アメリカではこれらの欠点を、やはり金と力と物とで補っている。例えば大がかりな文書諜報である。公刊された各種の新聞、雑誌、書籍、ラジオ放送までの資料を最大限に集めて、その中に明らかにされている片言隻句の情報を集める。それを系統づけてゆくというやり方であ
る。
その限りではある程度の成功も納め得ているに違いない。後述のタウン・プラン・マップもその伝である。しかし、実行機関の方は常に失敗の連続で破綻を見せ、その失敗の影響が成功の面を喰い荒している。その良い例が、鹿地事件で悪名高いキャノン機関だ。
キャノン機関というのは、典型的なギャング・タイプのキャノン中佐を長として、G—2に所属していた秘密機関である。その詳細はあまりにも有名であるので、ここでは省略するが、シッポを出したのは鹿地事件ばかりではなく、枚挙にいとまがないほどである。
その暴状振りは、秘密機関というのも街のボスのそれであり、密航、密貿、略奪、バクチ、麻薬など、それこそあらゆる植民地犯罪の教育に来たギャングそのものであった。
二十九年六月二十九日、六年四ヶ月の長期にわたった警視総監を辞任した田中栄一氏も、二十三年六月のライアン大尉殺し事件でこのキャノンに脅迫されたのをはじめとして、その在任中悩まされ続けたといっている。斎藤警察庁長官と田中官房副長官との共著で「キャノン罪悪史」をまとめたならば、占領秘史として極めて有意義なものであろう。
キャノン機関と連絡を持っていたといわれる日本人は、それこそ掃いて捨てるほどいる。赤坂のナイトクラブ、ラテンクォーターに拠る児玉機関、三越前ライカビルの亜細亜産業の矢板
兄弟、これは交詢社で「バラ」という雑誌をやっていた。日動ビルの岩本機関、教文館ビルの日本通商グループの川本芳太郎元中将(31期)ら、柿ノ木坂グループの長光捷治元憲兵中佐(39期)ら、東方社の三田村四郎氏らの三田村機関、北京特機出身の日高富明元大佐(30期)らの日高機関、ハルビン特機出身の小野打寬元少将(33期)らのグループ、朝鮮人の韓道峰らの桂機関、延録機関、馬場裕輔の馬場機関など、書き切れない。
しかし、これらのやった仕事は、純粋な諜報謀略から外れており、金儲け第一主義なのである。(その詳細は第四集〔羽田25時〕を参照)
このような秘密機関のため、日本にどのように反米感情を育てあげたか、NYKビルの功罪は、まだしばらく時をかさねば明らかにはなるまい。
二 ウソ發見機の密室
NYKビルとは一体何なのだろうか。まず、この日本郵船(NYK)がもっている東京駅前の六階建のビルの実態を明らかにしなければなるまい。
一口に秘密機関といっているのは、要するに諜報謀略機関のことである。この秘密機関には、公然と非公然とがあるのは、世界各国を通じて同じである。
例えば、麻布の元ソ連代表部が、諜報謀略工作をやっていることは常識であるが、では何をどうやっているかということは明らかではない。だからこれは公然秘密機関である。警察でも 同様で、公安関係は特高といわれるように、やはり公然秘密機関でもある。