なんということのない座談の一つであったけれども、私には刑事部長が自身できたという点がピンときた。放送依頼などというのは、やはり捜査主任の仕事である。警察官としての判断によ
れば、主任クラスが行ったのでは、放送局が軽くみるのではないか、やはり部長が頼みに行くべきだ、とみたのであろうが、それは、ゼヒ放送してほしいという客観情勢、つまり大事件だということである。
『その書類があるかい?』
私も国会で彼女には顔なじみ、どころか、二人を最初に紹介したのが私だから、奥様ではあるが、心やすだてにザックバラン調だ。
『エエ、私が放送原稿を書いて、アナウンサーに渡したから、まだキットあるでしょ』
『じゃ、今すぐ探してくれよ』
『フフフ、モノになったら御挨拶をしなきゃダメよ』
『ウン。今日のお茶はボクがオゴるよ』
『それでお終いじゃなくッてよ』
二人はすぐ向いのKRへとって返した。書類はすぐみつかった。刑事部長の職印がおしてあり、面会した鈴木報道部長に確かめてみると、依頼にきたのは間違いなく、仙洞田部長その人である。
さて、依頼の文面は「一月十七日午後七時ごろ、国電日暮里駅常盤線下りホーム、または電車内におちていた古ハガキ一枚在中の白角封筒を拾った方は、至急もよりの交番に届けてほしい。これは重要犯罪捜査上、ぜひ必要なものです」とある。
KRでは、一月二十日に頼まれ、翌二十一日午後一時二十五分の、「生活新聞」の時間に放送している。
——国警都本部のやっている重要犯罪?
私はその原文をもらいうけて、KRを出ながら考えてみた。当時、都本部では、マンホール殺人事件(のちにカービン銃ギャング大津の犯行と判った)と、青梅線の列車妨害事件の二つだけしかなかった。
——どちらも、刑事部長が頼みにくるほどの事件じゃないし、第一、ここ数日動きがないのだし、二十日の依頼だから、動いていればもう表面化するはずだ。
——それよりも、都本部の事件といえば、いわずと知れた三橋事件! 所管は警備部だけれども、カモフラージュしたつもりで、刑事部が頼みにきたのだろう!
これが記者のカンである。私は三橋事件だと断定した。すぐ車をとばしてNHKに行ってみる
と、仙洞田部長は、ここにもきているのだが、何故か断られている。これで当局が熱心な手を打っていることが判った。