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迎えにきたジープ p.202-203 日本人を他国の下働きにする

迎えにきたジープ p.202-203 Japanese men are used as tools in the US-Soviet spy battle! There is nothing unjust than such an insult to human being. It was these two countries that judged the war criminals against the defeated Japan in the name of human justice.
迎えにきたジープ p.202-203 Japanese men are used as tools in the US-Soviet spy battle! There is nothing unjust than such an insult to human being. It was these two countries that judged the war criminals against the defeated Japan in the name of human justice.

だが、三橋氏は違う。彼は実直なサラリーマンであり、従順な兵隊であったのである。技術者としての彼の人生観が、事件そのものを割り切って考えられたから、無事に生きていられる

のであって、割り切れなかった佐々木克己氏は死をえらんだではないか。

二十八年二月に出版された「アメリカの秘密機関」という、占領下の米国秘密機関の悪事と植民地日本の吉田政府の卑屈さを、相当詳細なデータで書いた、バクロ雑誌「真相」張りの本がある。出版社はいわゆる進歩的なところで、著者は山田泰二郎なる人である。その本のはしがきにこう書いてある。

金のためにスパイするような人間は、人間のうちで、一番節操のない卑劣な人間です。ところが脅迫や威圧で、スパイをするように仕向けるような秘密機関があるとしたら、それはまったく、天人共に許さない極悪非道なことといわねばなりません。……

日本人の運命を、他国の下働きにするばかりか、スパイ化するような動きに対しては、私たちは日本人としての誇りを守るために、勇気を出して、敢然と闘わなくてはならないと思います。

全く同感である。読み進んでいったところ、私の取材した記事が引用されている。

二十七年十二月三十日付読売紙は、「国際スパイ戦に消された十四名」という大きい見出しで、三橋のレポ佐々木克己元大佐の怪死究明に、同期生が運動を起したと書いている。これは勇気のある例である。(中略)もっとも読売紙はこれらの事件を、同紙の特ダネ記事〝幻兵団〟(ソ連で養成されたスパイ団)に結びつけているが、この幻兵団がキャノン機関の一つの虚構であることは、ほとんど

間違いないとされている。

これは一体どんなことなのだろうか。佐々木元大佐を殺させたのはキャノン機関であることは明らかだ。だが、同氏を最初に〝脅迫や威圧でスパイ化〟させたのはアメリカだろうか。ソ連だろうか。そして「消された十四名」の記事に現れた人たちも、最初に一撃をくれた下手人がソ連のNK(エヌカー)で、止めを刺したのはアメリカのNYKビルだといってはいけないだろうか。

米ソのスパイ泥合戦に、日本人が道具として使われている! これほど不当な人間に対する侮辱があるだろうか。敗戦日本に対して、人類の名において、戦争犯罪人を裁いたのは、この両国ではなかっただろうか。

この驚くべき事実は、ここに、はしなくもその泥合戦の舞台、鹿地・三橋事件でバクロされてしまったのである。

しかもこの問題を辿れば、NYKビルにファイルされた七万人の引揚者の将来に訪れるかも知れない運命を、既に現実に迎えて非業の最後を遂げた十数柱の墓標がある。

私はここに一国民の憤りをこめて、静かなる冥福を祈りつつ、この実相を紹介したい。

昭和二十二年九月の、或る夜の出来ごとだった。

その夜の宿直だった復員庶務課のN事務官は、MRRC(舞鶴引揚援護局)という腕章のまま

毛布を被って寝ていたが、『大変です、来て下さい』という声に揺り起された。

赤い広場―霞ヶ関 p050-051 ソ連代表部の指示で書かれたアカハタ記事。

赤い広場―霞ヶ関 p.50-51 ソ連代表部の指示で書かれたアカハタ記事。
赤い広場ー霞ヶ関 p.050-051 Akahata’s article is written under the direction of the Soviet delegation.

自殺した日暮信則は、この課の課長補佐で、しかも当時内閣調査室の情報部海外

第一班(対ソ情報)の班長を兼任していたのである。高橋は日暮の死によって一位上位にのぼって ソ同盟関係の諜報活動をやっている。

大隅道春は旧海軍の特務機関にあたる海上幕僚監部調査課勤務の三等海佐(海軍少佐)。

その他SP(ソヴエト・プレス)通信社の倉橋敏夫社長、キャノン機関の韓道峰(韓国人)、台湾引揚者の中島辰次郎、白系無国籍人のチェレムシャンスキーなどの各氏の名を、もつたいらしく並ベている。二人の民間人、四人の公務員、最後につけたりのような民間人や外国人。そしてこの記事の結びには、

この張本人はアメリカ諜報機関と警視庁であり、警視庁では警備第二部公安第三課長渡部正郎警視と、公安第一課長山本鎮彥警視正(前公安第三課長)である。

とある。

多くの紙数を費して「アカハタ」の記事を転載したが、このそれぞれラストヴォロフ事件の一月半後、その二ヶ月後、さらに三ヶ月後と間をおかれて掲載されたこの三つの記事は、並べて読んでみると、ラストヴォロフ事件についての、一貫した意図と目的とをもって書かれた記事であることが明らかである。

これは「アカハタ」や「真相」が幻兵団事件を徹底的にデマだと主張し、「アメリカの秘密

機関」の著者山田泰二郎氏が、一方的に米諜報機関だけを曝露したのと同じように、ラストヴォロフ事件で明らかにされたソ連スパイ組織の恐怖を、真向から否定して宣伝し、その憎悪を警察当局、ラ事件の捜査当局幹部に集中させようと意図しているのである。

だがそれよりも重大なのは、「アカハタ」の読者である、シンパや末端党員たちに〝心の準備〟をさせようとしていることである。

〝心の準備〟とは何か。ラストヴォロフ事件の捜査の進展と同時に、ソ連スパイ網が如何に国民各層の間に、巧妙に浸透していたかということが、いわゆる〝ブル新〟によって記事になったとき、それは〝ブル新のデマ〟と主張するための伏線である。

この三回の記事には、捜査当局が極秘にしている「山本調書」の内容の一部が明らかにされている。しかも、この三回の記事の時間的間隔は、同時に捜査の時間的経過におおむね付合して、しかも一手早いのである。「山本調書」の内容が、部内からアカハタに洩れるはずがない とすれば、この三回の記事はラストヴォロフ・スパイ網の内容を知っている、元ソ連代表部からの指示によって書かれたものだと判断されるのである。

 二 スパイは殺される! 二十九年八月二十八日午後、取調中の日暮氏が東京地検の窓から飛びおりて死んだ。三橋事件の佐々木元大佐といい、今度といい、ソ連のスメルシ(スパイに

死を!)機関の名の通りであり、「スパイは殺される」という不文律の厳しさを想って暗然とせざるを得なかった。