませていた。確かに、佐藤首相の周辺には、〝黒い噂〟も情報もないのは事実だろう。
黒幕・政商たち p.066-067 自民党会館二階の喫茶室。記者らしい二人連れの対話に、私は耳を澄ませていた。確かに、佐藤首相の周辺には、〝黒い噂〟も情報もないのは事実だろう。

住宅公団の抜け穴

〝佐藤さん〟はキレイ好き

「田中角栄というのは、幹事長をはずされ、全くの無役にされても、〝広川弘禅〟にはついにならなかったネ。不思議な奴さ。…国会中には、院内の福田幹事長室あたりで駄弁っていたりして、悠容迫らずといった感じなんだ」

「ウン。彼が幹事長からおろされた時、ある大会社の重役がネ、あわてて飛んできてオレにきくんだ。検察の手がのびるでしょうかッて。彼の周辺には〝黒いムード〟がただよっていた」

「福田で想い出したが彼が怪文書を流されたことがあるネ。自動車会社から億だかをマキあげたといって。福田はカンカンに怒って、この正体不明の怪文書を警視庁に告訴した」

「そうそう。警視庁はすぐさま犯人を割り出して、広川一馬という雑誌ゴロをあげた……」

「その時、福田は、犯人があげられたのを見届けてから、名誉棄損の告訴を取下げただろう?」

「あれはたしか、去年の秋ごろかナ?」

「福田の告訴取り下げは、捜査当局の、腹を立てさせたが、世論も割り切れない後味の悪さに、批判の声をあげた……」

「ウン。一橋大の刑法の植松正など、告訴は犯人に刑事罰を求める意志表示だから、取下げなど怪しからん、といっていた」

「そのウラは、広川某の黒幕に、田中角栄側近のHが出てきたからサ。福田もあの時点で田中との正面衝突を避けたのだろう」

「しかし、あの当時、佐藤栄作は、よく田中幹事長を切ったね。オレはエライと思ったよ」

「そうだナ、佐藤の三選への執念。いうなれば七〇年安保を自分の手でやりとげるのだ、という堅い決意を物語るものだろう」

「大津正首席秘書官をおろしたのも、同じ伝だナ…。確かに、不思議なほど、佐藤の周辺には、〝黒い噂〟がないよなあ!」

永田町の自民党会館二階の喫茶室。あたりに人影の少ないのに気を許したか、記者らしい二人連れの対話に、私は耳を澄ませていた。

確かに、この話の通り、佐藤首相の周辺には、不思議と思えるほど、〝黒い噂〟も情報もないのは事実だろう。そして、池田首相夫人とは違って、佐藤寛子夫人にさえ、〝出過ぎた〟話

も出てこない——私は、これこそ、首相の執念とみる。

黒幕・政商たち p.068-069 住宅公団の宅地買収のデタラメさ

黒幕・政商たち p.068-069 千葉県を舞台にして、公団が宅地を買付けた。「坪六千円の土地が、ある業者の手を経て、公団に買収されたが、その価格が坪一万一千円。ほぼ倍の値段です」
黒幕・政商たち p.068-069 千葉県を舞台にして、公団が宅地を買付けた。「坪六千円の土地が、ある業者の手を経て、公団に買収されたが、その価格が坪一万一千円。ほぼ倍の値段です」

確かに、この話の通り、佐藤首相の周辺には、不思議と思えるほど、〝黒い噂〟も情報もないのは事実だろう。そして、池田首相夫人とは違って、佐藤寛子夫人にさえ、〝出過ぎた〟話

も出てこない——私は、これこそ、首相の執念とみる。

賞めすぎるようだが、六〇年安保をなしとげた、兄岸首相のあとをうけて、七〇年安保に政治生命をかけた、佐藤栄作の〝自覚〟が冷酷にさえ見えるその人事にうかがえる。河野一郎を閣外に追落し、返す刃で片腕ともたのむ田中角栄を党からはずす。兄弟の長年の〝忠僕〟大津秘書官さえ暇を出すという、この徹底した潔癖さは、側近の非違のために挂冠するハメにおちいることを、極度に警戒しているものであろう。

世田谷の私邸でも、一国の総理としては貧弱な家である、これほど〝身を持すること厳〟な首相ではあるが……。

幽霊会社に消える土地代金

「私も不動産業者ですから、ある時には、結構、稼がせてもらいますよ。でも住宅公団の宅地買収のデタラメさには、義憤を感ぜざるを得ませんよ」

彼はこういって言葉を切った。私は黙って、彼の口許に眼をやる。

——落ちる瞬間とはこれだな!

刑事のいう〝落ちる〟とは、犯人が自供をはじめることだ。私の記者生活の体験からいうと、多くの場合、事件の真相を知る人物は、実は事件の主役たちと利害の上で、相当程度に密着し

ているものである。それ故に彼が提供したその記事のもたらす影響と、彼の利害との関係位置に気を配らねばならない。それが一瞬、口をつぐませるのだった。

彼——その男は、まだ三十台の若さながら、都心に事務所を持つ有力な業者の一人だった。ある意味での、成功者のうちに数えられる彼にとっては、シャニムニ、金にさえなれば良い、といった、アクドイ商売には、批判の眼を向けざるを得ない〝ゆとり〟が生れていたのだ。

彼の話には、まだウラがとれてない。つまり、私自身の調査による、裏付け取材がしてないのだが、やはり関係者の談話なので、ここで一通りの紹介をしておこう。千葉県を舞台にして、公団が宅地を買付けたのだという。

「坪六千円の土地が、ある業者の手を経て、公団に買収されましたが、その価格がなんと、坪一万一千円。ほぼ倍の値段です。大衆にとって、宅地が高嶺の花にならないよう、宅地債券などが新らしくできましたが、この実例でみると、宅地債券など買う奴は、安い土地をわざわざ高く買う結果になっているのです」

これは、他の実例を見ても、間違いのない事実である。もう少し、彼の話を聞かねばならない。

「公団と地主の間には、ある会社がクッションになって入っています。ホテルニュー・ジャパンの中にあるその会社の社長というのは、ある金融機関の支店長だった男です。そして、彼

が、その土地を、半年でも一年でも持っていて、公団に売ったというのなら、まだよろしいでしょう。しかし彼が所有していたのは、僅かに一日間だけです。土地の広さですか? 坪六千円の土地で、総額十数億円にのぼる面積です。そして、彼はその土地のある農協から十億もの融資を受けているのです」

黒幕・政商たち p.070-071 蒸発してしまう会社が必要

黒幕・政商たち p.070-071 そして、九億ほどの金が、地主以外の連中——公団に売り付けた幽霊会社や、公団をめぐる政治家をはじめとする〝黒幕〟たちのフトコロを肥やしているのである。
黒幕・政商たち p.070-071 そして、九億ほどの金が、地主以外の連中——公団に売り付けた幽霊会社や、公団をめぐる政治家をはじめとする〝黒幕〟たちのフトコロを肥やしているのである。

「公団と地主の間には、ある会社がクッションになって入っています。ホテルニュー・ジャパンの中にあるその会社の社長というのは、ある金融機関の支店長だった男です。そして、彼

が、その土地を、半年でも一年でも持っていて、公団に売ったというのなら、まだよろしいでしょう。しかし彼が所有していたのは、僅かに一日間だけです。土地の広さですか? 坪六千円の土地で、総額十数億円にのぼる面積です。そして、彼はその土地のある農協から十億もの融資を受けているのです」

公団から地主たちに支払われた金は、彼の会社を通して、農協に預金され、そして彼は、その金を農協から融資してもらっている。

「だが、ニュー・ジャパン内のその会社は、融資をうけるやいなや、煙の如く消えてしまったのです。ホテルの交換台は、その部屋の主が、〝出発〟してしまったと告げるのです。……一体、十億という金を借り得る会社が、そんなに簡単に消減してしまうものでしょうか」

固有名詞が、公団とホテル名以外は、すべて伏せられているので、読者はこの話を、にわかには信じ難いと思うかも知れない。

しかし、公団の宅地買収に関する限りは、このようなミステリーは、日常茶飯事である。坪六千円ならば、三十万坪で十八億円。しかし、倍の値段で買上げているので、十八億では約十五万坪しか買えない。そして、九億ほどの金が、地主以外の連中——公団に売り付けた幽霊会社や、公団をめぐる政治家をはじめとする〝黒幕〟たちのフトコロを肥やしているのである。

また、農協に対しては導入預金だ。地主に渡った約九億円の金の大部分が、農協に入り、そ

の金はまた、幽霊会社へ還元されている。一体、誰がこのようなミステリーの脚本を書き、誰が演出しているのだろうか。そして、また、その金の行方は?

「私が研究した限りの税法では、このような取引は、考えられないのです。そのため、すべての〝悪〟をひっかぶって蒸発してしまう会社が必要なんです」

彼の話は、まだえんえんと続くのであるが、信じきれない読者のために、まず一つの「事実」を示さねばならない。

光明池事件のウラのウラ

ここに一通の公文書がある。昭和三十八年七月二十日付で、日本住宅公団の三人の監事の連名による、日本住宅公団総裁挾間茂にあてた、監査報告書だ。その全文を紹介しよう。

大阪支所の監事監査結果について

先般、大阪支所の監査を行いましたその結果は、別紙監査書の通りでありますので、御通知いたします。以上。

日本住宅公団監事 武井良介
         川合寿人
〔宅地部関係〕  大庭金平

黒幕・政商たち p.072-073 某監事の〝義憤〟が火を噴いた

黒幕・政商たち p.072-073 光明池地区に関して、「一年経過してこれが適地となることは、まず、常識では考えられない」「今後はかかる公団独自で解決できぬ」土地は選ぶなと、鋭く問題点を指摘している。
黒幕・政商たち p.072-073 光明池地区に関して、「一年経過してこれが適地となることは、まず、常識では考えられない」「今後はかかる公団独自で解決できぬ」土地は選ぶなと、鋭く問題点を指摘している。

1 光明池地区について

当地区の選定については、種々問題があろうが、すでに地区決定をし、用地買収費を支払済である。現在、公団としては、事業を遂行する義務が課せられたのである。水道、連絡道路、排水関係、特に光明池に対する防災工事等問題は山積している。原価試算をみると、本地区の事業費が他地区と比して、高くもなっているが、これの予算裏付け、最後に出来上り成果が需要にマッチするかというような諸点は、もちろん、成算あっての上地区決定とも思料されるが、大阪支所だけでは処理できない幾多の問題点が、内蔵されているので、本地区に関しては、支所共、関係諸機関と連絡調整の上、禍を残さぬよう事業遂行のタイミングに、充分留意されることを希む。

おって本地区は前年度において不適地としたものである。一年経過してこれが適地となることは、まず常識では考えられぬことでもあり、それだけ問題点がある。今後は、かかる公団独自では解決できぬような問題点を有する土地は、他に候補地がなければ別であるが、選ばぬような指針を立てられたい。

本地区選定の推移と、三十八年度分特分審査の問題は、二律背反の典型であり公団の性格を如実に表したものである。

2 八幡地区の地区決定等について

当地区については、三十七年十二月十四日付造成面積五十六万坪、取得予定価格、坪当り三千八百円として地区決定しているが、同地区については当初候補予定地としてあがってから、すでに数年を経過し、その間、約四倍(当初坪千円位、取得予定四千円)の土地値上りをしている。排水路の問題で今迄決定がのびていたとはいえ、当地区をやるという決断が早ければ、もっと土地が安く取得でき、その分を排水工事費に、余計予算をかけても、現在実行に踏みきるよりは、経済的ではなかろうか。光明池の地区決定、買収完了は、特殊事情により、速かったかも知れぬが、用地の取得に限らず仕事はすべて、もっと迅速にかつ慎重に処理するようされたい。(後略)

——この監査報告は、大阪支所の仕事ぶり全般にわたって、細かに、眼を配らせているが、宅地関係を抜粋すると、以上の通りである。

光明池地区に関して、「一年経過してこれが適地となることは、まず、常識では考えられない」「今後はかかる公団独自で解決できぬ」土地は選ぶなと、その背景となっている〝政治的特殊事情〟を十分に承知した上で、鋭く問題点を指摘している。

八幡地区についても、時間を浪費したための地価の四倍値上りを取りあげ、警告しているが「光明池の地区決定、買収完了は、特殊事情により速かったかもしれぬが」という数文字は、事情を知るものにとっては、某監事の〝義憤〟が火を噴いた、痛烈な皮肉と読みとれよう。

黒幕・政商たち p.074-075 何十億の金が右から左へと動く

黒幕・政商たち p.074-075 日本住宅公団大阪支所のやった、光明池問題なるもの、この〝元兇〟ともいうべき立場の人物は、今は故人となった河野一郎だというのが、関係者の通説である。
黒幕・政商たち p.074-075 日本住宅公団大阪支所のやった、光明池問題なるもの、この〝元兇〟ともいうべき立場の人物は、今は故人となった河野一郎だというのが、関係者の通説である。

左翼の国会議員も登場

ここで、読者の理解を助けるため、日本住宅公団大阪支所のやった、光明池問題なるものを解説しなければならない。この〝元兇〟ともいうべき立場の人物は、今は故人となった河野一郎だというのが、関係者の通説である。そして、筆者がこの事件を、改めて取上げる所以も、河野一郎なる公人の、政治家としての功罪を、評価すべき資料たらしめたいと、願うからでもある。

光明池問題が表面化したのは、三十九年四月二十一日の衆院決算委で、勝沢芳雄委員(社、静岡一区)が、「公団の宅地買収に不明朗な点がある」と、質したのにはじまる。その質問によると、「公団が三十八年五月十七日に、同地区を坪当り四千百円で買ったが、この土地は三十六年ごろには、坪当り千円にすぎなかった。また、公団は三十七年に団地化計画を立てて、大阪支所に調査命令を出したが、三十八年四月上旬、同支所は条件が悪いとして、計画反対の報告を出した。しかし、四月末になって、再調査命令が出され、同支所は、五月七日に土地等評価審議会を開いて、土地買収の申請をすることを決め、その後十日間のうちに、契約が成立して、買収費の十四億七千万円のうち、九〇%が一会社に支払われた」という。

そしてさらに、前述の「監査報告書」が訂正されて、不明朗な点に注意喚起した部分が、削

除されている、とまで指摘して、〝黒い霧〟ムードを糾騨した。

これに対し、挾間総裁は「四千百円は適正だ」と、型通りの〝国会答弁〟をして逃げ、大庭監事は「大阪支所の報告の内容に、事実誤認があったので訂正」とのべた。

だが、監査報告書は訂正版には、報告の・印部分「おって……公団の性格を如実に表わしたものである」の十三行が削除されているし、大庭監事の署名印は双方にあるのである。

勝沢委員の質問は、こうして、いうならばカルクイナされてしまったのであるが、問題は深く静かに潜行していたのであった。そして、被害者に選ばれたのが日本三棉の雄といわれた、東洋棉花不動産部。主役は、東棉嘱託の肩書をもつ、東洋殖産社長岡林和生(三九)と、興亜建設社長大橋富重(四二)の両名。最後には顔見世ながら、右翼の巨頭(?)といわれる児玉誉士夫氏から、日共を追われた「日本のこえ」志賀義雄氏まで登場するといった、豪華キャストである。何十億の金が、右から左へと動くのも、無理からぬことでもあろう。そして、事件は、勝沢委員の質問から、丸一年を経た四十年春すぎから、東京、大阪で軌を一にして起ってきた。

まず、大阪篇から述べよう。

大阪府警捜査四課に、四十年八月十三日、大阪で二人の雑誌発行人が捕まったのである。「パーチャス・ガイド・オブジャパン」という、英文の貿易案内誌といっても、ベヤリングを

主とした機械の業界誌であるが、この二人の同社重役は、光明池地区の宅地買収にからんで、東洋殖産岡林社長から一千万円、東棉不動産部豊田保部長から二千七百万円、合計三千七百万円をおどし取った、という容疑であった。

黒幕・政商たち p.076-077 広布産業事件のカラクリ

黒幕・政商たち p.076-077 志賀義雄が質問。「佐々木環(広布産業社長)が、大阪の東洋殖産岡林社長と、パーチャス社今西啓師社長、東棉豊田不動産部長、同青木課長の四人を告訴した事件。ある官庁、某高官が関係している」
黒幕・政商たち p.076-077 志賀義雄が質問。「佐々木環(広布産業社長)が、大阪の東洋殖産岡林社長と、パーチャス社今西啓師社長、東棉豊田不動産部長、同青木課長の四人を告訴した事件。ある官庁、某高官が関係している」

まず、大阪篇から述べよう。

大阪府警捜査四課に、四十年八月十三日、大阪で二人の雑誌発行人が捕まったのである。「パーチャス・ガイド・オブジャパン」という、英文の貿易案内誌といっても、ベヤリングを

主とした機械の業界誌であるが、この二人の同社重役は、光明池地区の宅地買収にからんで、東洋殖産岡林社長から一千万円、東棉不動産部豊田保部長から二千七百万円、合計三千七百万円をおどし取った、という容疑であった。

ところが、この恐かつ事件から、英文誌の重役の一人、柴山英二(四三)が、公団大阪支所用地課長勝又国善(四〇)に、贈賄した旨を自供したため、同十月二十七日、公団東京本所労務課長に転勤していた勝又が府警捜査二課に逮捕されるにいたった。

さらに府警二課は、翌十一月二十二日、勝又の自供から、当時の東棉不動産部長で、事件の責任から東京支社化学品石油本部長に転じていた豊田保取締役(五一)を任意で調べ、岡林は胃の手術のため入院してしまうという進展を見せた。

一方、東京では、別の角度から、事件になっていたのである。

吹原事件が森脇将光逮捕という、ドンデン返しを見せていた最中の、五月十一日、衆院法務委で志賀義雄氏が、「四十年一月十五日付で、佐々木護氏から東京地検あてに上申書が出ている。それによると、護氏の兄の環氏(広布産業社長)が、大阪の東洋殖産岡林社長と、パ社(前出英文誌)今西啓師社長、それに東棉豊田不動産部長、同青木課長の四人を告訴した事件を、早く調べてくれといっている。土地代金の手付金五千万円と、現金四千五百万円を詐取されたそうだが、ある官庁が舞台になり、某高官が関係しているというので、調べてもらいた

い」と、法務当局に質問したのである。

パクリ屋、国会で活躍

広布産業事件のカラクリ

佐々木環なる人物は、大映の手形を外国銀行で割引いてやるといって、大映経理部長からパクった、その筋では有名なパクリ屋で、このような人物の話を、志賀氏が国会に持出すのは、不思議なことなのであるが、こうしてハッパをかけられた法務省は、「上申書や告訴状が出ている事実はあるが、内容は控えたい」と答弁した。

これが、いわゆる「広布産業事件」なのであるが、佐々木告訴状によると、「茨城県東海村付近の土地約三十四万坪を、近い将来に防衛庁が、演習場として十三、四億円で買い上げるから、その前に七億五千万円で買い取らないか、と持ちかけられ、その手付金五千万円と、防衛庁井原岸高政務次官らへの、政治献金四千五百万円とを、岡林らに詐取された」というものである。この東西で起きた二つの事件は、いずれも東棉不動産部にからむ、広大な土地の問題で、両方共に岡林が登場しているので、同一事件である。

黒幕・政商たち p.078-079 全部日本電建の名儀となった

黒幕・政商たち p.078-079 「井原政務次官は、私の前で、田中角栄前蔵相(注。日本電建の前社長である)に電話をかけ土地買上げの予算措置まで頼んでくれたほどで、井原、田中議員らへの、政治献金も信じられた」
黒幕・政商たち p.078-079 「井原政務次官は、私の前で、田中角栄前蔵相(注。日本電建の前社長である)に電話をかけ土地買上げの予算措置まで頼んでくれたほどで、井原、田中議員らへの、政治献金も信じられた」

そしてまた、この佐々木環は、四十二年夏の、東京相互銀行からの、一億円詐取事件をおこし、さらに、朝日新聞の「板橋署六人の刑事」問題のタネとなった人物であることは、いうまでもないことであろう。一億円詐取は大映手形パクリ事件の、保釈金返済のため、迫られて起した事件であり、こうして常習犯罪者の犯罪は、金額の面からも次第にエスカレートしてゆくものなのである。

岡林の犯罪歴は、二十七年一月に商品詐欺で西宮署(起訴猶予)、二十九年一月に業務上横領で生田署(不起訴)、三十六年十一月に土地詐欺で兵庫署(起訴猶予)の三回。いずれも、法のスレスレを歩いているとみえて、起訴をまぬかれている。

この岡林が、二十六年九月に、神戸市兵庫区湊町の自宅に、自分の片腕としていたグレン隊大江某を社長に、自分は監査役となって設立したのが、神港建設である。これを三十八年三月に解散し(光明池の売買の税金を背負わせたためか=冒頭の話の実例)、同年八月、大阪市西区江戸堀北通に、東洋殖産を設立した。茨城県のケースは、この東洋殖産でやるつもりであったらしい。今度は、自分の銀行取引停止期間が満了していたためだろうか、自ら社長となり、専務には日本電建大阪支店用地係長だった村木典男を据え、監査役には内妻中村君子を配した。

愛媛出身の自民党井原岸高代議士と同郷で、秘書と称するほど同氏に可愛がられていたが、

これが、茨城県の土地の防衛庁買上げやら、政治献金やらに利用されるキッカケとなった。告訴人の佐々木にいわせると、「井原政務次官は、私の前で、田中角栄前蔵相(注。光明池地区転売と、東洋殖産村木専務に関係のある日本電建の前社長である)に電話をかけ土地買上げの予算措置まで頼んでくれたほどで、井原、田中議員らへの、政治献金も信じられた」というのに対し、井原代議士は、「トンでもない。三十八年十月ごろ、岡林に連れられて次官室へきたので、一分足らず会っただけ」と、全くアベコベで、真相はさだかではない。

だが、この岡林の逮捕歴と、光明池団地の宅地の所有権移転、茨城県の広布産業事件と、時間的に彼の行動を追ってみると、内容が明らかになってくる。二十六年神港建設創立、二十七年商品詐欺、二十九年業務上横領、三十六年一月光明池A地区買収(坪二百二十円程度)、同年二月東棉へ売却、同年三月同F地区買収、同年四月東棉へ売却、同年八月、A、E地区を日本電建へ売却(東棉嘱託)、同年十一月土地詐欺、同十二月B地区買収、三十七年一月B地区を日本電建へ売却、同年七月、B、C地区買収、いずれも直後に日本電建へ売却、同年八月F地区買収、同年九月日本電建へ売却。こうして、光明池地区三十八万坪は、三十七年九月八日現在で、全部日本電建の名儀となった。そして、その時期に公団本所から、大阪支所へ光明池団地の調査命令が出たのだから、田中角栄代議士と日本電建、公団という、三者の関係を想起させるに十分であろう。その間、東棉不動産部は、わずかに、A、E地区に介在したにすぎない。ま た、勝又用地課長の収賄は、この時期から三十八年春にかけてのことである。

黒幕・政商たち p.080-081 児玉誉士夫一派の幹部吉田の子分

黒幕・政商たち p.080-081 日本電建から東棉へ、すべてが売られた時期、岡林は神港建設を解散させた。〝蒸発〟させたのである。税法上の問題は、すべて「神港建設」にかぶせた。そして、「東洋殖産」を設立して、茨城県に取りかかった
黒幕・政商たち p.080-081 日本電建から東棉へ、すべてが売られた時期、岡林は神港建設を解散させた。〝蒸発〟させたのである。税法上の問題は、すべて「神港建設」にかぶせた。そして、「東洋殖産」を設立して、茨城県に取りかかった

田中角栄代議士と日本電建、公団という、三者の関係を想起させるに十分であろう。その間、東棉不動産部は、わずかに、A、E地区に介在したにすぎない。ま

た、勝又用地課長の収賄は、この時期から三十八年春にかけてのことである。

大映手形パクリ事件の主役は?

三十八年四月一日、この三十八万坪は日本電建から東棉へと、すべて売却された。その登記が同月二十六日、週日後の五月一日には、東棉から大橋富重の興亜建設へ売却されて、六日に登記された。眼を公団側の動きに転ずると、同八日に大阪支所支部長会議で、光明池開発を決め、買収価格の承認申請を、本所にすることになった。同十三日、本所理事会はこれを承認したが、十五日には東棉と興亜建設とは、五月一日の売買契約を解除して東棉に所有権をもどしたが、同じ日のうちに、再び売買契約を結ぶという不明朗極まりないことをしている。十五日の合意契約解除を、翌十六日に登記したのち、十五日の再契約は十七日に登記した。

というのは、十六日には、公団と興亜建設との間で、公団希望の三十八万坪を興亜が世話するという協定書が調印されて、十七日には三十一万坪の、売買契約が行なわれていたからである。そして、二十日に公団名登記、二十四日には九割に当る十一億五千二百万円が支払われるという、スピード振りである。

三十八年四月一日、日本電建から東棉へ、すべてが売られた時期、岡林は神港建設を解散させてしまった。〝蒸発〟させたのである。多分、税法上のいろいろの問題は、すべてこの「神

港建設」にかぶせたのであろう。そして、八月に「東洋殖産」を設立して、茨城県に取りかかったようだ。

そのころ、今西(前出英文誌社長)の紹介で、佐々木と知り合い、十月には防衛庁政務次官室へ伴い、二十五日に契約、十一月五日登記という段取りであったが、公団と違って、相手も海千山千のしたたか者、筋書き通りに運ばなかったようだ。三十年二月、地元民から四億八千万円で買いあげ、七億五千万円で佐々木に売りつけようとしたのが失敗、それどころか詐欺で告訴され、志賀代議士に国会で問題化されるという、すべて裏目に出てしまった。

この三十四万坪も、しかるべき政界要路の人物を動かして、公団に売りつけようとしたか、公団の情報を取っていたかだったのだろうが、そうそう柳の下にドジョウがおらず、佐々木をえらんだのだろう。志賀質問でビックリしたのが、岡林本人はもちろん、東棉側である。

早速、この話を内緒にせねば、光明池の痛いハラも探られては叶わんというので岡林、佐々木会談が開かれ、告訴取下げという条件で、話が進められた。その時、佐々木の大映手形パクリ事件のさいに、その保釈金二百万円を立替えたということで、佐々木の代理人と称する、白垣某が登場してきた。児玉誉士夫一派の幹部吉田裕彦氏の子分である。

そればかりではない。港会の親分波木量次郎氏も、この広布産業事件を書きたてるオ色気専門の日刊観光との仲介にと乗り出してきた。サア事は大変になってきた。こういう事態になっ

てくれば、金を出して「ヨロシク」と、頭を下げて廻る役廻りは、〝伝統ある綜合商社〟東洋棉花以外の誰でもない。

黒幕・政商たち p.082-083 必ず顔を見せる右翼の先生方

黒幕・政商たち p.082-083 赤坂の料亭「金竜」で、児玉誉士夫、吉田裕彦が立ち会い、一派の永光伝、大橋富重らが、居る中で、東棉代理人岡林から、今西、柴山へ一千万円が手渡され
黒幕・政商たち p.082-083 赤坂の料亭「金竜」で、児玉誉士夫、吉田裕彦が立ち会い、一派の永光伝、大橋富重らが、居る中で、東棉代理人岡林から、今西、柴山へ一千万円が手渡され

早速、この話を内緒にせねば、光明池の痛いハラも探られては叶わんというので岡林、佐々木会談が開かれ、告訴取下げという条件で、話が進められた。その時、佐々木の大映手形パクリ事件のさいに、その保釈金二百万円を立替えたということで、佐々木の代理人と称する、白垣某が登場してきた。児玉誉士夫一派の幹部吉田裕彦氏の子分である。

そればかりではない。港会の親分波木量次郎氏も、この広布産業事件を書きたてるオ色気専門の日刊観光との仲介にと乗り出してきた。サア事は大変になってきた。こういう事態になっ

てくれば、金を出して「ヨロシク」と、頭を下げて廻る役廻りは、〝伝統ある綜合商社〟東洋棉花以外の誰でもない。

一方、光明池で、用地課長に贈賄して〝事務的処理〟の促進を図った柴山は、日本電建—東棉—興亜—東棉—興亜—公団と、コトがうまく運んだにもかかわらず、彼への「手数料」が来なかったので社長の今西と共に「岡林から一千万円をおどし取った」ことにされた。本人はもちろん、〝手数料を正規に請求〟したにすぎないという。

この時も、赤坂の料亭「金竜」で、児玉誉士夫、吉田裕彦が立ち会い、一派の永光伝(大元産業社長、児玉の片腕吉田の直系)、大橋富重らが、キラ星の如く居流れる中で、東棉代理人岡林から、今西、柴山へ一千万円が手渡され、それも東京勢四百万、大阪勢六百万と分割されて、大阪勢は、今西、柴山は各二百万、他の一人が二百万と分配されたそうだ。

さて、こうして眺めてみると、一体、この事件で誰が稼いだのか、というバランス・シートを作ってみたいものだ。損をしたのは間違いなく東棉。イヤ、〝損な役廻り〟というべきか。馴れない不動産部門を作って、岡林の素性も調べず、ハンコ一切を預けて、嘱託の肩書を認めたのだから、豊田の責任が追及されるのも当然。さらに府警の調べから、実弟が金融業をしていることも判り、地価吊りあげの共犯から、私腹を肥やした疑いまでかけられている。だから、戦前からの東棉マンたちは、金の得失にかえられない、社名のドロを嘆いている。

会社のモメ事には、必らず顔を見せる右翼の先生方は別としても、左翼の志賀先生まで登場するのだから、この事件のスケールが判ろうというもの。

関係者の誰れ彼れにたずねても、バランス・シートの人名表は出してくれないが、最後に、当時、公団宅地担当理事であって、光明池に反対した滝野好暁氏をたずねた。公団の総務部長、監事、理事と進んだ、消防庁出身の生え抜きで、現在は社保連常務理事にある人。氏が公団を去ったあと、理事には河野人事で、ラジオ関東から弘田竜之進が入った。

「私もまだこんな団体の役員でいるから、そのことは話したくない。しかしですね、河野一郎という人は、大キライですナ、私を呼びつけて、大勢の人がいる前で、バカヤロー呼ばわりで、クビにするゾと怒鳴りつけたですよ。かりにも、住宅公団の理事をですよ。そんな態度をとるというのは、人間として認めていないことです。何で呼びつけられ、何でクビにするぞといわれたか、それは、まだ、話す機会ではありませんな」

滝野氏には、数年前の〝暗い想い出〟がまだよみがえるのだろうか、暗たんとした表情がよぎった。〝力は正義〟なのだろうか。検察が解明できないというのであれば、与論だけしか期待できないのだろうか!

黒幕・政商たち p.084-085 福田蔵相の名を使い不渡り手形

黒幕・政商たち p.084-085 昭和四十年。八月十一日付毎日新聞朝刊=福田蔵相の名を使い、不渡り手形を出したゆうれい会社事件を国会で 追及
黒幕・政商たち p.084-085 昭和四十年。八月十一日付毎日新聞朝刊=福田蔵相の名を使い、不渡り手形を出したゆうれい会社事件を国会で 追及

第5章 怪談「流通機構社」のその後

昭和四十年。八月十一日付毎日新聞朝刊=福田蔵相の名を使い、不渡り手形を出したゆうれい会社事件を国会で追及、十日の衆院商工委員会で、民社党の麻生委員は、全日本流通機構会社にまつわる疑惑などについて、大蔵、通産両省、中商企業庁当局の責任を追及した。

黒幕・政商たち p.086-087 福田一元通産相の息子の福田弘

黒幕・政商たち p.086-087 会長福田赳夫、顧問、湊日興証券社長、星野東京ヒルトン副社長、飯塚国学院大学教授、相談役、神谷トヨタ自動車販売社長、社長は、福田一元通産相の息子。ところが、その手形は、全部不渡り。
黒幕・政商たち p.086-087 会長福田赳夫、顧問、湊日興証券社長、星野東京ヒルトン副社長、飯塚国学院大学教授、相談役、神谷トヨタ自動車販売社長。社長は、福田一元通産相の息子。ところが、その手形は、全部不渡り。

会長が大蔵大臣の会社

詐欺を働いても安全?

衆議院議員麻生良方。民社党所属で東京一区選出の知性派である。まず、この人の話から紹介しよう。この麻生議員の言葉が信じられないことはあるまい。

「私は、全日本流通機構株式会社の件を、衆院商工委で質問するに当って、関係者である福田赳夫蔵相や福田一元通産相に質問の連絡をしました。すると、御両人とも、本人じきじきに、幾度か私のもとに連絡をされてきました。これでも、事件の内容というものが推察されるではありませんか。そして福田一議員などは、『イヤ、いろいろとユスられて困っているんだ』と、述懐されていたほどです……」

つまり、麻生委員の質問は、同社のパンフレットを印刷した「さとう印刷」という会社は、そのパンフレットに、「会長福田赳夫、顧問、湊守篤(日興証券KK社長)、星野直樹(東京ヒルトンホテル副社長)、飯塚重威(国学院大学教授)、相談役、神谷正太郎(トヨタ自動車販売KK社長)」と、現役大蔵大臣をはじめとして、知名人の名が記入されており、社長は、福

田一元通産相の息子ときいたので、すっかり信用して、手形払いの条件で仕事を引受けた。ところが、その代金四十四万円の手形は、全部不渡り。こんなことがあってよいものか、蔵相は承知しているのか、といったものである。

これに対し、福田蔵相は出席せず、大蔵省の村上官房長が代って答弁に立ち、「結論からいうと、承諾を与えたことはない。三十九年春知人が青年を連れてきて『最近の流通機構の近代化について、話を聞かせてほしい』といい、大臣は『準備なり資金がととのわないと……』と説明した。ところが、四十年の一月に会社ができ、名前が使われているというので、誤解を招くといけないと知人を呼び、大臣が語気強くパンフレットの回収と名前の削除を命じた。電光石火のようにものを買って姿をくらましたため、誠に申しわけない。大臣に就任してから、会社の役員などは全部やめている」と、弁明した。(毎日紙)

さて、これで、大体前後の事情はのみこんで頂けたことであろう。つまり、福田一元通産相の息子の福田弘なる人物が、代表取締役になって、本人の許可もなく、会長に福田赳夫の名前を使い、さらに、顧問、相談役などに一流財界人の名前を並べて、取込み詐欺同様のマネをして、会社は〝蒸発〟し、社長はノウノウとしている、といった事件なのであるが、不思議なことには、これが、いわゆる事件化しないのである。つまり、刑事事件として、十分な要件を揃えておりながら、何故か〝不発〟なのである。

黒幕・政商たち p.088-089 福田一はユスられて困っている

黒幕・政商たち p.088-089 この金を渡す時、福田一議員はクドイほど「これは不渡り手形の買戻し代金ではない。あくまで、親として息子の不始末への寸志です」と、念を押した
黒幕・政商たち p.088-089 この金を渡す時、福田一議員はクドイほど「これは不渡り手形の買戻し代金ではない。あくまで、親として息子の不始末への寸志です」と、念を押した

そこで、冒頭の、麻生議員のいう「福田一さんは、ユスられて困っていると、述懐していた」という言葉を、思い起して頂きたい。何故、福田一議員がユスられねばならないのだろうか。

なお、この麻生質問のあとで、福田一議員から、麻生議員へ申し入れがあったのだ。つまり、息子の不行跡によって、迷惑をかけた相手に対して、親としての誠意を見せたいというのである。そして若干の金が、福田一議員からさとう印刷社長に対して贈られた。その金額は、関係者が明らかにしないので不明だが、この金を渡す時、福田一議員はクドイほど「これは不渡り手形の買戻し代金ではないですよ。あくまで、親として息子の不始末への寸志ですよ」と、麻生議員に念を押したという。

この辺のところが、私がこれから語ろうとする〝怪談〟の、ナゾ解きのヒントなのである。

さて、毎日新聞の記事を読んで、これは何かがありそうだと感じた私は、これを切り抜いてスクラップした。それから数カ月後に、Yというイニシアルの男が元流通機構の社員で、事情に詳しいという話を聞いたのであった。

あるミシン会社の社員になっているという、そのYを探すため、まず各社の人事部を調べたが、本社員に該当者はいない。次は、各支店ごとに持っている、セールスマンの名簿だ。これを丹念に調べていって、ついにYの居所をつきとめたのである。そして、Yは私の会見申込に

応じて、都心の喫茶店に現われた。

おそまつな〝ごあいさつ〟

問題の全日本流通機構株式会社は、登記とう本によると、代表取締役に福田弘(福井県大野市亀山二二八)=注。福田一議員の選挙区=金沢政男(大阪市住吉区中加賀町四ノ六一)の両人がなっており、福田蔵相の名前はない。資本金二千五百万円で、四十年一月十二日設立。

「全国唯一の全国組織をもつ、共同仕入供給の代行機構です」と謳う、会社概況によると、営業種目は多様である。乾物嗜好品、乳製品、調味料、菓子、缶詰等の食料品。外衣、肌着、寝具等の衣料。化粧品、日用雑貨、薬品、酒類、時計、家具等の消費財。前記商品の販売業務と輸出、輸入及び製造と加工。

陳列用ケース、レジスター、計量器、車両等の営業用什器、備品類、包装品等の営業用消耗品。運送及び倉庫業務。旅行あっせん、共同店舗の経営、広告宣伝の請負及び代理業務。生命保険及び損害保険の代理業——。これだけ、列記されているのであるが、この営業種目と、前記キャッチ・フレーズとの間に、何かチグハグな印象が生れないだろうか。

これが〝会長〟福田赳夫以下の連名による、第一頁の「ごあいさつ」になると、さらに意味が判らなくなる。その「ごあいさつ」を紹介する。

黒幕・政商たち p.090-091 この会社に注目したグループ

黒幕・政商たち p.090-091 私は、これを名付けて、「潜入屋」と呼ぶ。新らしい知能暴力団であり、産業スパイと総会屋との職能を取り入れた近代的会社ゴロだ。
黒幕・政商たち p.090-091 私は、これを名付けて、「潜入屋」と呼ぶ。新らしい知能暴力団であり、産業スパイと総会屋との職能を取り入れた近代的会社ゴロだ。

「当機構会社は、全国地域共同仕入組合小売商の合同参加を得、全流通機構のメカニズムに対して価格問題がもつ基本的な重要性即ち流通機構の整備をするという問題の解決をめぐって小売商団体と企業各社の協賛を得生活必需品メーカーのつくりだす大量商品を近代的機構によってギリギリの低価格と最高度の回転で大量販売する能力を最大限に発揮することを目的。

またこの目的は協賛会社の販売機構を支える一助ともなりメーカーから最終小売段階に至る流通機構経路の新しい担い手ともなり、全国小売商の共同仕入組合傘下に対する供給ルートとして新しい座標を確定すべく活動を進めるものであります。

当機構会社の新しい市場性のご検討を戴き、貴社製品の供給ルート開発をお願いする次第です」(原文のまま)

この、意味も正体も不明の〝怪文書〟のごあいさつを読んで、品物を売った企業があったら、その売った方が〝悪い〟といわれてもやむを得まい。そして、この〝怪文書〟に、眼光紙背に徹したのかどうか、この会社に注目した、あるグループがあったようだ。私は、これを名付けて、「潜入屋」と呼ぶ。

新らしい知能暴力団であり、産業スパイと総会屋との職能を取り入れた近代的会社ゴロだ。

ということは、この会社の元社員であった、Yという男との、奇妙なデートから、おぼろ気ながら、明らかになってきたのである。

河野一郎をめぐる閨閥
元日本毛織社長
川西清司 喜美子 呉羽化学取締役 伊藤広二
元三井合名常務
福井菊三郎 福井素史 絹
千代
東洋パルプ会長
伊藤忠兵衛 早川電機常務 松村満雄 美代
呉羽紡社長 伊藤恭一 周子
代議士 河野洋平 武子
元代議士 田川平三郎 照子 元国務相 河野一郎
元神奈川県会議長 河野治平 参議院議員 河野謙三 明子
元農相 重政誠之 小泉忠之

黒幕・政商たち p.091 河野一郎をめぐる閨閥
黒幕・政商たち p.091 河野一郎をめぐる閨閥

黒幕・政商たち p.092-093 親分は、何ていう人だい?

黒幕・政商たち p.092-093 「第一、もうじき選挙でしょう? 福田赴夫を蹴落すため、田中角栄側から高く買いにきているンですよ」Yの第一声であった。
黒幕・政商たち p.092-093 「第一、もうじき選挙でしょう? 福田赴夫を蹴落すため、田中角栄側から高く買いにきているンですよ」Yの第一声であった。

「潜入屋」という新商売

新聞記者ともツー・カー

「こんな喫茶店なんかで、私からネタを取ろうなんて、ダメですよ。私だってモトをかけているんだから……。第一、もうじき選挙でしょう? 福田赴夫を蹴落すため、田中角栄側から高く買いにきているンですよ」

Yの第一声であった。情報源との接触には、場馴れたハズの私も、流石に先手を取られた感じであった。彼の話によると、流通機構会社のネタで、もう小一年ほどは、遊んで喰っているという。

「何しろ、福田ピン(一)さんの選挙区だけでも、数カ月も滯在して調べたンだから、モトもテマもかかっているンだ。しばらくは遊ばせてもらわなけりゃ……」

だが、彼のレインコートのエリは真ッ黒に汚れて、それほどラクなくらしとは思えなかった。年のころは、三十四位。

「キミに命令している親分は、何ていう人だい?」

「エッ!」

不意打ちの質問に、彼はガク然として十分な反応を見せた。

「そんなこと、いえませんよ」

「じゃ、判るまできかないよ」

ようやく、イニシアチブを取りもどした私は、第一回の会見を打ち切った。数週後の第二回目。彼は少年院友だちのCという男に、私の名前を聞いてきたといって、(私の名は、安藤組事件から彼らアウト・ローの世界では、いっぱし通用するらしい)雑談の間に、ポロポロと内容をもらしはじめた。以下は、彼の話を総合的にまとめてみたものであるが、もちろん、裏付け取材はまだである。

流通機構という会社がスタートしたとき、彼は組織から命ぜられて、その社員としてモグリこまされた。いわゆる投入牒者である。そして、会社の実態を目の当りにみてきたのである。もちろん、報告をして、その分の報酬が彼の手に入った。会社の末期には、事務所荒らしを装って、ロッカーを破り、重要な書類を盗んだり、コピーしたりした。

重要なものでは、会社設立の時の、政財界人たちの、賛同の署名簿があるし、麻生議員は軽くイナされてしまったが、福田蔵相は『承諾した事実がない』というのにもかかわらず、同氏 の会長就任承諾書まである。署名捺印がしてある。

黒幕・政商たち p.094-095 福田蔵相の会長就任承諾書

黒幕・政商たち p.094-095 もう一人の代表取締役、金沢政男という人物は、スター商会という、手形のサルべージ屋(パクられた手形をサルべージしてくる商売)の社長である。
黒幕・政商たち p.094-095 もう一人の代表取締役、金沢政男という人物は、スター商会という、手形のサルべージ屋(パクられた手形をサルべージしてくる商売)の社長である。

重要なものでは、会社設立の時の、政財界人たちの、賛同の署名簿があるし、麻生議員は軽くイナされてしまったが、福田蔵相は『承諾した事実がない』というのにもかかわらず、同氏

の会長就任承諾書まである。署名捺印がしてある。

今は、不渡り手形を集めて、これを買取らせている。値段は、額面以上だと思うが、ハッキリ判らない。彼らは、命ぜられたテーマの任務により、その出来高払いである。

ミシン会社に勤めていたのも、月掛け五百円という、ミシンの販売予約制度がその後の物価上昇やら、モデル・チェンジで、現実にミシンを受けとる時には、何千円もまとめて払わねばならないという、詐欺的な販売制度をとっているのでその実態を調べるため、モグリこんでいたのだ。そして、もう任務が終ったのでそこは辞めて、今はある土地会社に入っている。このような問題会社の選定は、組織がやる。彼らは命令で動くだけにすぎない。

その問題会社が、どの程度、新聞、雑誌や、捜査当局にマークされているかを調べるためには、まず、ある程度の調査結果にもとづいて新聞社の社会部あてに、投書をする。すると、必らず、警視庁の記者が窓口として現われるので、その記者と接触して、情報提供を装って、実際には、捜査当局の動きをつかむ。その動きを見ながら、金をユスる。もちろん合法的にである。

そして、いよいよ、事件として、問題が表面化しそうだと判ると、相手方も、どうせ事件化するのならと、ケツをまくって金を出さなくなるので、その最後のチャンスの判断をして、その時にできるだけ多額の金を取るようにする。

全日本流通機構のケースだって、福田一代議士にとっては、政治生命にかかわるほどの材料がある。しかし、六月ごろで、打切りにしなければならない。客観状勢がそうなってきているので、近く手に入る巨額の不渡り手形で、終わりにする予定だ——。

Yは、私の取材結果を知りたくて、幾度か会い、雑談しているうちに、ほぼこのような話をもらしたのであった。彼の話のうち、不渡り手形を買い取らせている(相手を明示しなかったが、話の前後から、それは、福田一議員であった)という件は、福田一議員が麻生議員にいった、「ユスられて困っている。この金は不渡り手形の買い戻し代金ではなく、見舞金だ」というのと、符節するではないか。

官房長官がアキレタ早わざ

流通機構社の、パンフレットには「代表取締役福田弘」と、一名しか名前が出ていないが、登記とう本にある、もう一人の代表取締役、金沢政男という人物は、大阪府警の、捜査四課、捜査二課の調べによると、スター商会という、手形のサルべージ屋(パクられた手形をサルべージしてくる商売)の社長である。つまり、手形ブローカーである。サルべージ屋とはいっても、これはパクリ屋と表裏一体で、パクリ屋がパクった手形を、サルべージ屋が回収してきて、その料金を折半するのだから、一ツ穴のムジナである。

黒幕・政商たち p.096-097 日綿のウラ書き三和銀行で割引

黒幕・政商たち p.096-097 各県商工会議所などの、小売り側からマキ上げた手形は、「割り引きのため」金沢代表取締役から、大阪の暴力団「柳川組」組長柳川次郎に渡った
黒幕・政商たち p.096-097 各県商工会議所などの、小売り側からマキ上げた手形は、「割り引きのため」金沢代表取締役から、大阪の暴力団「柳川組」組長柳川次郎に渡った

流通機構社は三十九年ごろから機構づくりをはじめた。村上官房長の国会答弁にある、「三十九年春、知人が青年を福田蔵相のもとにつれてきた」という、その青年が、福田弘その人である。すると〝知人〟というのが誰であるか、容易に想像されるのは、福田一議員であるが、関係者は口をカンして〝知人〟の名を明かそうとはしない。こうして、三十九年の秋には「全日本流通機構」なる構想が煮つまってきて、全国の商工会議所や業者への働らきかけがはじまった。こうした仕事が、誰の紹介で誰の口利きで行なわれたのであろうか。

村上官房長答弁にいう「電光石火のように物を買った」とある通り、帝人をはじめとして、繊維会社や文具メーカーから品物を買いこみ、数億円にのぼる不渡り手形をつかませ、一方、それらの品物を流した。各県商工会議所などの、小売り側からマキ上げた手形は、「割り引きのため」金沢代表取締役から、大阪の暴力団「柳川組」組長柳川次郎に渡ったのであるが、これは、〝結果的に〟パクられてしまった、ことになった。被害を受けたのは、福田一議員の選挙区、福井をはじめとする、岐阜、熊本、高知などの各県の商工会議所である。この辺に、Yのいう、「福田さんの選挙区に数カ月も滞在して調べた」事実があるのだろう。

この、手形サギ事件も、Yの断片的な話からまとめてみたもので、いずれも各関係者が、被害を伏せているので、果して、総計で、何億という金になるのか、全く不明である。明らかになったのは、さとう印刷の四十四万円だけという、それこそ、全くの〝怪談〟である。そして

また、各県商工会議所を経た、本物の手形の金は、どこに消えてしまったのであろうか。金沢、柳川両名にただすべく、大阪に飛んでみた私が知り得たのは、両名とも別件で拘禁されていて、取材ができないということだった。

だが、この手形サギ事件ばかりではなく、もう一つ、不可解な土地の不正払下げ事件なるものがある。

六甲山の国定公園に隣接する国有地の地主たちに、同社は「福田蔵相の政治力で、土地を高く売ってやる」ともちかけ地主たちに運動資金約三千万円を出させたといわれる。そして、国定公園の国有地の一部を抱き合わせ、これを日綿実業に払下げるという話をデッチあげた。流通機構の手形に、そんな関係で日綿のウラ書きをさせ、これを三和銀行で割引いて、四億円もの現金が動いたが、これまた、全くの詐術で、話は吹き飛んでしまった。日綿実業で取材してみると、これまた、「会社を調べてみましたが、流通機構なる会社と取引きした事実はありません」と、否定の返事である。

では、土地買収の資金として、三和銀行から出ていった、四億円の金は一体、どこに消えてしまったのだろうか。

福田一議員の側近筋では、「弘さんというのは、全くのお坊ッちゃんで、そんな悪事のできる人ではない。第一、芝で喫茶店を経営しているのだから、喰うに困るわけじゃなし、誰か、

悪い朝鮮人にカツがれたのではないだろうか」と、はなはだ同情的であるが、福田弘、金沢政男の両代表取締役の下には、I大蔵省係長、I通産省といった、元役人二人もいるのだから、そもそもの、この会社の構想は、このあたりからスタートしていると見られよう。