だが、この総会で、一つ解せないのは、人事が全く取りあげられなかったことである。どうも福井社長と栗田との間に、ある〝密約〟があって、今期は人事をイジらず、粉飾の後始末を福井
にやらせる、という感じである。亨の副社長もまた一息ついた、というところだ。
報知、日本テレ、タワーが駄目……
さて、日テレでの仕事がなくなったとなると、亨の行く道は、ジャイアンツのオーナーばかりである。読売巨人軍はどうなるか。
亨をかばう人はいう。「巨人の五連覇は、亨オーナーの功績である」と。同時に、川上との不仲を伝えて、巨人軍に変動がおきるという説もでてくる。しかし、プロ野球のオーナーと、株式会社の社長の経営的成果とは、同一には論じられまい。
読売巨人軍をもっているのは、読売興業株式会社で、野球部と新聞部がある(注。新聞部は、九州読売を経営している)。代表取締役は、正力の他に、務台、山岡重孝(読売専務)、亨の四人であった。亨オーナーというのは、読売興業の代取としてである。
亨と川上の仲は、いわゆる悪感情とか憎悪とかではない。川上の人柄のせいもあって、しかも、川上の正力依存の度が強かったことも加わり、決して、親しくはないが、不仲でもない。だから
正力が死んでも、亨が川上を追い出すといったような、〝異変〟がおこる可能性は全くない。
次期監督の立場におかれているのは、長島と藤田。しかし、藤田は個人的に夫人の系累問題で人望がなく、長島に水をあけられている。ところが、長島はまた、まだまだ現役プレイヤーとしての効率がよいから、川上の後任というには、ワン・ポイントあるとみられている。つまり、川上引退の時期には、暫定監督に、巨人出身者をもってきて、長島の時代になる、という観測が、おおむね順当のようである。
それよりも、正力の〝忠臣〟鈴木竜二セ・リーグ会長の後任如何が、巨人のあり方に変動をきたすという。つまり、ポスト・ショーリキではなくて、ポスト・スズキだ、というのである。それは、読売本社でもいえることだが、ポスト・ムタイと同じである。
セ・リーグの中で、巨人が日程その他すべての点で優遇されているのは、もはや、大正力の余光や亨オーナーの〝功績〟ではなくて、鈴木の正力への忠節だけだ、とみられている。その鈴木が、最近体力的に会長がムリになってきている、といわれている。
巨人のあげる収益は、最近はやや鈍化してきているとはいえ、年間一億円以上。やはり読売新聞にとっても、ドル箱である。
亨オーナーが、アメリカで見てきて取り入れたフロント・システムなど、オーナーとしての努カと熱意は、球団関係者のよく認めるところで、しかも、かつてのように、父正力のモノ真似の
カミナリなども落とさず、「ア、それは議題として残そう」といったように、協調精神も芽生えてきたというから、まずは、巨人軍と川上野球も安泰、そして、亨オーナーも安泰と、ここばかりはメデタシメデタシというところ。亨のおちつき場所でもあろうか。