日別アーカイブ: 2019年8月10日

p63上 わが名は「悪徳記者」 花田を通じて安藤に会える

p63上 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 すると、花田を通じて安藤に会えるということだった。安藤に会う。彼を自首へと説得するのだ。逃走者の心理は、ほぼ分る。何しろ、私は公安記者のオーソリティだったからだ。
p63上 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 すると、花田を通じて安藤に会えるということだった。安藤に会う。彼を自首へと説得するのだ。逃走者の心理は、ほぼ分る。何しろ、私は公安記者のオーソリティだったからだ。

『信ずべからざるものを信ずるなンて……』と。実際このような言葉を聞いた。

雄壮なる構想を描いて

だが、私にも、決断するだけの根拠があった。まず第一に、絶対に一点の私心さえない純粋な新聞記者としての取材であったことである。これこそ、俯仰天地に恥じない私の気持である。だからこそ、二十五日の拘禁生活も、よく眠り、よく食い、調べ室では与太話で心の底から笑って、かえって、肥って帰ったほどである。

私の計画の根拠は、花田の出現であった。彼がフクに連れられて「奈良」に現われたことは、当然、連絡であった。フクは王の家の時にもいたのだから、日共用語でいえば、テク(防衛)とレポ(連絡)である。

花田の出現を、逃走費用を渡すためとみたのである。(事実、あとで聞けば一万五千円を届けてきた)逮捕状の出ていない花田は、副社長だという。日共の九幹部潜行でいえば、合法面に浮かんでいる臨時中央指導部であろう。安藤が徳球である。

すると、花田を通じて安藤に会えるということだった。安藤に会う。彼を自首へと説得するのだ。逃走者の心理は、ほぼ分る。何しろ、日共はじめスパイなどと、私は公安記者のオーソリティだったからだ。 安藤を説得できれば、安藤の命令で他の四人は簡単である。そうすれば、私の手の中に横井事件の犯人五人ともが入ってくる。私の手でいずれも警視庁へ引渡す。事件は解決である。

p63下 わが名は「悪徳記者」 五日間連続特ダネの報道で

p63下 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 こうして、五日間にわたり、最後の安藤逮捕まで、連日の朝刊で犯人逮捕を抜き続けたら、これは一体どういうことになるだろう。横井事件は一挙に解決し、しかも読売の圧勝である。
p63下 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 こうして、五日間にわたり、最後の安藤逮捕まで、連日の朝刊で犯人逮捕を抜き続けたら、これは一体どういうことになるだろう。横井事件は一挙に解決し、しかも読売の圧勝である。

本部専従員八十名、全国十五、六万人の警官を動員し、下山事件以来の大捜査陣を敷いたといわれる横井事件も、一新聞記者の私の手によって一挙に解決する。

五人の犯人を手中に納めたら、すぐ各人に記者が一名宛ついて監視する。まず第一日に一人を出す。これが読売の特ダネだ。特捜本部では感謝感激して、この犯人を逮捕するだろう、翌日、また一人逮捕させる。これもまた読売の特ダネだ。

こうして、五日間にわたり、最後の安藤逮捕まで、連日の朝刊で犯人逮捕を抜き続けたら、これは一体どういうことになるだろう。横井事件は一挙に解決し、しかも、読売の圧勝である。

私はそれこそ〝日本一の社会部記者〟である。そしてまた、警視総監賞をうける最高の捜査協力者である。本年度の菊池寛賞もまた私個人に与えられるかも知れない。各社の横井事件担当記者は、いずれも進退伺いを出さざるを得ないであろう。

この五日間連続特ダネの報道で、読売の声価はつとに高まり、「事件の読売」「社会部の読売」の評価が、全国四百万読者に湧き起るであろう。会社の名誉でもある。〝百年記者を養うのは、この一日のため〟である。

二人目の犯人を出した時、警視庁は怪しいとカンぐるかも知れない。そして、残りを一度に欲しいと、社会部長か編集局長に交渉してくるだろう。刑事部長と捜査二課長の懇請を入れて、三日目に全員を逮捕させてもいいだろう。

私の構想ほ、とてつもない大きさでひろがっていった。 この計画を或は他の記者は、空想として笑殺するかも知れない。