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最後の事件記者 p.292-293 あとがき

そこで、私は新しい商売を考えついた。 マス・コミのコンサルタントだ。漢字で表現すると、適当な文字がないのだが、あらゆるマス・コミの企画製作業とでもいおうか。
最後の事件記者 p.292-293 あとがき そこで、私は新しい商売を考えついた。マス・コミのコンサルタントだ。漢字で表現すると、適当な文字がないのだが、あらゆるマス・コミの企画製作業とでもいおうか。

あとがき

私が警視庁の留置場に入っている間に、妻が婦人公論の増刊「人生読本」というのに、「事件記者の妻の嘆き」という手記を書いた。発売になって読んでみると、なかなかうまいことを書いている。

門前の小僧かといって笑ったが、読売の連中にいわせると、妻の方がペンでメシが食えるのじゃないか、と、評判がいい。

「生れかわったら、新聞記者の女房になるのはやめなさいよ、などとおっしゃいますが、まったく因果な商売ではないでしょうか。三十七歳にもなった、記者生活しか知らない人間に残されたのは、やっぱりジャーナリズムでの仕事しかないと思います。家族ぐるみ事件にふりまわされるともいえる、この記者生活が、やっぱり夫の生きてゆく最良の道であるならば、新聞記

者生活に希望のもてない私も、今後、夫のよき理解者、支持者として夫を助けてゆかねばならないでしょう」

私がサッと辞表を出すと、そのやめッぷりがよかったので、安藤組の顧問にでもなるのだろうと、下品にカンぐられたものだ。もっとも、護国青年隊の隊長にも、「ウチの顧問になって下さい。月給は読売以上に出しますから」と頼まれたほどだから、そう思われるのも無理ないかもしれない。

だが、サラリーマンをやめてみて感じたことは、広そうにみえながら、新聞記者の世界の視野のせまいのに、今更のように驚いた。身体のあく時間が、世の常の人と食い違っているから、結局自分たち仲間うちばかりで飲んだり騒いだりで、社の人事問題以外に興味がなくなり、ネタミ、ソネミばかりになるのだろう。

記者でありながら、見出しをサッと眺めるだけで、新聞を読まない日がずいぶんあったことを覚えてるし、新聞を読まない記者のいることも知っている。各

紙をサッとみて、自分の担当部署で抜かれたり、落したりしていなければ、もうその新聞は御用済みだ。

今度、同じマス・コミでも、雑誌や出版の人、ラジオ・テレビの人、映画の人たちに、会ったり、話したりする機会に、多く恵まれたけれど、その中では記者の世界が、一番せまいようだ。

新聞を良くよんだり、本屋をひやかしたり、映画や芝居をみたり、そして、ものを考えたりする時間の少ない記者だから、そうなんだなと感じた。そこで、私は新しい商売を考えついた。

マス・コミのコンサルタントだ。漢字で表現すると、適当な文字がないのだが、あらゆるマス・コミの企画製作業とでもいおうか。作家にはネタを提供したり、映画の原作をみつけたり、テレビ・ドラマを監修したり、新しい法律のPR計画をたてたり……といった商売が、もうそろそろ、日本でも成立つのではないだろうか、と考えている。

新聞記者は失格したけれども、暴力団の顧問になる

よりは、面白いだろうと思っている。資本家はいませんかナ。暴力団といえば、留置場で、安藤親分に〝特別インタヴュー〟したところによると、逗子潜伏中に、三千万くれるという申し出をした資本家がいるそうだ。横井事件の真相も、詳しく調べて、近く書きたいと思う。

この本につづいて、ルポルタージュ「留置場」という本を、新春には出す予定。さらにこの本であちこちに、チョイチョイとふれた〝新聞内面の問題〟——新聞はどのように真実を伝えているだろうか? を、「新聞記者の自己批判」として、まとめてみたい。

もっとも興味をひかれているのは、昭電疑獄以来の、大きな汚職事件の真相を、えぐってみたい、ということだ。政治生命を奪われた政治家や、財界人の立場から、事件をみると、また興味津々だろうと思う。ことに、私が司法記者クラブで、直接タッチした、売春、立松、千葉銀の三大事件で、権力エゴイズムをひきだしてみたいと思う。売春汚職のため落選した元代

議士の一人は、早くも一審で無罪が確定してしまったではないか。立松事件だって、政党、検察、新聞という三つの力が、マンジトモエに入り乱れるところが、何ともいえない面白さだ。

最後の事件記者 p.294-奥付 あとがき(つづき)~奥付

最後の事件記者 p.294-奥付 昭和33年12月30日発行 著者・三田和夫 発行者・増田義彦 発行所・株式会社実業之日本社 東京都中央区銀座西1の3 印刷・佐藤印刷所
最後の事件記者 p.294-奥付 昭和33年12月30日発行 著者・三田和夫 発行者・増田義彦 発行所・株式会社実業之日本社 東京都中央区銀座西1の3 印刷・佐藤印刷所

もっとも興味をひかれているのは、昭電疑獄以来の、大きな汚職事件の真相を、えぐってみたい、ということだ。政治生命を奪われた政治家や、財界人の立場から、事件をみると、また興味津々だろうと思う。ことに、私が司法記者クラブで、直接タッチした、売春、立松、千葉銀の三大事件で、権力エゴイズムをひきだしてみたいと思う。売春汚職のため落選した元代

議士の一人は、早くも一審で無罪が確定してしまったではないか。立松事件だって、政党、検察、新聞という三つの力が、マンジトモエに入り乱れるところが、何ともいえない面白さだ。

と、こんな工合で、どうやらメシだけは、今のところは食べていられる。それでも、月のうち半分は徹夜して、安い原稿料にも、感謝の念を忘れず、せっせと働らかねば、子供たちを学校へやることもできない。ただもう眠たい時などは、つくづくサラリーマンがうらやましい。御心配を頂いた皆さんに、この場をかりて、厚く御礼申上げる次第である。

同時に、ここまで、私を成長させて下さったのは、読売新聞社をはじめとして、各新聞社の諸先輩方、同僚諸君のおかげであると、深く感謝いたさねばならない。今後ともの、御指導を併せてお願い申上げる。

この本で、今、気になるのは、文中お名前を拝借した方々の、敬称の不統一である。書きあげるそばから、工場へ行ってしまったので、手落ちがあると思

い、お詫び申しあげておかねばならない。

いわば、特ダネを追って十五年、とでもいったような内容なので、文中、大そう口はばったいところもあるが、大体がアクの強い男なので御寬恕を乞いたい。もちろん、私一人が事件記者だなどと思い上っておらず、読売をはじめ、各社にも、優秀で、敵ながら天晴れと、秘かに尊敬している記者が多いことは事実である。記者諸兄、お怒りなきように。

当然、最後の項に、横井事件を入れるべきであったのだが、文春に詳しく書いたので割愛した。なお、文春所載の「事件記者と犯罪の間」は、臼井吉見氏編の「現代教養全集、第五巻、マス・コミの世界」(筑摩書房)に収録されたので、御参考までにお知らせしておく。まだまだ、いろいろな事件についての面白い話があったのだが、時間と紙数の関係で、これも割愛せざるを得なかった。稿を改めて書きたいと思っている。

昭和三十三年十二月十五日

著 者

最後の事件記者
定価220円
昭和33年12月30日発行
著 者 三田和夫
発行者 増田義彦
発行所 株式会社 実業之日本社 東京都中央区銀座西1の3
電話京橋(56)5121~5
振替口座 東京326
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