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正力松太郎の死の後にくるもの p.056-057 気前良く何枚も女どもに呉れてやる

正力松太郎の死の後にくるもの p.056-057 私は唇を噛んで、この〝社会部と社会部記者を知らない〟新任部長の所業をみつめていた。その時だけはテーブルを引ッ繰り返して、部長と女どもを引っぱたいてやりたかった。巨人軍の試合の招待券!
正力松太郎の死の後にくるもの p.056-057 私は唇を噛んで、この〝社会部と社会部記者を知らない〟新任部長の所業をみつめていた。その時だけはテーブルを引ッ繰り返して、部長と女どもを引っぱたいてやりたかった。巨人軍の試合の招待券!

年があけてから、立松がキャップの指揮下になかったので、直接の処分こそ受けなかったが、私には、「大阪読売の社会部次長はどうか」という、打診がきた。もちろん断った。すると、し

ばらくして、「週刊読売の次長はどうだ」という。私は一笑に付した。けれども、この次には、もっと悪いポストで、私は社会部から追放されるナと、感じたのであった。

なにしろ、金久保が部長になるや、千葉銀事件、鮎川金次郎事件といったような、〝危険な事件モノ〟は、全くボツになって、無難な企画モノだけで、社会面がつくられるという状態であった。金久保は社会部育ちの古参次長たちを、逐次、部外へ出していった。小島の特命をうけたらしい、〝角をためる〟部長であった。

彼は、直ちに社会部内の現況を握るため〝管内巡視〟をはじめた。当時、司法記者クラブのキャップであった私の、御進講を受けた部長は、勉強を終って銀座のバーへと流れることとなった。

余談ではあるが、やはり、書きしるしておかねばならないことがある。馴染みのバーで馴染みの女の子たちに、社会部長就任を祝われた部長は、すっかり〝その気〟になってしまって、私の眼前で、巨人軍の試合の招待券を、気前良く何枚も女どもに呉れてやるのであった。

私は唇を噛んで、この〝社会部と社会部記者を知らない〟新任部長の所業をみつめていた。女どもの嬉々としてよろこぶ有様をみていて、酒好きと女好きでは人後に落ちない私ではあったが、その時だけはテーブルを引ッ繰り返して、部長と女どもを引っぱたいてやりたかった。巨人軍の試合の招待券! ジャイアンツ・ファンのデカや検察事務官にとって、これほどの贈り物があるだろうか。

警視庁や検察庁のクラブ記者が、夜討ち朝駈けの際に、この一枚の切符をポケットに忍ばせておれば、どんなにか心強いことか! この時の私の部長不信の念が、やがて、半年余を経て、私の横井英樹殺人未遂事件への連座となり、引責退社となるのである。そして、小島常務・編集局長は、三十一年に事業本部嘱託として入社してきた正力亨を戴いて、専務、副社長を目指しているための、〝安全運転〟であると噂されていた。

五人の犯人〝生け捕り計画〟

社会部中心の記述が続いているが、読者の御寛恕を乞いたい。が何しろ、〝事件の読売〟といわれて、三面(注。四頁時代の社会面)記事でノシてきた大衆紙である。ことに、原の社会部黄金時代のあとだけに、もうしばらく、筆を進めさせて頂くこととする。

前述したような小島の〝安全運転〟ぶりや、部長やデスクの〝事件記事圧殺〟によって、当時の読売社会部は、最近の大学のように荒廃してきた。私は、心中ひそかに決意しはじめていた。何かの事件を機会に、「社会部は事件」という実物教育をやってやろう、ということである。い

うなれば、社会部記者としてのクーデターである。

p63下 わが名は「悪徳記者」 五日間連続特ダネの報道で

p63下 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 こうして、五日間にわたり、最後の安藤逮捕まで、連日の朝刊で犯人逮捕を抜き続けたら、これは一体どういうことになるだろう。横井事件は一挙に解決し、しかも読売の圧勝である。
p63下 わが名は「悪徳記者」―事件記者と犯罪の間―三田和夫 1958 こうして、五日間にわたり、最後の安藤逮捕まで、連日の朝刊で犯人逮捕を抜き続けたら、これは一体どういうことになるだろう。横井事件は一挙に解決し、しかも読売の圧勝である。

本部専従員八十名、全国十五、六万人の警官を動員し、下山事件以来の大捜査陣を敷いたといわれる横井事件も、一新聞記者の私の手によって一挙に解決する。

五人の犯人を手中に納めたら、すぐ各人に記者が一名宛ついて監視する。まず第一日に一人を出す。これが読売の特ダネだ。特捜本部では感謝感激して、この犯人を逮捕するだろう、翌日、また一人逮捕させる。これもまた読売の特ダネだ。

こうして、五日間にわたり、最後の安藤逮捕まで、連日の朝刊で犯人逮捕を抜き続けたら、これは一体どういうことになるだろう。横井事件は一挙に解決し、しかも、読売の圧勝である。

私はそれこそ〝日本一の社会部記者〟である。そしてまた、警視総監賞をうける最高の捜査協力者である。本年度の菊池寛賞もまた私個人に与えられるかも知れない。各社の横井事件担当記者は、いずれも進退伺いを出さざるを得ないであろう。

この五日間連続特ダネの報道で、読売の声価はつとに高まり、「事件の読売」「社会部の読売」の評価が、全国四百万読者に湧き起るであろう。会社の名誉でもある。〝百年記者を養うのは、この一日のため〟である。

二人目の犯人を出した時、警視庁は怪しいとカンぐるかも知れない。そして、残りを一度に欲しいと、社会部長か編集局長に交渉してくるだろう。刑事部長と捜査二課長の懇請を入れて、三日目に全員を逮捕させてもいいだろう。

私の構想ほ、とてつもない大きさでひろがっていった。 この計画を或は他の記者は、空想として笑殺するかも知れない。