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迎えにきたジープ Contents.002-003 目次

迎えにきたジープ Contents.002-003
迎えにきたジープ Contents.002-003

私こそスパイなのだ

吹雪の夜の秘密

読売の「幻兵団」キャンペイン

ソ連的〝間抜け〟

細菌研究所を探れ

招かれざるハレモノ客

七変化の〝狸穴〟御殿

三つの工作段階

ヤミルーブルを漁る大阪商社

街に流れ出したソ連色

東京細菌戦始末記

作られない捕虜名簿の秘密

マイヨール・キリコフの着任

帰ってきたダンサーたち

バイラス病原菌の培養成功

朝鮮戦線に発生した奇病

アメリカは日本に原爆を貯蔵?

国際犯罪の教官、情報ギャング

ウソ発見機の密室

押しボタン戦争の原爆投下

迎えにきたジープ

怪自動車の正体

新版〝ハダカの王様〟

せせり出てきた敵役

三橋と消えた八人

スパイ人と日本人

付、事件日誌

あとがき

迎えにきたジープ p.042-043 潤沢にパンなどを入手

迎えにきたジープ p.042-043 Eventually, the day came when this question was solved as my own experience. I was called by a sentry on a snowstorm night.
迎えにきたジープ p.042-043 Eventually, the day came when this question was solved as my own experience. I was called by a sentry on a snowstorm night.

ソ連側の混乱しきっていた俘虜政策が着々と整備されてきた。俘虜カードの作成もはじめられた。だが、やがて腑に落ちかねる現象が現れはじめてきた。

その一つは、或る種の個人に対する特殊な身上調査が行われていること。特殊なというのは、当然その任にある人事係将校が行うものではなく、思想係の政治部将校がやっていることだった。しかも、呼び出しには作業係将校の名が用いられ、面接したのは思想係だったというような事実もあった。

 その二は、人事係のカミシャ(検査)と称して、〝モスクワからきた〟といわれる将校が、ある種の日本人をよんで、直接、身上並に思想調査を行った。ある種というのは、殆どが大学高専卒の人間で、しかも原職が鉄道、通信関係や、商大、高商卒の英語関係者であった。

 その三は、もはや二冬を経過して、ソ連にもちこんだ私物は、被服、貴重品類ともに、略奪されるか、売尽くすかでスッカラカンになっていた。そんなわけで金(ルーブル紙幣)がないはずの人間が大金をもっている。或は潤沢にパン、煙草、菓子などを入手しているという不思議である。

 その四は、ある時期からその人間の性格が一変して、ふさぎこんでくること。しかも、それらの連中は、何かと尤もらしい理由のもとに、しばしば収容所司令部に呼び出された。そして、そののちにそのように変化するか、変った後において呼び出されるようになるか、そのどちらかである。

 ソ連のスパイ政治——収容所内の密告者——前職者、反ソ分子の摘発——シベリヤ民主運動における〝日本新聞〟の指導方針——民主グループ員の活動——思想係の政治部NK(エヌカー)将校——呼出しとそれにからまる四つの疑問——収容所内のスパイ——ソ連のスパイ政治。

 これらのことがいずれも相関連して、疑惑の影を深めていった。

 作業場ではソ連労働者が『ソ米戦争は始まるだろうか』『お前達の新聞には次の戦争のことを何とかいているか』としきりにたずねていた。「日本新聞」の反ソ(反米?)宣伝は泥臭いあくどさでしつように続けられている。アメリカ——日本——ソ連。そしてスパイ。私は心中ひそかにうなずいていたのだった。

 そして、やがてこの疑問が私自身の体験となって解かれる日がやってきた。私はある吹雪の夜に歩哨に呼び出されたのである。

三 吹雪の夜の秘密

『ミータ、ミータ』兵舎の入口で歩哨が声高に私を呼んでいる。それは昭和二十二年二月八日の夜八時ごろのことだった。去年の十二月はじめにもう零下五十二度を記録したほどで、二月といえば冬のさ中だった。北緯五十四度という、八月の末には早くも初雪のチラつくこのあたりでは、来る日も来る日も雪曇りのようなうっとうしさの中で、刺すように痛い寒風が雪の氷粒をサアーッサアーッと転がし廻している。

もう一週間も続いている深夜の炭坑作業に疲れ切った私は、二段寝台の板の上に横になったまま、寝つかれずにイライラしている処だった。

——来たな! やはり今夜もか?

今までもう二回もひそかに司令部に呼び出されて、思想係将校に取調べをうけていた私は、

直感的に今夜の呼び出しの重大さを感じとって、返事をしながら上半身を起した。